Give and Take
「クルルさんの超える力について……?」
「ああ。この間、石の家で帝国の現状を報告している最中に、お前とクルルが俺の過去……ガレマルドでの顛末を覗いただろう。そして、お前の意識が明瞭になった直後にあの女が言っていたことが、少々気になってしまっていてな」
相談事の全容を語り終えたエスティニアンは一息をつくべく茶を口にし、冒険者は天井を仰ぎながら石の家での出来事を記憶から手繰り寄せる。
「彼女は確かあの時……「さすがに追体験をするほどの強烈な幻視じゃなかった」と言っていたかしら。そのこと?」
冒険者からの質問を受けたエスティニアンは頷くと、ティーカップをソーサーに戻した。
「まさにその点だ。あの時は報告が最優先だったので触れずじまいにせざるを得なかったが、あの時のクルルの言い方では、お前の過去視能力の方が再現度が高い、と……。それはつまり、超える力の発現のしかたには個人差がある、ということなのだろう?」
「そう……らしいわ」
「らしい、だと?」
エスティニアンは眉間に皺を寄せながら、冒険者の回答を繰り返した。
「現状で私が得ている情報では、そう答えるしかないのよ。クルルさんが以前話してくれたのだけど、彼女はバルデシオン委員会という研究機関のメンバーであり、超える力の被験者でもあってね。そこで調査をした結果、彼女には言葉の壁を超える力が強く発現していることが分かったそうなの」
「……ふむ」
「で、力で超えられる壁の種類には「言葉」「心」「時間」といったものがあって、クルルさんの場合は、その中の言葉の壁の側に能力が傾いているってわけ。そんな彼女と私があの時、同じ場面を過去視して、彼女が私のものほど強烈ではなかったと言ったのだから、クルルさんとは違う側の壁に私の能力が傾いているのか、あるいは……」
冒険者は発言をそこで一旦中断し、考え込むような素振りを見せながら茶を一口飲み下した。
「……そうね。例えば、一般の竜騎士と蒼の竜騎士との間に歴然とした能力差があるような感じのものが、クルルさんと私の間にもあるのかもしれないわ。こちらの考え方は、超える力を持つ者の中でも強い力を私が持っている、と、言われたことを根拠にしての仮説よ」
「なるほど。どちらの仮説にせよ、お前の過去視の方が強烈だったという裏付けにはなるな」
納得の言葉を口にしながら、エスティニアンは再び茶に手を伸ばす。
「……では、次だ。能力に個人差があるとして、人によっては意図的に発動させられるものなのか? 今までお前が過去視をする場面に立ち合っての印象では、突然見舞われているようにしか思えんのだが」
「私の場合は突然よ。直前に吸い込まれるような感覚があって、それには逆らえず……という感じで。帝国では超える力を人為的に注入された軍人と戦ったことがあるけど、彼女の場合は意図的に発動できていたのか、常に発動していたのか……。戦闘中は瞳の見た目が変わったからスイッチの切り替えのようなことができるみたいだけど、話をしている最中も時折こめかみを押さえていたから、常に緩く発動していたのかもしれないわ」
「人為的に超える力を注入されたとなると、部分的にはゼノスと同じということか」
「……そうね。その軍人とゼノスに注入された超える力は、クルルさんのエーテルの波形を真似て調整したらしいの」
「あの時にクルルが言っていた「アラミゴでの『超える力の研究』」が、それなんだな」
エスティニアンが寄越した確認の言葉に、冒険者は頷くことで返答をした。
「その軍人は戦闘に超える力を利用していたから厄介だったけど、再戦をした時にウリエンジェさんが作ってくれた魔器が威力を発揮してくれたから何とかなったのよね。あれがゼノスにも効けばいいのだけど……」
冒険者の話を受けたエスティニアンは沈思黙考をし、ここまでで得た情報を整理する目的なのか、座る姿勢を改めた。
「ほう。その魔器は、人為的に力を注入された者に効くのか、クルルのエーテル波形に効くのか、どちらなのだろうな?」
「私は影響を受けなかったけど、クルルさんと私のエーテル波形はおそらく違うだろうから、そこは何とも。……って、ちょっと待って。エスティニアン」
冒険者はエスティニアンと自らの間に掌をかざしながら話を中断し、ここまでの流れを頭の中で整理し始めた。
途中で帝国での超える力の研究とそれによって生み出された者たちの件を話題にしたことで、それなりに有益な議論と情報共有ができているような気はする。
が、それは本筋から脱線した内容であって、問題はそこではない。
エスティニアンは超える力全般ではなく、クルルの超える力についてを問題にしているのだ。
「貴方、もしかして今、魔器がクルルさんに効くかどうかということに興味が向いているんじゃない?」
「その通りだ」
「この前の他にも、クルルさんが過去視を?」
「……ああ。これ以上、あいつに過去を視られぬようにする手段は無いものだろうか、と思ってな」
苦渋の色を浮かべながら出されたエスティニアンの言葉を、冒険者は呆然とした表情で受け止めた。
「貴方がそれほどまでに思い悩むとは、よほどの……っ!」
同情の眼差しと共にエスティニアンへと繰り出された冒険者の言葉は、彼女が自身のこめかみを押さえることと同時に中断を余儀なくされてしまった。
「ああ。この間、石の家で帝国の現状を報告している最中に、お前とクルルが俺の過去……ガレマルドでの顛末を覗いただろう。そして、お前の意識が明瞭になった直後にあの女が言っていたことが、少々気になってしまっていてな」
相談事の全容を語り終えたエスティニアンは一息をつくべく茶を口にし、冒険者は天井を仰ぎながら石の家での出来事を記憶から手繰り寄せる。
「彼女は確かあの時……「さすがに追体験をするほどの強烈な幻視じゃなかった」と言っていたかしら。そのこと?」
冒険者からの質問を受けたエスティニアンは頷くと、ティーカップをソーサーに戻した。
「まさにその点だ。あの時は報告が最優先だったので触れずじまいにせざるを得なかったが、あの時のクルルの言い方では、お前の過去視能力の方が再現度が高い、と……。それはつまり、超える力の発現のしかたには個人差がある、ということなのだろう?」
「そう……らしいわ」
「らしい、だと?」
エスティニアンは眉間に皺を寄せながら、冒険者の回答を繰り返した。
「現状で私が得ている情報では、そう答えるしかないのよ。クルルさんが以前話してくれたのだけど、彼女はバルデシオン委員会という研究機関のメンバーであり、超える力の被験者でもあってね。そこで調査をした結果、彼女には言葉の壁を超える力が強く発現していることが分かったそうなの」
「……ふむ」
「で、力で超えられる壁の種類には「言葉」「心」「時間」といったものがあって、クルルさんの場合は、その中の言葉の壁の側に能力が傾いているってわけ。そんな彼女と私があの時、同じ場面を過去視して、彼女が私のものほど強烈ではなかったと言ったのだから、クルルさんとは違う側の壁に私の能力が傾いているのか、あるいは……」
冒険者は発言をそこで一旦中断し、考え込むような素振りを見せながら茶を一口飲み下した。
「……そうね。例えば、一般の竜騎士と蒼の竜騎士との間に歴然とした能力差があるような感じのものが、クルルさんと私の間にもあるのかもしれないわ。こちらの考え方は、超える力を持つ者の中でも強い力を私が持っている、と、言われたことを根拠にしての仮説よ」
「なるほど。どちらの仮説にせよ、お前の過去視の方が強烈だったという裏付けにはなるな」
納得の言葉を口にしながら、エスティニアンは再び茶に手を伸ばす。
「……では、次だ。能力に個人差があるとして、人によっては意図的に発動させられるものなのか? 今までお前が過去視をする場面に立ち合っての印象では、突然見舞われているようにしか思えんのだが」
「私の場合は突然よ。直前に吸い込まれるような感覚があって、それには逆らえず……という感じで。帝国では超える力を人為的に注入された軍人と戦ったことがあるけど、彼女の場合は意図的に発動できていたのか、常に発動していたのか……。戦闘中は瞳の見た目が変わったからスイッチの切り替えのようなことができるみたいだけど、話をしている最中も時折こめかみを押さえていたから、常に緩く発動していたのかもしれないわ」
「人為的に超える力を注入されたとなると、部分的にはゼノスと同じということか」
「……そうね。その軍人とゼノスに注入された超える力は、クルルさんのエーテルの波形を真似て調整したらしいの」
「あの時にクルルが言っていた「アラミゴでの『超える力の研究』」が、それなんだな」
エスティニアンが寄越した確認の言葉に、冒険者は頷くことで返答をした。
「その軍人は戦闘に超える力を利用していたから厄介だったけど、再戦をした時にウリエンジェさんが作ってくれた魔器が威力を発揮してくれたから何とかなったのよね。あれがゼノスにも効けばいいのだけど……」
冒険者の話を受けたエスティニアンは沈思黙考をし、ここまでで得た情報を整理する目的なのか、座る姿勢を改めた。
「ほう。その魔器は、人為的に力を注入された者に効くのか、クルルのエーテル波形に効くのか、どちらなのだろうな?」
「私は影響を受けなかったけど、クルルさんと私のエーテル波形はおそらく違うだろうから、そこは何とも。……って、ちょっと待って。エスティニアン」
冒険者はエスティニアンと自らの間に掌をかざしながら話を中断し、ここまでの流れを頭の中で整理し始めた。
途中で帝国での超える力の研究とそれによって生み出された者たちの件を話題にしたことで、それなりに有益な議論と情報共有ができているような気はする。
が、それは本筋から脱線した内容であって、問題はそこではない。
エスティニアンは超える力全般ではなく、クルルの超える力についてを問題にしているのだ。
「貴方、もしかして今、魔器がクルルさんに効くかどうかということに興味が向いているんじゃない?」
「その通りだ」
「この前の他にも、クルルさんが過去視を?」
「……ああ。これ以上、あいつに過去を視られぬようにする手段は無いものだろうか、と思ってな」
苦渋の色を浮かべながら出されたエスティニアンの言葉を、冒険者は呆然とした表情で受け止めた。
「貴方がそれほどまでに思い悩むとは、よほどの……っ!」
同情の眼差しと共にエスティニアンへと繰り出された冒険者の言葉は、彼女が自身のこめかみを押さえることと同時に中断を余儀なくされてしまった。