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最初の謎

「「アク・アファー」ってのは、ドラゴン語で「永遠の輪」を意味する。フン、異端者どもが付けそうな名前だぜ……」

 ゴルガニュ牧場に於いて、集められた異端者の書簡を精査した調査隊の騎兵隊長が、情報を共有するべく冒険者一行に内容を纏めて解説をし、それを一字一句逃すまいとアルフィノが食い入るように耳を傾けている傍らで、エスティニアンが吐き捨てるようにそう呟いたのを、光の戦士は聞き逃してはいなかった。


 そして次なる目的地をアク・アファー円形劇場に定めて移動をする中で、彼女は胸の内に結晶した疑問を氷解させるべく、その口を開いた。

「ねえ、エスティニアン。蒼の竜騎士って、ドラゴン語を勉強するものなの?」
「む?」
 エスティニアンは冒険者の側へと首を向けながら、歩む速度は変えずに応じる。
 ドラケンアーメットで遮られているために冒険者やアルフィノに窺い知ることはできなかったが、彼はおそらく、ごく短い声と共にちらりと視線も光の戦士に送ったのだろう。

「……当然だ。蒼の竜騎士に限らず竜騎士団の者は、習熟度に差こそあれ一定のレベルでドラゴン語の履修をしている」
「そっか。じゃ、私も勉強しなきゃならないわね。一定のレベルで履修できてるってことは、辞書や教本があるの?」
「ああ。そういったものは、神殿騎士団と竜騎士団の兵舎にあるぞ」
「そうだったの。でも、どうやって作られたのかしら? 辞書のようなものって、ドラゴンにじっくり聞かないと作れないわよね?」
「ドラゴンになど聞けるわけがなかろうが。異端者に尋問でもしたのだろう」
「異端者に? 嫌疑をかけられただけの人までも異端審問で片っ端から殺しているのに? 異端審問では、アインハルト家のフランセル卿まで殺されかけたのよ」

 あの時、私が立ち会った異端審問は異端者がイシュガルドを陥れるために仕組んだものだったけど、事件として暴かれる前はそれを信じて疑わない人が殆どだったから、それまで本物の異端審問も似たような形で行われていたんでしょうしね、と、続けて口にする彼女の前を歩いていたエスティニアンの足が止まり、冒険者は数歩先に進んだところで遅れて足を止めると、立ち止まったエスティニアンへと向き直る。

「仮に、百歩譲ってドラゴン語の資料作りのために生かされた異端者がいたとして、いずれ自分が殺されると分かっていて本当のことを事細かく敵側に教える人がいるのかしら? そしてエスティニアンは、そうして作られた資料を信用して覚えたの?」
「……」
 その問いに答えることができず沈黙を続けるエスティニアンとの間合いを冒険者は一歩詰め、彼を見上げて首を傾げると、今一度言った。

「……どうして?」

    ~ 完 ~

   初出/2019年2月27日 Privatter
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