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カルテット

「さすが、歴代の幻術皇が住まわれていた屋敷なだけのことはあるな。このように豪奢な施設が放棄されてしまっているのは残念としか言い様が無いが、しかし……」
 屋敷内の検分を終えた四名はハウケタ御用邸の玄関前で腰を下ろし、その中でアイメリクは脱力をした様子で溜め息をつくと、続けて率直な感想を述べた。
「常日頃盾を掲げている者の癖は、咄嗟に変えられるものではないな。この場では駄目なのだと肝に銘じたつもりでも、つい、妖異の前に立ちはだかってしまう。冒険者の臨機応変さを、身をもって感じさせられたと言うより他はあるまい」
「ハハッ、貴方でもそうだったのか。オレもだいたい同じだったよ」
「エマネラン様は今日に限っては、以前バヌバヌ族と遭遇した時の「逃げるが勝ち」を発揮すれば良かったのだと思うのですが、はい」
「オマエな……。オレはもう、あの時のオレとは違うんだぞ」
「ですから、今日に限っては、と申し上げているのです」
「ふふっ、オノロワ君の言う通りね。今回は戦うのではなく、妖異に見つからず屋敷内を探索することが求められるのだから。お二人がどんどん正気度を奪われてしまうから、どうなることかと冷や冷やしたわ」
 笑いながらオノロワに口添えをする冒険者を見て、アイメリクとエマネランは揃って肩を竦める。

「この屋敷が領地内にあることから、グリダニアでは守護天節の時期は街なかに装飾が施される他、下級妖異のここでの企みを祭典の余興に見せかけるように冒険者がギルドの依頼を受けて監視や調整をしている、というわけなんです」
「なるほど。となると、ウルダハとリムサ・ロミンサに、このような妖異の溜まり場は無いのだな」
「ええ。その年によって妖異の出方が変わるので、一概にこうだと言い切ることはできないんですけど。他の二国では期間中、街なかに装飾を施して仮装をしたり、お菓子を振る舞って過ごすことが、守護天節の基本の形ですね」
 冒険者の解説に耳を傾けながらアイメリクは思案をする。
「ふむ……。祭典の街頭装飾や振る舞い菓子については、特に問題は無いだろう」
「僕もそう思います、はい。でも、聖人の加護が弱まるという言い伝えと妖異の扱いは、イシュガルド正教との兼ね合いを考えますと、熟考が必要なのではないかと」
 アイメリクはオノロワの意見を聞き、頷いた。
「的確な考察だな。君のように冷静にものを見ることのできる若者が居ると、心強い限りだよ」
「あっ、ありがとうございます! そのようなお言葉、僕には過ぎたものです、はい」
 赤面し動揺をするオノロワを見た三人は、揃ってその表情を綻ばせる。

「とりあえず、そのナントカサーカス?」
「コンチネンタル・サーカス」
「そうそう、それな!」
 エマネランはすかさず補足をしてきた冒険者へ嬉しそうに応えると、話を続けた。
「ソイツらがイシュガルドにも来るかどうかなんてのは、そもそも判らないんだろ? だったら難しいことはさておいて、まず楽しそうなところだけを拡めちまえばイイんじゃないか? みんなが笑顔でいれば、妖異の付け入る隙も無くなるってもんだと思うんだ」
「思慮が浅いのか深いのか判らないが、妖異に隙を見せないよう仕向ける策としては効果がありそうだな」
 驚きと呆れのどちらとも取れる表情となり応じるアイメリクを見て、冒険者は思わず微笑んでいた。
「踏み出した先の明日は、きっと楽しい、でしたっけ? エマネラン卿のその考え方、私は結構好きですよ」
「そ、そうか! そんなに褒めないでくれよ! 照れくさいぜ」  
 冒険者に向けて大袈裟な照れ笑いをするエマネランに、オノロワはいつもの調子で嘆息すると、歯に衣着せぬ一言を投げ掛ける。
「エマネラン様……。そんなに褒められているとは思えないんですが」
 それからしばしの間ハウケタ御用邸の玄関前では、周囲に漂う妖気を根こそぎ吹き飛ばす勢いの笑いが湧き上がっていた。
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