星芒祭の過ごし方
──黒衣森は精霊に守られている。
そのようにグリダニアの人々は常日頃から口にしているが、星芒祭の時期になると精霊の加護が霊6月を支配するアルジクもろとも、翌月に控えているハルオーネの属性に圧されてしまうのだろうか。
あるいは、市街にくまなく施された星芒祭の煌びやかな装飾を思い思いに楽しむ人々が更なる装飾効果を心の内で自然に対して求めた結果、このように雪がちらつくのかもしれない。
はらりと舞い降りてくる雪をその手に捉えられるとでも思っているのか、子どもたちが楽しげに駆け回る中で時折両手を天に向け広げる様子をエスティニアンは横目で窺いながら、相棒たる光の戦士の気配が在る場を目指してグリダニア市街を歩んでいた。
エーテライト・プラザから水車四辻を経て旧市街に入ると人々のざわめきは一層その厚みを増し、その先からはざわめきを掻き分けて混声の合唱が聴こえてくる。
野外音楽堂が星芒祭の音楽会会場とされ、行き交う大勢の人々はそこを目的地としているのだ、と遅蒔きながらに確信を持つことのできたエスティニアンは、この群衆の中から相棒を探し出さねばならない可能性にも気付き、音楽堂の敷地に足を踏み入れると、空席となっていた客席の最後列の端に腰を下ろしてからため息を吐いた。
最後列から見渡す形になったとはいえ、エレゼン族の体格が幸いし、腰掛けた状態でも客席や舞台の様子はくまなく観察をすることができる。
舞台の上では双蛇党の隊士と思しき数名の男女が合唱をし、その後ろでは一羽のチョコボが指揮者の振るタクトに合わせて、まるで踊っているかのように立ち回っていた。
星芒祭にちなんだ衣装をチョコボが纏わされているからか、踊るような動きに興味をそそられるのか、客席の子どもたちの視線は主にチョコボへと注がれている。
指揮者とチョコボが舞台衣装となっている一方、合唱隊の側は何故か無骨な兵装のままで登壇をしている点にエスティニアンは苦笑をし、客席の最前列に視線を移すと端から順に客の後ろ姿を検めることで光の戦士を探し始めた。
自らの座る最後列のひとつ前の列までを見終わったエスティニアンは真横を向き、最後列に座る客たちの横顔を確認してから首を傾げる。
次いで正面に向き直り、眉間に皺が寄る程にきつく両目を瞑ると片手の親指と中指を両眉の上にあてがい、目の上を数回揉みほぐした。
この場に相棒の気配は感じられるが、今の一巡で客席にその姿を認めることができなかった。
となると、彼女は客としてではなく裏方として舞台裏にでも控えているのかもしれない。
どんな仕事でも頼まれれば基本的には断らないと日頃から口にしているあいつのことだ、その可能性は大いにあり得る。
だとしたら、顔を合わせること自体に想定外の手間がかかりそうだ。
エスティニアンが目を瞑ったまま脳裏にそのような憶測を廻らせている中で合唱が終わり、周囲からは拍手が沸き上がる。
客席に座っている以上、形だけでも拍手はしておかねばなるまい。
エオルゼア中を放浪する中で身に付いた一応の処世術なのか、エスティニアンにしては殊勝な発想を元にして始められた拍手は、客席に向かって深々と頭を下げて返礼の姿を見せていた指揮者が姿勢を正した瞬間、中断を余儀なくされた。
(そんな所に!)
指揮者を務めていたのが光の戦士であったという点があまりに想定外であったために思わず立ち上がり、危うく口にしかけた言葉を呑み込んで呆然とした表情で指揮者を凝視するエスティニアンを見た隣の客が、あろうことかその行動をスタンディングオベーションをするものと解釈してしまい、彼に続けて立ち上がり賞賛の声を上げた後に拍手をし始める。
更には他の客が次々に同様の行動を始めて客席中にくまなく歓喜の渦が行き渡り、やがてそれは演者たちがアンコールに応えるという形にまで発展をしてしまった。
(こうなってしまっては、今しばらく待つしかない……か)
微かな舌打ちの後、先ほどとは別の意味を含み出されたエスティニアンのため息は、仄かな白を帯びてから会場内の熱気へと溶け込んでいった。
急遽追加された演目を終えて、この日の音楽会は終了となった。
客たちが会場を後にする中で観客席の一角では光の戦士が、合唱隊の一員として登壇していたエレゼン族の男性とチョコボと共に、男性の家族と思しき少年と談笑を始めている。
その様子を遠巻きに見守っていたエスティニアンは、彼女が彼らと別れた直後にようやく当初の目的を達成することに成功した。
「稀代の冒険者殿は、本当に何でも引き受けてしまうんだな」
「エスティニアン! い……いつから見ていたの!?」
呼び掛けに振り向いて驚きの表情を見せる冒険者の様子に、エスティニアンは口角を上げる。
「終わりの二曲の途中からだ」
「そうだったの。指揮に集中していたから全然気が付かなかったわ」
「お前は客席に背を向けていたのだから、そこは致し方なかろう。俺もお前が客の側に向き直るまで、指揮者がお前だとは気付けなかったしな」
そう言いながらエスティニアンは肩を竦め、その様子を見た冒険者はクスクスと笑う。
「ところで、終わってから客席で話をしていたエレゼンの男と坊主は親子なのか?」
このエスティニアンの質問は冒険者にとって意外なものであったのか、彼女は目を丸くしてから応じた。
「ええ。お父さんがこの公演の練習で時間を取られていることを内緒にしていて、それで息子さん……ナリポンク君が、星芒祭をお父さんと過ごせないのが寂しいと思ってしまっていたんですって」
話をしながら目の前の客席に冒険者が腰を下ろすと、続けてその隣にエスティニアンも腰を下ろした。
「ふむ。なるほど」
「それがどうかしたの?」
考え込みながら応じるエスティニアンを見た冒険者が、今度はその首を傾げる。
「……いや。俺があの坊主ほどの歳の頃には、あれよりは親の事情を聞き分けていたように思ってな。都市住まいと田舎住まいという環境の差か。あるいは坊主は一人っ子で、俺には弟が居たからか。兄弟が居るのならこのような場では連れ立っているだろうから、一人っ子の可能性が濃厚かもしれん」
「兄の立場だと、子どもなりに自分を律したりするものなの?」
「多少は、な。星芒祭の時期に一度、皇都へ仕事をしに行った親父が悪天候で数日戻れず、弟が泣きまくった時は大変だったぞ」
「弟さんもナリポンク君みたいに、お父さんと過ごせないことが寂しかったんじゃないの?」
「さて、どうだろうか。他の時期に親父が数日留守になっても平気な奴が星芒祭の時に限ってぐずったのはおそらく、聖人の従者さまからの贈り物が待ちきれなかったのだと思うが」
「それって……」
呆然とする冒険者を見て、エスティニアンはその肩を竦める。
「その時は俺も贈り物のことが気掛かりではあったが、弟と共に不平を言ってはお袋が困るだけだからな。自然となだめる側になったのが、いつの間にか身に付いていた兄の立場というやつなのだろう」
そう語りながら、亡き弟の姿を脳裏に思い浮かべているのだろうか。
エスティニアンの瞳は周囲の賑わいを映しながら、同時に別のものを見ているかのような光を帯びていた。
「つまるところ、弟ってのは基本的に奔放な生き物なのさ。状況が判っていて、時折あえて周囲を困らせる行動を取るのが「弟らしさ」の一端といったところか。フォルタン家の次男坊をイメージすれば分かりやすいだろう?」
「あっ、確かにそうね」
一転して皮肉を帯びた笑いを浮かべながら続けられたエスティニアンの話を聞き、途端に納得をした冒険者もひとしきり笑う。
「きっとアルトアレール卿の子ども時代は、エスティニアンよりも大変だったでしょうね」
「ククッ……違いない」
グリダニアの片隅で雑談に盛り込まれ笑われているなど当の御曹司たちは知る由もなく、今頃はそれぞれがどこかでくしゃみをしているかもしれない。
「今の話は当然、第七霊災前の話なんだが、今ほどに寒くはなかったイシュガルドでも、このような屋外での催事は無くてな」
「そうだったの。エスティニアンが知るいつの時代を見ても、ほとんどが竜詩戦争のさなかだものね。私が教わった星芒祭の起源となった逸話も建国後だから戦争中なわけだし、凍える子どもたちに外套を着せて兵舎に招き入れたという内容だから、主に屋内での話になるし」
「ああ。だからなのか、この光景には少々の違和感を覚えてしまっているのが正直なところだ」
一拍置き、こう言ってしまってはここで催事を楽しんでいる奴らには悪いがな、と付け加えるエスティニアンを見た冒険者は、今のものも先ほど語って聞かされた「兄の立場」に起因して無意識に出た発言なのかもしれない、などと思いながらも、悟られぬようにそれを微笑みで包み隠す。
「じゃあ、イシュガルドの……子どもの頃の星芒祭の過ごし方は、どんな感じだったの?」
冒険者の質問にエスティニアンは、チラリと彼女へと視線を送ってから天を仰ぎ、語り始めた。
「俺の故郷では、家族が揃って美味い料理を食いながら少しばかり長い夜を過ごす日、という感じだったな。普段の食事は質素なものだから、この季節になると、沢山の料理で食卓が埋め尽くされる日を待ち遠しく思ったものさ」
エスティニアンは語り終えると瞼を閉じ、口許に穏やかな笑みを浮かべながらゆっくりと息を吐く。
「……それでだ、相棒」
そう言いながら冒険者を改めて見据えると、どうやら彼女はこの先の展開を測りかねている模様で、小首を傾げながら続く話を待ち構えていた。
「俺が今日ここに来た理由なんだが、実は、お前と美味いものを食おうかと思ってな。これからどうだ?」
「えっ?」
冒険者は短く応えた後にその目を見開き、驚きの表情でエスティニアンを改めて見上げる。
その彼女の様子がおかしかったのか、あるいは愛おしく思えたのか。
エスティニアンは冒険者を見ながら鼻で笑うと、話を続けた。
「俺がそのつもりで来ても、お前にとっては突然の話だからな。どこか適当な店で食事をするもよし、これから準備をするもよし。そこはお前の好きにしてくれればいい」
驚きの表情のままエスティニアンの話を聞き終えた冒険者は、直後に満面の笑みを浮かべた。
「そういうことなら、これから一緒に美味しいものを沢山作りたいわ。まず、ご両親がどんな料理を作ってくれたのかを教えてちょうだい。ここで揃えられる材料と私の腕でどれだけ再現できるかはわからないけど、私たちで食卓を埋め尽くしましょう」
「よし、決まりだ」
満足気な笑みを見せたエスティニアンは自らの両膝を掌で叩いた後に勢い良く立ち上がり、冒険者もそれに続いて立ち上がる。
「でも、これから用意をするとなると、それなりに時間がかかってしまうわよ。いいの?」
軽く困惑をしながらの冒険者の言をエスティニアンは再び鼻で笑う。
笑われたことに膨らませた頬で応酬をした冒険者は、エスティニアンから突如差し出された片手の親指と中指で両頬を挟まれ、英雄にあるまじき表情にさせられてしまった。
冒険者は暴挙に及んできたエスティニアンの手首を掴み抗議の意思を顕わにしたのだが、しかしそんなことで彼の腕は微動だにせず。
その奇妙な体勢のままエスティニアンは相棒を見据えると、こう回答をした。
「構わんさ。星芒祭の夜は、少し長いのだからな」
~ 完 ~
初出/2019年12月30日 pixiv&Privatter
『第41回FF14光の戦士NLお題企画』の『星芒祭』参加作品
そのようにグリダニアの人々は常日頃から口にしているが、星芒祭の時期になると精霊の加護が霊6月を支配するアルジクもろとも、翌月に控えているハルオーネの属性に圧されてしまうのだろうか。
あるいは、市街にくまなく施された星芒祭の煌びやかな装飾を思い思いに楽しむ人々が更なる装飾効果を心の内で自然に対して求めた結果、このように雪がちらつくのかもしれない。
はらりと舞い降りてくる雪をその手に捉えられるとでも思っているのか、子どもたちが楽しげに駆け回る中で時折両手を天に向け広げる様子をエスティニアンは横目で窺いながら、相棒たる光の戦士の気配が在る場を目指してグリダニア市街を歩んでいた。
エーテライト・プラザから水車四辻を経て旧市街に入ると人々のざわめきは一層その厚みを増し、その先からはざわめきを掻き分けて混声の合唱が聴こえてくる。
野外音楽堂が星芒祭の音楽会会場とされ、行き交う大勢の人々はそこを目的地としているのだ、と遅蒔きながらに確信を持つことのできたエスティニアンは、この群衆の中から相棒を探し出さねばならない可能性にも気付き、音楽堂の敷地に足を踏み入れると、空席となっていた客席の最後列の端に腰を下ろしてからため息を吐いた。
最後列から見渡す形になったとはいえ、エレゼン族の体格が幸いし、腰掛けた状態でも客席や舞台の様子はくまなく観察をすることができる。
舞台の上では双蛇党の隊士と思しき数名の男女が合唱をし、その後ろでは一羽のチョコボが指揮者の振るタクトに合わせて、まるで踊っているかのように立ち回っていた。
星芒祭にちなんだ衣装をチョコボが纏わされているからか、踊るような動きに興味をそそられるのか、客席の子どもたちの視線は主にチョコボへと注がれている。
指揮者とチョコボが舞台衣装となっている一方、合唱隊の側は何故か無骨な兵装のままで登壇をしている点にエスティニアンは苦笑をし、客席の最前列に視線を移すと端から順に客の後ろ姿を検めることで光の戦士を探し始めた。
自らの座る最後列のひとつ前の列までを見終わったエスティニアンは真横を向き、最後列に座る客たちの横顔を確認してから首を傾げる。
次いで正面に向き直り、眉間に皺が寄る程にきつく両目を瞑ると片手の親指と中指を両眉の上にあてがい、目の上を数回揉みほぐした。
この場に相棒の気配は感じられるが、今の一巡で客席にその姿を認めることができなかった。
となると、彼女は客としてではなく裏方として舞台裏にでも控えているのかもしれない。
どんな仕事でも頼まれれば基本的には断らないと日頃から口にしているあいつのことだ、その可能性は大いにあり得る。
だとしたら、顔を合わせること自体に想定外の手間がかかりそうだ。
エスティニアンが目を瞑ったまま脳裏にそのような憶測を廻らせている中で合唱が終わり、周囲からは拍手が沸き上がる。
客席に座っている以上、形だけでも拍手はしておかねばなるまい。
エオルゼア中を放浪する中で身に付いた一応の処世術なのか、エスティニアンにしては殊勝な発想を元にして始められた拍手は、客席に向かって深々と頭を下げて返礼の姿を見せていた指揮者が姿勢を正した瞬間、中断を余儀なくされた。
(そんな所に!)
指揮者を務めていたのが光の戦士であったという点があまりに想定外であったために思わず立ち上がり、危うく口にしかけた言葉を呑み込んで呆然とした表情で指揮者を凝視するエスティニアンを見た隣の客が、あろうことかその行動をスタンディングオベーションをするものと解釈してしまい、彼に続けて立ち上がり賞賛の声を上げた後に拍手をし始める。
更には他の客が次々に同様の行動を始めて客席中にくまなく歓喜の渦が行き渡り、やがてそれは演者たちがアンコールに応えるという形にまで発展をしてしまった。
(こうなってしまっては、今しばらく待つしかない……か)
微かな舌打ちの後、先ほどとは別の意味を含み出されたエスティニアンのため息は、仄かな白を帯びてから会場内の熱気へと溶け込んでいった。
急遽追加された演目を終えて、この日の音楽会は終了となった。
客たちが会場を後にする中で観客席の一角では光の戦士が、合唱隊の一員として登壇していたエレゼン族の男性とチョコボと共に、男性の家族と思しき少年と談笑を始めている。
その様子を遠巻きに見守っていたエスティニアンは、彼女が彼らと別れた直後にようやく当初の目的を達成することに成功した。
「稀代の冒険者殿は、本当に何でも引き受けてしまうんだな」
「エスティニアン! い……いつから見ていたの!?」
呼び掛けに振り向いて驚きの表情を見せる冒険者の様子に、エスティニアンは口角を上げる。
「終わりの二曲の途中からだ」
「そうだったの。指揮に集中していたから全然気が付かなかったわ」
「お前は客席に背を向けていたのだから、そこは致し方なかろう。俺もお前が客の側に向き直るまで、指揮者がお前だとは気付けなかったしな」
そう言いながらエスティニアンは肩を竦め、その様子を見た冒険者はクスクスと笑う。
「ところで、終わってから客席で話をしていたエレゼンの男と坊主は親子なのか?」
このエスティニアンの質問は冒険者にとって意外なものであったのか、彼女は目を丸くしてから応じた。
「ええ。お父さんがこの公演の練習で時間を取られていることを内緒にしていて、それで息子さん……ナリポンク君が、星芒祭をお父さんと過ごせないのが寂しいと思ってしまっていたんですって」
話をしながら目の前の客席に冒険者が腰を下ろすと、続けてその隣にエスティニアンも腰を下ろした。
「ふむ。なるほど」
「それがどうかしたの?」
考え込みながら応じるエスティニアンを見た冒険者が、今度はその首を傾げる。
「……いや。俺があの坊主ほどの歳の頃には、あれよりは親の事情を聞き分けていたように思ってな。都市住まいと田舎住まいという環境の差か。あるいは坊主は一人っ子で、俺には弟が居たからか。兄弟が居るのならこのような場では連れ立っているだろうから、一人っ子の可能性が濃厚かもしれん」
「兄の立場だと、子どもなりに自分を律したりするものなの?」
「多少は、な。星芒祭の時期に一度、皇都へ仕事をしに行った親父が悪天候で数日戻れず、弟が泣きまくった時は大変だったぞ」
「弟さんもナリポンク君みたいに、お父さんと過ごせないことが寂しかったんじゃないの?」
「さて、どうだろうか。他の時期に親父が数日留守になっても平気な奴が星芒祭の時に限ってぐずったのはおそらく、聖人の従者さまからの贈り物が待ちきれなかったのだと思うが」
「それって……」
呆然とする冒険者を見て、エスティニアンはその肩を竦める。
「その時は俺も贈り物のことが気掛かりではあったが、弟と共に不平を言ってはお袋が困るだけだからな。自然となだめる側になったのが、いつの間にか身に付いていた兄の立場というやつなのだろう」
そう語りながら、亡き弟の姿を脳裏に思い浮かべているのだろうか。
エスティニアンの瞳は周囲の賑わいを映しながら、同時に別のものを見ているかのような光を帯びていた。
「つまるところ、弟ってのは基本的に奔放な生き物なのさ。状況が判っていて、時折あえて周囲を困らせる行動を取るのが「弟らしさ」の一端といったところか。フォルタン家の次男坊をイメージすれば分かりやすいだろう?」
「あっ、確かにそうね」
一転して皮肉を帯びた笑いを浮かべながら続けられたエスティニアンの話を聞き、途端に納得をした冒険者もひとしきり笑う。
「きっとアルトアレール卿の子ども時代は、エスティニアンよりも大変だったでしょうね」
「ククッ……違いない」
グリダニアの片隅で雑談に盛り込まれ笑われているなど当の御曹司たちは知る由もなく、今頃はそれぞれがどこかでくしゃみをしているかもしれない。
「今の話は当然、第七霊災前の話なんだが、今ほどに寒くはなかったイシュガルドでも、このような屋外での催事は無くてな」
「そうだったの。エスティニアンが知るいつの時代を見ても、ほとんどが竜詩戦争のさなかだものね。私が教わった星芒祭の起源となった逸話も建国後だから戦争中なわけだし、凍える子どもたちに外套を着せて兵舎に招き入れたという内容だから、主に屋内での話になるし」
「ああ。だからなのか、この光景には少々の違和感を覚えてしまっているのが正直なところだ」
一拍置き、こう言ってしまってはここで催事を楽しんでいる奴らには悪いがな、と付け加えるエスティニアンを見た冒険者は、今のものも先ほど語って聞かされた「兄の立場」に起因して無意識に出た発言なのかもしれない、などと思いながらも、悟られぬようにそれを微笑みで包み隠す。
「じゃあ、イシュガルドの……子どもの頃の星芒祭の過ごし方は、どんな感じだったの?」
冒険者の質問にエスティニアンは、チラリと彼女へと視線を送ってから天を仰ぎ、語り始めた。
「俺の故郷では、家族が揃って美味い料理を食いながら少しばかり長い夜を過ごす日、という感じだったな。普段の食事は質素なものだから、この季節になると、沢山の料理で食卓が埋め尽くされる日を待ち遠しく思ったものさ」
エスティニアンは語り終えると瞼を閉じ、口許に穏やかな笑みを浮かべながらゆっくりと息を吐く。
「……それでだ、相棒」
そう言いながら冒険者を改めて見据えると、どうやら彼女はこの先の展開を測りかねている模様で、小首を傾げながら続く話を待ち構えていた。
「俺が今日ここに来た理由なんだが、実は、お前と美味いものを食おうかと思ってな。これからどうだ?」
「えっ?」
冒険者は短く応えた後にその目を見開き、驚きの表情でエスティニアンを改めて見上げる。
その彼女の様子がおかしかったのか、あるいは愛おしく思えたのか。
エスティニアンは冒険者を見ながら鼻で笑うと、話を続けた。
「俺がそのつもりで来ても、お前にとっては突然の話だからな。どこか適当な店で食事をするもよし、これから準備をするもよし。そこはお前の好きにしてくれればいい」
驚きの表情のままエスティニアンの話を聞き終えた冒険者は、直後に満面の笑みを浮かべた。
「そういうことなら、これから一緒に美味しいものを沢山作りたいわ。まず、ご両親がどんな料理を作ってくれたのかを教えてちょうだい。ここで揃えられる材料と私の腕でどれだけ再現できるかはわからないけど、私たちで食卓を埋め尽くしましょう」
「よし、決まりだ」
満足気な笑みを見せたエスティニアンは自らの両膝を掌で叩いた後に勢い良く立ち上がり、冒険者もそれに続いて立ち上がる。
「でも、これから用意をするとなると、それなりに時間がかかってしまうわよ。いいの?」
軽く困惑をしながらの冒険者の言をエスティニアンは再び鼻で笑う。
笑われたことに膨らませた頬で応酬をした冒険者は、エスティニアンから突如差し出された片手の親指と中指で両頬を挟まれ、英雄にあるまじき表情にさせられてしまった。
冒険者は暴挙に及んできたエスティニアンの手首を掴み抗議の意思を顕わにしたのだが、しかしそんなことで彼の腕は微動だにせず。
その奇妙な体勢のままエスティニアンは相棒を見据えると、こう回答をした。
「構わんさ。星芒祭の夜は、少し長いのだからな」
~ 完 ~
初出/2019年12月30日 pixiv&Privatter
『第41回FF14光の戦士NLお題企画』の『星芒祭』参加作品
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