××しないと出られない部屋
「さて、このへんで小休止……っと」
ロッホ・セル湖の北端でひとり採掘作業に勤しんでいた光の戦士は、愛用のモールをホルダーに納めてから背伸びをし、呟いた。
眼前に広がる湖面は西からに傾きかけた陽光を受け、美しく輝いている。
湖の左手方向に見えるのは、アラミゴ城の巨大な城壁だ。
この地が戦場となっていた時分では、壮大な風景をこのように眺める余裕など無かった。
そしてこの地に住まう人々は、このように採掘をすることすらも叶わなかったのだろう。
などと、アラミゴ奪還の戦いに身を投じていた当時を回想しながら敷布を広げ、次いで竜騎士の証を身に付けてから敷布の上に腰を下ろした。
鞄の中から水筒を取り出し、茶をマグカップに三口分ほどを注いで口にする。
冷めた茶が渇いた喉を潤していくさまを感じながら、今は不意の襲撃に警戒をする必要はほぼ無いのだから、一時的に戦闘職になどならず、茶も、もう少し注いでも良かったかもしれない、と、冒険者は自らの身に染み付いた癖に対して苦笑をした。
ともあれ喉の渇きは癒されたのだから、あとは陽が落ちるくらいまで作業をしてから戻るとしよう。
そのように考えながら水筒とマグカップを片付け立ち上がると、敷布の一辺の両端を握り締めて数回振り回し、裏面に付着した土埃を払う。
敷布が立てるバサバサという音だけが冒険者の聴覚を支配していた中に突如、予期せぬ轟音が闘気と共に割り込んできた。
「なっ……!?」
冒険者が咄嗟にイルーシブジャンプで跳び退ると、直前まで立っていた場からは視界を遮る密度の土煙がもうもうと立ち上っており、暫しの後にその土煙が風で払われると、そこに彼女の見知った姿が現れた。
「エスティニアン!」
冒険者は思わずその名を叫ぶと同時に、今しがた自身が見舞われかけた現象の正体を特定することができたため、続く言葉を抗議としてエスティニアンへと投げつける。
「私に向けてスターダイバーを使うだなんて、何を考えているの!?」
そんな彼女の怒気などまるで意に介さず、エスティニアンは楽しげに笑いながら愛槍を背に納めた。
「お前ならば難なく避けるだろうと思ってな。ショートカット代わりに使ったまでだ」
「他の人が居たら危ないなんてものじゃないでしょう!」
「他人が居たらそもそもやらんさ」
「それじゃ横着じゃなくて悪戯でしょう……。で? 今日は突然どうしたの?」
エスティニアンの返答を聞いた光の戦士はそれ以上怒る気が失せてしまい、呆れた素振りを見せた後に再び彼へと質問をする。
「荷物はこれと、あとはその持っている敷布だけか?」
冒険者の質問には答えることなく逆にエスティニアンは問い掛け、自身と彼女との間に転がる形となっていた鞄を回収しながら歩み寄ると、敷布をしまえと言わんばかりに冒険者の前に鞄を突き出した。
「う、うん、そうだけど」
首を傾げながらもその意図を汲み取り、彼の手の中にある鞄へと冒険者が敷布を納め終わると、それを見届けたエスティニアンは満足気に口角を上げた。
「よし」
一体何が良いのか、その意味不明な一言を口走るなりエスティニアンは冒険者の前でその身を屈めると、首を傾げたまま棒立ちをしている彼女の腰に素早く腕を回し、その行動を理解される前に自身の肩へと担ぎ上げる。
「ちょっ……よし、じゃない! よくない! 下ろして! まだもう少し作業をしたいのに!」
「ここは足場が悪くて落ち着かんな」
冒険者の苦情とは全く噛み合わない内容を呟くとエスティニアンは、彼女を担いだまま大ジャンプを数回繰り返し、右側にそびえ立つ、聖なる礼拝台と呼ばれている階段状の構造物の頂上へと移動をした。
ギラバニア湖畔地帯のほぼ全容を見渡すことのできる場に立ったエスティニアンは、冒険者を抱えたまま何処かとのリンクパール通信を始める。
「俺だ。目標の捕縛に成功した。これより帰投する」
「どこへ……? 捕縛って、いったい誰に頼まれたのよ?」
半ば以上諦めた声音での冒険者の質問に答えることなく、エスティニアンはテレポを詠唱した。
ロッホ・セル湖の北端でひとり採掘作業に勤しんでいた光の戦士は、愛用のモールをホルダーに納めてから背伸びをし、呟いた。
眼前に広がる湖面は西からに傾きかけた陽光を受け、美しく輝いている。
湖の左手方向に見えるのは、アラミゴ城の巨大な城壁だ。
この地が戦場となっていた時分では、壮大な風景をこのように眺める余裕など無かった。
そしてこの地に住まう人々は、このように採掘をすることすらも叶わなかったのだろう。
などと、アラミゴ奪還の戦いに身を投じていた当時を回想しながら敷布を広げ、次いで竜騎士の証を身に付けてから敷布の上に腰を下ろした。
鞄の中から水筒を取り出し、茶をマグカップに三口分ほどを注いで口にする。
冷めた茶が渇いた喉を潤していくさまを感じながら、今は不意の襲撃に警戒をする必要はほぼ無いのだから、一時的に戦闘職になどならず、茶も、もう少し注いでも良かったかもしれない、と、冒険者は自らの身に染み付いた癖に対して苦笑をした。
ともあれ喉の渇きは癒されたのだから、あとは陽が落ちるくらいまで作業をしてから戻るとしよう。
そのように考えながら水筒とマグカップを片付け立ち上がると、敷布の一辺の両端を握り締めて数回振り回し、裏面に付着した土埃を払う。
敷布が立てるバサバサという音だけが冒険者の聴覚を支配していた中に突如、予期せぬ轟音が闘気と共に割り込んできた。
「なっ……!?」
冒険者が咄嗟にイルーシブジャンプで跳び退ると、直前まで立っていた場からは視界を遮る密度の土煙がもうもうと立ち上っており、暫しの後にその土煙が風で払われると、そこに彼女の見知った姿が現れた。
「エスティニアン!」
冒険者は思わずその名を叫ぶと同時に、今しがた自身が見舞われかけた現象の正体を特定することができたため、続く言葉を抗議としてエスティニアンへと投げつける。
「私に向けてスターダイバーを使うだなんて、何を考えているの!?」
そんな彼女の怒気などまるで意に介さず、エスティニアンは楽しげに笑いながら愛槍を背に納めた。
「お前ならば難なく避けるだろうと思ってな。ショートカット代わりに使ったまでだ」
「他の人が居たら危ないなんてものじゃないでしょう!」
「他人が居たらそもそもやらんさ」
「それじゃ横着じゃなくて悪戯でしょう……。で? 今日は突然どうしたの?」
エスティニアンの返答を聞いた光の戦士はそれ以上怒る気が失せてしまい、呆れた素振りを見せた後に再び彼へと質問をする。
「荷物はこれと、あとはその持っている敷布だけか?」
冒険者の質問には答えることなく逆にエスティニアンは問い掛け、自身と彼女との間に転がる形となっていた鞄を回収しながら歩み寄ると、敷布をしまえと言わんばかりに冒険者の前に鞄を突き出した。
「う、うん、そうだけど」
首を傾げながらもその意図を汲み取り、彼の手の中にある鞄へと冒険者が敷布を納め終わると、それを見届けたエスティニアンは満足気に口角を上げた。
「よし」
一体何が良いのか、その意味不明な一言を口走るなりエスティニアンは冒険者の前でその身を屈めると、首を傾げたまま棒立ちをしている彼女の腰に素早く腕を回し、その行動を理解される前に自身の肩へと担ぎ上げる。
「ちょっ……よし、じゃない! よくない! 下ろして! まだもう少し作業をしたいのに!」
「ここは足場が悪くて落ち着かんな」
冒険者の苦情とは全く噛み合わない内容を呟くとエスティニアンは、彼女を担いだまま大ジャンプを数回繰り返し、右側にそびえ立つ、聖なる礼拝台と呼ばれている階段状の構造物の頂上へと移動をした。
ギラバニア湖畔地帯のほぼ全容を見渡すことのできる場に立ったエスティニアンは、冒険者を抱えたまま何処かとのリンクパール通信を始める。
「俺だ。目標の捕縛に成功した。これより帰投する」
「どこへ……? 捕縛って、いったい誰に頼まれたのよ?」
半ば以上諦めた声音での冒険者の質問に答えることなく、エスティニアンはテレポを詠唱した。
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