一皿に託す想い
「美味しく戴けたところで、このシチューの由来を教えてくれるかしら? 皆、それぞれに興味津々なのよ」
マグカップから離されたヤ・シュトラの唇からアルフィノに向けて、質問が飛ばされた。
彼女の傍らには、きれいにシチューが平らげられた皿が置かれている。
アルフィノは仲間たちに順に視線を送り、最後に光の戦士を見つめて互いに頷くと語り始めた。
「これはドラヴァニア雲海で野営をした時に、同行者の一人だったイゼルという女性が作ってくれたものなんだ。その時も今のように、目の前には未知の巨大な建造物があってね。その規模やその後出逢うべき存在の大きさに圧倒されかかってしまっていた私の心を、このシチューが支えてくれたんだ」
アルフィノはそこで一旦言葉を切り、自らの茶で喉を潤した。
それを見てすかさず、彼の隣に座っていた光の戦士が補足をする。
「その時は悪天候で足止めされてしまって致し方なしの野営だったのだけど、結果的にはお互いや直後に為すべきことを再確認する、とても良い時間を過ごした形になったの。今回、まさかまた巨大な建物に圧倒されることになるとは思わなかったけど、ここでこうしてあの時と同じようにみんなでこのシチューを食べて、ほんの少しでもいいからみんなの気持ちを支えられたらいいなと思って。そんな理由で、アルフィノと計画をしていたのよ」
「……なるほどな。二人にとっての勝負メシ、ってことか」
「ええ、そんな感じ」
サンクレッドの感想に、光の戦士は笑顔で応じながら自らの茶を口にする。
「てっきり薪の人の仕業かと思いきや、まさかアルフィノが女性から料理の手ほどきを受けていただなんてね。世の中、何が起きるかわからないものだわ」
アリゼーが笑いを含みながらアルフィノに言い、それが皆の笑いを誘う。
「お……教えを請いたくなるほどの出来事であり味だったんだ。完璧に味を再現できたわけではないが、こうして少しは役に立っているのだし、別に構わないだろう」
狼狽するアルフィノの姿は更に仲間たちの笑いを誘い、残る焚火の炎が彼らの笑顔をゆらゆらと照らしていた。
「後片付けは私たちでやるから、主謀者さんたちはあちらで一休みしていらっしゃいな」
皆が食べ終わったことを確認したヤ・シュトラが、幻影都市を見渡せる場を指し示しながら提案し、光の戦士とアルフィノはそれに従って移動をする。
片付け作業をする中でリーンがふと二人の側へと視線を送り、微かに首を傾げた一連の様子をサンクレッドは見逃さなかった。
「どうした?」
不意に声が掛けられたことで少々驚いた様子のリーンだったが、今一度視線を二人の側へと移し、何かを確認した後にサンクレッドの側へと向き直る。
「あの人のエーテルが……その、大変な状態なのは変わらないんですけど、なんというか」
「何か、変化が?」
静かな口調で促されたことで、リーンは意を決して話を続けた。
「なんというか、今はふわっとしたものに包まれているような、そんな感じに見えるんです。これって、エーテルが安定している原初世界の食材で作ったシチューの効果でしょうか?」
リーンの言葉に驚き、サンクレッドは反射的に光の戦士の後姿を凝視したのだが、悲しいかな、ヤ・シュトラと同じ経験をしたにも関わらず、彼の身にはリーンの言葉に同意できる能力は備わっていない。
「……なるほど。そういうこともあるのかもしれんな」
リーンの言う微かな変化の要因は物質的なものなのか、あるいは精神的なものなのか。
はたまた、氷の巫女と呼ばれたイゼルの、超える力の残滓なのか。
全てが効果を発揮していればこの上なく良いが、ひとつでも構わない。
そんなアルフィノの光の戦士に対する思いが、彼にこの行動を取らせたのだろう。
「俺にはエーテルの専門的なことはわからんが、別の角度でひとつ、わかったことならあるぞ」
「……えっ? それは、どんなことですか?」
再び驚きの表情を見せたリーンを見下ろしたサンクレッドはその目を細めて彼女の頭に掌を乗せ、ポンと叩いてから話を続けた。
「今回の場合、あのシチューでアルフィノ自身が支えられたという話は、事実である一方で方便でもある、ってことさ」
初出/2019年12月3日 pixiv&Privatter
『第40回FF14光の戦士NLお題企画』の『シチュー』参加作品
マグカップから離されたヤ・シュトラの唇からアルフィノに向けて、質問が飛ばされた。
彼女の傍らには、きれいにシチューが平らげられた皿が置かれている。
アルフィノは仲間たちに順に視線を送り、最後に光の戦士を見つめて互いに頷くと語り始めた。
「これはドラヴァニア雲海で野営をした時に、同行者の一人だったイゼルという女性が作ってくれたものなんだ。その時も今のように、目の前には未知の巨大な建造物があってね。その規模やその後出逢うべき存在の大きさに圧倒されかかってしまっていた私の心を、このシチューが支えてくれたんだ」
アルフィノはそこで一旦言葉を切り、自らの茶で喉を潤した。
それを見てすかさず、彼の隣に座っていた光の戦士が補足をする。
「その時は悪天候で足止めされてしまって致し方なしの野営だったのだけど、結果的にはお互いや直後に為すべきことを再確認する、とても良い時間を過ごした形になったの。今回、まさかまた巨大な建物に圧倒されることになるとは思わなかったけど、ここでこうしてあの時と同じようにみんなでこのシチューを食べて、ほんの少しでもいいからみんなの気持ちを支えられたらいいなと思って。そんな理由で、アルフィノと計画をしていたのよ」
「……なるほどな。二人にとっての勝負メシ、ってことか」
「ええ、そんな感じ」
サンクレッドの感想に、光の戦士は笑顔で応じながら自らの茶を口にする。
「てっきり薪の人の仕業かと思いきや、まさかアルフィノが女性から料理の手ほどきを受けていただなんてね。世の中、何が起きるかわからないものだわ」
アリゼーが笑いを含みながらアルフィノに言い、それが皆の笑いを誘う。
「お……教えを請いたくなるほどの出来事であり味だったんだ。完璧に味を再現できたわけではないが、こうして少しは役に立っているのだし、別に構わないだろう」
狼狽するアルフィノの姿は更に仲間たちの笑いを誘い、残る焚火の炎が彼らの笑顔をゆらゆらと照らしていた。
「後片付けは私たちでやるから、主謀者さんたちはあちらで一休みしていらっしゃいな」
皆が食べ終わったことを確認したヤ・シュトラが、幻影都市を見渡せる場を指し示しながら提案し、光の戦士とアルフィノはそれに従って移動をする。
片付け作業をする中でリーンがふと二人の側へと視線を送り、微かに首を傾げた一連の様子をサンクレッドは見逃さなかった。
「どうした?」
不意に声が掛けられたことで少々驚いた様子のリーンだったが、今一度視線を二人の側へと移し、何かを確認した後にサンクレッドの側へと向き直る。
「あの人のエーテルが……その、大変な状態なのは変わらないんですけど、なんというか」
「何か、変化が?」
静かな口調で促されたことで、リーンは意を決して話を続けた。
「なんというか、今はふわっとしたものに包まれているような、そんな感じに見えるんです。これって、エーテルが安定している原初世界の食材で作ったシチューの効果でしょうか?」
リーンの言葉に驚き、サンクレッドは反射的に光の戦士の後姿を凝視したのだが、悲しいかな、ヤ・シュトラと同じ経験をしたにも関わらず、彼の身にはリーンの言葉に同意できる能力は備わっていない。
「……なるほど。そういうこともあるのかもしれんな」
リーンの言う微かな変化の要因は物質的なものなのか、あるいは精神的なものなのか。
はたまた、氷の巫女と呼ばれたイゼルの、超える力の残滓なのか。
全てが効果を発揮していればこの上なく良いが、ひとつでも構わない。
そんなアルフィノの光の戦士に対する思いが、彼にこの行動を取らせたのだろう。
「俺にはエーテルの専門的なことはわからんが、別の角度でひとつ、わかったことならあるぞ」
「……えっ? それは、どんなことですか?」
再び驚きの表情を見せたリーンを見下ろしたサンクレッドはその目を細めて彼女の頭に掌を乗せ、ポンと叩いてから話を続けた。
「今回の場合、あのシチューでアルフィノ自身が支えられたという話は、事実である一方で方便でもある、ってことさ」
初出/2019年12月3日 pixiv&Privatter
『第40回FF14光の戦士NLお題企画』の『シチュー』参加作品