酒とスルメと男と女
「今回もイイ時間をありがとうございました、ジブリオンさん」
「そりゃ良かった。コイツのおかげで一時はどうなることかと思ったがな」
残るスルメの紙包みを指し示し、ジブリオンは笑いながら冒険者に応じる。
「ひとつ伺いたいんですけど、肴の持ち込みが構わないなら、お酒を引き取ってもらうことってできますか?」
「酒を引き取る? 何でまた?」
冒険者からの奇妙な問い掛けに、ジブリオンは首を傾げた。
「実は以前、彼の快気祝いをしようと思って買い込んだお酒がそのままになっていて、持て余しちゃってるんですよ」
「なんだ? お前さんは酒に強いだろうが。自分で飲んじまえばよかろうに」
「いやぁ、それはさすがに飽きるというかなんというか……」
頭を掻きながら照れ笑いをして食い下がる冒険者を見て、ジブリオンは更に首を傾げる。
「まあ、お前さんがそう言うなら、買い取ってやっても構わんぞ。何種類あるんだ?」
「三種類。ウルダハとグリダニアとリムサ・ロミンサのお酒なんです」
「ほう、それなら客に珍しい酒を提供できることになるから大歓迎だな。いつでもいいから持ってきてくれ」
「やった! ありがとうございます」
冒険者はジブリオンの前で喜び、一方その一部始終を傍らで見守っていたエスティニアンは、憮然とした面持ちで一言を呟いた。
「なんだ、俺はその酒にありつけないのか? いつでも飲みに行くぞ?」
「快気祝いをさせてくれなかった人に言われたくはないわね」
間髪を容れずに断じられたエスティニアンは、舌打ちをした後に苦笑をする。
「飲みたければ、タイミングを見計らってここに飲みにくればいいでしょう?」
「それは随分と難しそうに思えるがな」
「どうかしら? 案外大丈夫かもしれないわよ? まあ、頑張って」
更に容赦なく言い放ちクスクスと笑う冒険者を見たエスティニアンは嘆息を洩らし、ジブリオンはそんな二人の様子をまとめて笑い飛ばす。
「それじゃ、近日中にお届けしますね」
冒険者のその言葉を挨拶代わりに、二人は揃って忘れられた騎士亭を後にした。
──そして後日。
冒険者から引き取り依頼をされた酒が、忘れられた騎士亭へと届けられた。
「なるほど、確かに三種類だが……。これではさすがに、あの英雄殿でも飽きるってもんだな」
辛うじてそう呟き呆然と見おろすジブリオンの足元には、三つの樽が並べられていた。
~ 完 ~
初出/2019年9月7日 pixiv
「そりゃ良かった。コイツのおかげで一時はどうなることかと思ったがな」
残るスルメの紙包みを指し示し、ジブリオンは笑いながら冒険者に応じる。
「ひとつ伺いたいんですけど、肴の持ち込みが構わないなら、お酒を引き取ってもらうことってできますか?」
「酒を引き取る? 何でまた?」
冒険者からの奇妙な問い掛けに、ジブリオンは首を傾げた。
「実は以前、彼の快気祝いをしようと思って買い込んだお酒がそのままになっていて、持て余しちゃってるんですよ」
「なんだ? お前さんは酒に強いだろうが。自分で飲んじまえばよかろうに」
「いやぁ、それはさすがに飽きるというかなんというか……」
頭を掻きながら照れ笑いをして食い下がる冒険者を見て、ジブリオンは更に首を傾げる。
「まあ、お前さんがそう言うなら、買い取ってやっても構わんぞ。何種類あるんだ?」
「三種類。ウルダハとグリダニアとリムサ・ロミンサのお酒なんです」
「ほう、それなら客に珍しい酒を提供できることになるから大歓迎だな。いつでもいいから持ってきてくれ」
「やった! ありがとうございます」
冒険者はジブリオンの前で喜び、一方その一部始終を傍らで見守っていたエスティニアンは、憮然とした面持ちで一言を呟いた。
「なんだ、俺はその酒にありつけないのか? いつでも飲みに行くぞ?」
「快気祝いをさせてくれなかった人に言われたくはないわね」
間髪を容れずに断じられたエスティニアンは、舌打ちをした後に苦笑をする。
「飲みたければ、タイミングを見計らってここに飲みにくればいいでしょう?」
「それは随分と難しそうに思えるがな」
「どうかしら? 案外大丈夫かもしれないわよ? まあ、頑張って」
更に容赦なく言い放ちクスクスと笑う冒険者を見たエスティニアンは嘆息を洩らし、ジブリオンはそんな二人の様子をまとめて笑い飛ばす。
「それじゃ、近日中にお届けしますね」
冒険者のその言葉を挨拶代わりに、二人は揃って忘れられた騎士亭を後にした。
──そして後日。
冒険者から引き取り依頼をされた酒が、忘れられた騎士亭へと届けられた。
「なるほど、確かに三種類だが……。これではさすがに、あの英雄殿でも飽きるってもんだな」
辛うじてそう呟き呆然と見おろすジブリオンの足元には、三つの樽が並べられていた。
~ 完 ~
初出/2019年9月7日 pixiv