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一章



「このっ……大馬鹿野郎!!」


 俺が食材を用意するよりはやく、腕で抱えられないほどの大きさの寸胴鍋を引っ張り出したメイドの鼻を思いっきりつまみ上げた。
「いひゃい!」
「痛くするためにやってるんだけど。あのね、いいかな世間知らずなお嬢さん、その鍋は人を呼んでパーティーとかするときに使うものなの!」
 両親が帰ってきたってそんなものは使わない。カレーをつくるとして、一体何日間寝かせるつもりなんだ。
 鼻を離してやると、メイドは赤くなった鼻をおさえて涙目で恨めしそうに俺を見た。
「何をするのですか」
「こっちのセリフだ」
「坊っちゃん、不安そうな顔をなさっていたでしょう。よもや私の料理の腕を疑っているのではと思い、私なりに考えたというのに」
 なるほど、そんなことを考えてくれて…いや、そこから寸胴鍋に行き着く思考がわからない。
「まだ日の浅いメイドの料理を心配するのは、良家の御子息として当然の反応。毒を盛られるかもしれませんから」
 いや、個人的にそれより別のことのほうが心配なんだけども。
「そう、ですから私は、まずは既製品をお出しして様子見していただこうと」
 メイドの初料理が既製品でいいのかというツッコミはこの際置いておく。
「そこで…じゃじゃーん!! ね、朝といえばシリアルでしょう? この鍋で作っておけば、数週間は朝ご飯に困りませんよ!」
「ふやけるわ、ど阿呆!!」

 俺のツッコミが厨房に響き渡る。
 なあ、もう俺一人で作っちゃダメ…?
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