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カルテット

 後日。
 キャンプ・ドラゴンヘッドでエマネランは、オノロワが淹れたイシュガルドティーと守護天節で景品として配布されたパンプキンパイを前にして、神妙な面持ちとなっていた。

「どうなさったんですか、エマネラン様? お茶が冷めてしまいます。あと、お口に合わないのだとしても、このパイを吟味することは守護天節考察の一環となりますので、しっかりとお務めいただきたいのですが、はい」
 その言葉に応えてエマネランは視線をゆっくりとパンプキンパイからオノロワに移し、神妙な表情のままぽつりと一言を零した。

「あいつ、多分オレのことが好きなんだよな……」
「は?」

 あまりに想定外なエマネランの言葉にオノロワは呆然とし、危うく落としそうになった自らのティーカップを慌てて支え直して慎重に机の上へと置くと、改めてエマネランへと視線を送った。

「誰もが認める救国の英雄であるあいつに好かれるのは、イシュガルドで最高の誉れだってことはオレにもわかるさ。でもな。オレはラニエットに、今まで数え切れないくらい「君だけの騎士」と言っちまってるんだ。なあオノロワ。こんな時オレは、どうすればイイんだろう?」

 最大限に記憶を手繰っても片手の指の数に届くか否かという程に真剣な声音で心境を吐露する主を眼前にして、オノロワは掛ける言葉を失い立ち尽くしていた。
 正確にいうと、掛ける言葉は瞬時に胸の内に整ってしまっていたのだが、この状況で「それは盛大な勘違いです」と口走ることに、エマネランに仕えてきた身が本能的にブレーキをかけていたのだった。

「エマネラン様は……」
 オノロワは脳裏に鎮座した直球発言を力任せに排除すると、慎重に言葉を選んで話し始めた。
「亡霊屋敷の検分後、僕に「あの時のオレとは違うんだぞ」と仰ったじゃないですか。ラニエット卿に「君だけの騎士」と仰ったのは、あの時の……以前のエマネラン様です。今のエマネラン様が掲げる騎士道は、ただ一人ではなく、皆を笑顔にするものだと、僕は思うのですが……はい」
「オレの……今のオレの騎士道、か」
 そう呟くエマネランの前でオノロワは頭をフル回転させると、もう一押しをするべく話を続けた。
「皆を笑顔にするためのもののひとつが、このパイになるのかもしれません。剣や槍を振るうこと以外で示す騎士道もあると、僕は思うんです。そうしてイシュガルドがイイ国になっていけば、英雄殿にも喜んでいただけるのではないでしょうか」

「……そうか。そういうことか」
 納得した様子で呟くエマネランの前でオノロワは、今の言葉が果たしてどう納得されたのだろうかと固唾を呑みながら続く返答を待った。

「つまりオレは、あいつに期待されてるってことなんだな!」

 勘違いの軌道を修正することに何とか成功し、その場で飛び上がりたくなる衝動をどうにか抑えたオノロワは、満面の笑みをエマネランに見せて言った。
「はい! そういうことだと思いますので、まずはパイのお味見を!」
「よーし! やってやるぜ!」

 意気揚揚とパンプキンパイにフォークを突き立てたエマネランを見て、オノロワはホッと一息をつくと自らのカップを取り、イシュガルドティーでその喉を潤す。

「……あっ」
「ん? どうしたんだ?」
 エマネランの問いにオノロワは、カップを手にしたまま苦笑いをして言った。
「お茶が、冷めてしまいました」

    ~ 完 ~

   初出/2017年10月31日 pixiv&Privatter
   『第24回FF14光の戦士NLお題企画』の『守護天節』参加作品
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