真夏の誘惑
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開け放った障子の向こうから無数の蝉の鳴き声が聞こえる。人を不快にさせるだけの不協和音。伊作にとって今はただ鬱陶しい耳障りなものにしか聞こえない。
直射日光を浴びずともジリジリと迫り来る熱気。体の芯から脳までもを蝕んでいく。
拭いても拭いても滲み出る汗が体力を奪い伊作をこの上なくぐったりとさせていた。
「…あつい」
何もする気力がない。それでは非常に勿体ない。夏休みであり、日中であり、用意していた包帯も既に綺麗にしまってある。故に手持ち無沙汰であり、そして何より、隣には留三郎がいる。
二人の部屋で、壁に背を預けながら苦無やら手裏剣やらを手入れしていた。
あつい、今度は声にならない嘆きでもって小さなため息が零れる。留三郎は暑くないのだろうか、と横を見ると身動ぎひとつせずにひたすら武器を手入れしていた。心頭滅却すれば火もまた涼しなのか。しかし、彼の首筋を汗が伝うのを見て、伊作は反射的にそれに手を伸ばした。
「っ…なんだ?」
困ったような顔で見つめられる。どうした?お前らしくもない、とでも言われているようで伊作は留三郎から視線を外した。
「…汗を拭こうとした、んだ」
歯切れの悪い言い訳のようになってしまった。留三郎は無言のまま武器の手入れに戻ってしまう。人差し指の側面にほんの僅かだけ水滴が付いている。たった今拭った留三郎の汗。それをぺろりと下の上に乗せると、しょっぱい味がした。甘くはないんだななんて当たり前のことを沸騰した頭で考える。
「そんなに暑いなら脱げばいいだろ」
「…脱いで誰か来たらどうするのさ」
「それそうだな」
夏休みと言っても残り2日という終盤。明日から帰省していた生徒たちが戻ってくるだろうし、先生方は授業の準備があるため既に学園にいる者までいる。誰も来ない、という確証は無いのだ。いくら暑いからと言っても最上級生である六年生が服を脱いでいる姿を見て教師が何も思わないわけが無い。留三郎もそれを分かっているらしく深くは突っ込んでこなかった。
襟元を掴んで空気を送るように仰いでみても一向に涼しくならない。
留三郎は既に上着を脱いでいてタンクトップだがこちらは上着の袖を捲るだけに留めている。それだけで随分と体感温度に差があるように感じられる。
「…涼しくならないかな」
「まだ時間がかかるんじゃないか?」
伊作の呟きに律儀にも返事を返す留三郎の視線は太陽が照り付ける外に向けられていた。先程から扇子で仰ぐものの間に合わない。暑い。いくら仰いでも暑いのだ。風が直接顔に当たるのが好きでは無かったから、主に首から下に向けてゆるゆると扇いでいる。これがまた首より上が暑い。風が当たっている部分とそう出ない部分との温度差で、余計に暑い気がしてきた。
どうしても我慢できなかった。仕方なく、腰紐を緩めて襟元をくつろげる。留三郎がこちらを伺い見るように小さく顎を動かしたのを見て伊作は慌てて手で隠しながらつい弁解するように口が動いた。
「脱ぐわけじゃないよ」
「…まだ何も言ってないだろ」
肩を竦めて留三郎の視線は再びて元に戻った。用意されていた武器は殆どが手入れが済んでいて、残るは彼が得意としている武器だけだった。
直射日光を浴びずともジリジリと迫り来る熱気。体の芯から脳までもを蝕んでいく。
拭いても拭いても滲み出る汗が体力を奪い伊作をこの上なくぐったりとさせていた。
「…あつい」
何もする気力がない。それでは非常に勿体ない。夏休みであり、日中であり、用意していた包帯も既に綺麗にしまってある。故に手持ち無沙汰であり、そして何より、隣には留三郎がいる。
二人の部屋で、壁に背を預けながら苦無やら手裏剣やらを手入れしていた。
あつい、今度は声にならない嘆きでもって小さなため息が零れる。留三郎は暑くないのだろうか、と横を見ると身動ぎひとつせずにひたすら武器を手入れしていた。心頭滅却すれば火もまた涼しなのか。しかし、彼の首筋を汗が伝うのを見て、伊作は反射的にそれに手を伸ばした。
「っ…なんだ?」
困ったような顔で見つめられる。どうした?お前らしくもない、とでも言われているようで伊作は留三郎から視線を外した。
「…汗を拭こうとした、んだ」
歯切れの悪い言い訳のようになってしまった。留三郎は無言のまま武器の手入れに戻ってしまう。人差し指の側面にほんの僅かだけ水滴が付いている。たった今拭った留三郎の汗。それをぺろりと下の上に乗せると、しょっぱい味がした。甘くはないんだななんて当たり前のことを沸騰した頭で考える。
「そんなに暑いなら脱げばいいだろ」
「…脱いで誰か来たらどうするのさ」
「それそうだな」
夏休みと言っても残り2日という終盤。明日から帰省していた生徒たちが戻ってくるだろうし、先生方は授業の準備があるため既に学園にいる者までいる。誰も来ない、という確証は無いのだ。いくら暑いからと言っても最上級生である六年生が服を脱いでいる姿を見て教師が何も思わないわけが無い。留三郎もそれを分かっているらしく深くは突っ込んでこなかった。
襟元を掴んで空気を送るように仰いでみても一向に涼しくならない。
留三郎は既に上着を脱いでいてタンクトップだがこちらは上着の袖を捲るだけに留めている。それだけで随分と体感温度に差があるように感じられる。
「…涼しくならないかな」
「まだ時間がかかるんじゃないか?」
伊作の呟きに律儀にも返事を返す留三郎の視線は太陽が照り付ける外に向けられていた。先程から扇子で仰ぐものの間に合わない。暑い。いくら仰いでも暑いのだ。風が直接顔に当たるのが好きでは無かったから、主に首から下に向けてゆるゆると扇いでいる。これがまた首より上が暑い。風が当たっている部分とそう出ない部分との温度差で、余計に暑い気がしてきた。
どうしても我慢できなかった。仕方なく、腰紐を緩めて襟元をくつろげる。留三郎がこちらを伺い見るように小さく顎を動かしたのを見て伊作は慌てて手で隠しながらつい弁解するように口が動いた。
「脱ぐわけじゃないよ」
「…まだ何も言ってないだろ」
肩を竦めて留三郎の視線は再びて元に戻った。用意されていた武器は殆どが手入れが済んでいて、残るは彼が得意としている武器だけだった。
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