拓楽
(澄野大好きな丸子が、チューラムタミーの夢の世界に囚われる話)
友達なんていなかった。
そもそも学校にだって満足に通えなかったし、金も時間ないから、運良くいたところで何ができたって話だ。
同年代の奴らの話には何一つついていけないし、漫画もアニメもドラマもゲームも何一つ楽しんだことがない。
唯一グループホームのガキどもとやる鬼ごっこだとかかくれんぼが俺の中の遊びで、それだけが癒しだった。
大嫌いで大好きな兄弟たち。
お荷物でうざったくて死んじまえと思っても、やっぱりどうしようもなく生きていて欲しいと思ってしまう兄弟たち。
でも兄弟は兄弟で───友達にはなれない。
オレは強がっていたけど、心のどこかでずっと友達を求めていた。
くだらないことで笑い合って、好きな女の話をして、どうでもいいことで喧嘩したりする。
そんな普通ってやつを味わってみたかった。
「丸子? なにぼーっとしてんだよ」
「んがっ…」
額をツンと指で突かれて夢から覚める。
目の前には、何がおかしいのか目を細めて笑う澄野がいた。
「んだよ」
「くくっ…だってお前の顔、すげー寝ぼけヅラで……ぷっ、ははっ…ダメだっなんかツボった」
「人の顔でツボるんじゃねーよ!!」
馬鹿みたいに大口を開けて笑う顔を両手で挟む。
ムニっとした感触と、人肌の温度になんでかドキッとする。
澄野はタコみたいな顔をしながらも笑い続けていた。
目尻に涙まで浮かべてやがる。
人のツラ見て笑う前に自分のツラを見やがれって話だ。
「ごめん、謝るから離してくれよ」
「ほんとーに反省してんのかよ」
「してるしてる! ごめん、丸子、ごめーん」
「心がこもってないにも程があんだろ?!」
「あはははっ」
澄野の猫のように大きな瞳が、キラキラしてみえた。
ショーウィンドウの向こうに飾られてる宝石みたいなそれが欲しくなって、気づけば手を伸ばしていた。
「丸子?」
「ッ…わりい、なんでもない」
男相手に何考えてんだよ。
伸ばした手を引っ込めて、澄野から目を逸らす。
「どうしたんだよ。またなんかあったのか?」
「また…?」
そういえば、ここはどこなんだ。
オレたちは確か…確か……
「───おい丸子、しっかりしろよ!」
「!!」
肩をいきなり掴まれて揺さぶられる。
ぐわんと揺れる視界の中で、澄野の青い目だけがずっとオレを捉えていた。
その目に見られているとおかしくなりそうだ。
「澄野…オレ、なんかおかしいんだよ。起きる前の記憶が全然ねーんだ。オメーのことは分かるけど、それ以外何にも思い出せねーんだ」
「……」
澄野はただ黙ってオレを見ていた。
そのなんの感情も読めない顔が嫌で、オレは今すぐ全部を無かったことにしたくなる。
でも本当にここがどこかわからない。
机と椅子がたくさん並んでいて、正面にでかい黒板があるからどこかの学校の教室なのは分かる。
で、オレは制服を着てるから、ここの生徒なのは間違いないはずだ。
なのに目覚める前何をしていたのかが、ぽっかりと穴が空いたみたいになくなってしまっている。
「丸子」
そんな中で、澄野の存在だけが確かなものだった。
「心配しなくても大丈夫だ。オレが全部なんとかするから」
「澄野……」
「オレは絶対にお前を見捨てないし、何があっても守る。だってオレたち───親友だろ」
澄野の口から出てくる【親友】という単語に心が揺さぶられる。
それは兄弟たちに隠れて食べた甘い菓子のように舌の上でとろける。
その魅惑の甘露はオレからすべての不安を遠ざけてくれる。
澄野がいれば大丈夫だ。
だって澄野はすごい奴だから。
どんな時も最前線で俺たちのために戦ってくれるヒーローなんだから。
ジジ…
「っい゛」
何かを思い出しそうになった瞬間、強烈な痛みがそれをかき消す。
いやだ。怖い。なんでオレがこんな目に。
ただ貧乏に生まれただけなのに。
親がいないだけなのに。
なんでオレばっかり苦労しなくちゃなんねーんだよ!!
「丸子っ!」
目の前が暗くなったかと思えば、体を覆うように抱きしめられる。
温かい。
それになんだかいい匂いもする。
「ここは最終防衛学園だ。普通のどこにでもある学園で、俺たちは同じクラスで毎日楽しく勉強したり遊んだりしてる親友だ」
「…しんゆー」
「ああ。丸子はクラスのムードメーカーで、いつもみんなを楽しませようと色々考えてくれてるんだ」
「……」
夢みたいな話だった。
オレが澄野みたいなクラスの中心人物と親友で、しかもみんなのムードメーカーなんて呼ばれてる。
騙されてるんじゃねーかって疑いたくもなるけど、目の前にいるのは澄野だ。
澄野だけはオレを裏切らないって信じたい。
それにこんなにオレに都合がいいんだから、たとえ罠だろうとなんだろうと乗っかって楽しんで何が悪いんだよ。
ごくりと喉が鳴る。
心臓が壊れるくらいにバクバクしている。
こんなこと聞いて、気持ち悪がられたらどうしよう、なんて女々しいことが頭をよぎる。
それでもオレはどうしても、知りたかった。
「澄野……オメー、オレのこと……さ」
こわい。
こわい。
こわい。
それでも知りたくて、澄野の深い青の瞳を見つめ返す。
「オレのこと───好きか?」
口から出た言葉は自分で思ったよりもずっと震えていた。
澄野はそんなオレの髪を優しく撫でてくれる。
そして甘ったるい声で、オレの耳を溶かすように囁いてくる。
「オレは丸子のことが大好きだ」
「じゃっ、じゃあ…オレとカラオケに行ったりゲーセンに行ったり、してくれるか?」
「当たり前だろ。ていうか昨日も一緒に商店街で買い食いしただろ? 忘れたのか?」
温かい腕の中で、守られるように包まれて、その上オレの欲しい言葉を全部返してくれる。
そんな都合のいいものに手を伸ばしたっていいじゃねーか。
ちょっとくらい良い思いしたっていいじゃねーか。
だって澄野はいつもみんなのもので、オレはそんなこいつが羨ましくて、澄野みてーになりたくて、でもなれなくて───でもいまその澄野がオレだけをみてる。オレを求めてくれてる。
「澄野っ、澄野澄野澄野澄野澄野澄野澄野澄野澄野澄野澄野澄野澄野澄野澄野澄野澄野」
頬が熱い。
目から溢れる涙がどんどん体を濡らしていく。
それでもオレは構わずに目の前のそれに縋りついて甘える。
「なんだよ。急に子供みたいになって」
「オレぇ……澄野みてーな友達が欲しかったんだ。優しくて、オレを貧乏だって差別しねー、どんな時もオレを守ってくれる友達が───欲しかったんだ」
オレを捨てた両親。
オレに寄生する兄弟。
オレに甘えさせてくれない社会。
「でももう大丈夫なんだよな。澄野がいるんだから。オメーがずっとオレのこと守ってくれるんだよな。大事にしてくれるんだよな。な?」
「……ああ、オレが丸子を守るよ。
今までたくさん頑張ったな丸子」
「うん、オレ、いっぱい頑張ったんだ。小さな兄弟たちのために、オレらみてーなのを育ててくれるグループホームの人たちのために、いっぱいいっぱい頑張ったんだ!!」
澄野は自分が濡れるのも構わずに、オレの涙を全部受け止めてくれる。
優しい手つきで涙を拭ってくれる。
微笑んだまま、ずっと頭を撫でてくれる。
オレは澄野みたいになって誰かに愛されたかった。
たけど本当は、澄野に愛して欲しかったんだ。
誰よりも輝くヒーローに、守って欲しかったんだ。
「頑張り屋の丸子は本当に偉いな。でもオレの前だけはお休みしたって良いんだ。今みたいに小さな子供のように甘えたって良い。友達として遊んだり、家族として支えたり、丸子が望むなら恋人として愛することだってできる。オレが丸子の願いをなんでも叶えてやるよ」
「こ、こいびと…」
反射的に唾を飲み込む。
澄野の目を覗き込んでも、そこに嘘は見つからなかった。
オレが望めば、澄野はなんだってしてくれるんだ。
その事実に、頭ん中を直接撫でられたみたいに全身に痺れが走る。
「期待してるのか? かわいいな丸子は。大好きだ。だからずっとオレと一緒にここにいよう。辛い現実なんて全部忘れて、オレと二人で楽しく暮らそう」
「っ……へ、へへ……そんじゃ、オメーさ、オレにキスとかできんのかよ」
試すように顔を近づける。
澄野のことを別に可愛いとも綺麗だとも思ったことなかったのに。今はなんでかものすごくカッコよくみえる。
ドキドキと脈打つ心臓が今にも飛び出しそうだ。
恐る恐る指で澄野の唇を撫でる。
抵抗されないのをいいことにオレが夢中になって触ってると、澄野は突然オレの腰を掴んだ。
そのまま澄野の方に引き寄せられる。
「───してもいいのか?」
「へ? まっ、まじですんの?」
「丸子がしたいならオレもしたい」
「んなっ! なんかそれずるくねーか?!」
「本当は、丸子がしたくなくても……したい」
「うっっ!」
澄野の上目遣いはなんかよくない。
特にオレの心臓に良くない。
なんだこれ、なんなんだこれっ!
「す、すみの…ちゅー……した───」
言い終わる前に唇を塞がれる。
澄野の唇の感触を味わうよりも、厚い舌がオレの唇を割り開いて押し入ってくるのに意識を持ってかれる。
初キッスがディープキスとか、ちょっと夢が壊れた。
「んっ、んんっ…はっ、すみのぉ……もっと…」
それでも粘膜同士の触れ合いは未知の快感で、オレはあっさりと虜にされてしまう。
澄野はなんでかめちゃくちゃ慣れてるし。
オレだけあへあへされてなんか悔しい。
「なあ、続きはオレの家でしないか?」
「はあっ?! お、オメー急にドスケベな提案すんじゃねーよ!」
「……今更だろ」
そんなんオレだって興味がないわけじゃないけど。
だからって野郎同士のやり方なんて興味ないから知らねーし。
でも、誘ってきたってことは澄野は知ってんだよな。
「どうするんだよ、丸子」
「うう……ぜってー痛くすんなよ! オレのことお姫様みたいに大事にしろよ!!」
「お前がお姫様って柄かよ」
「なんだよ、文句あんのかよっ」
「ぷっ、はいはい、お姫様。カボチャの馬車もネズミの馬もいませんが、オレがエスコートさせていただきますよ」
澄野はどこにそんな力があったのか、軽々しくオレを抱き上げて教室を出ていく。
こんなの誰かに見られたら死ねるやつだろ。
頼むから人目に晒されずに辿り着けますように!神様仏様葉隠様ーーー!!
「丸子! 起きろ丸子!! 敵の精神攻撃だ!! オレたちは幻覚を見させられている! 早く目を覚ましてくれ!!!」
END?? 幸せな悪夢
友達なんていなかった。
そもそも学校にだって満足に通えなかったし、金も時間ないから、運良くいたところで何ができたって話だ。
同年代の奴らの話には何一つついていけないし、漫画もアニメもドラマもゲームも何一つ楽しんだことがない。
唯一グループホームのガキどもとやる鬼ごっこだとかかくれんぼが俺の中の遊びで、それだけが癒しだった。
大嫌いで大好きな兄弟たち。
お荷物でうざったくて死んじまえと思っても、やっぱりどうしようもなく生きていて欲しいと思ってしまう兄弟たち。
でも兄弟は兄弟で───友達にはなれない。
オレは強がっていたけど、心のどこかでずっと友達を求めていた。
くだらないことで笑い合って、好きな女の話をして、どうでもいいことで喧嘩したりする。
そんな普通ってやつを味わってみたかった。
「丸子? なにぼーっとしてんだよ」
「んがっ…」
額をツンと指で突かれて夢から覚める。
目の前には、何がおかしいのか目を細めて笑う澄野がいた。
「んだよ」
「くくっ…だってお前の顔、すげー寝ぼけヅラで……ぷっ、ははっ…ダメだっなんかツボった」
「人の顔でツボるんじゃねーよ!!」
馬鹿みたいに大口を開けて笑う顔を両手で挟む。
ムニっとした感触と、人肌の温度になんでかドキッとする。
澄野はタコみたいな顔をしながらも笑い続けていた。
目尻に涙まで浮かべてやがる。
人のツラ見て笑う前に自分のツラを見やがれって話だ。
「ごめん、謝るから離してくれよ」
「ほんとーに反省してんのかよ」
「してるしてる! ごめん、丸子、ごめーん」
「心がこもってないにも程があんだろ?!」
「あはははっ」
澄野の猫のように大きな瞳が、キラキラしてみえた。
ショーウィンドウの向こうに飾られてる宝石みたいなそれが欲しくなって、気づけば手を伸ばしていた。
「丸子?」
「ッ…わりい、なんでもない」
男相手に何考えてんだよ。
伸ばした手を引っ込めて、澄野から目を逸らす。
「どうしたんだよ。またなんかあったのか?」
「また…?」
そういえば、ここはどこなんだ。
オレたちは確か…確か……
「───おい丸子、しっかりしろよ!」
「!!」
肩をいきなり掴まれて揺さぶられる。
ぐわんと揺れる視界の中で、澄野の青い目だけがずっとオレを捉えていた。
その目に見られているとおかしくなりそうだ。
「澄野…オレ、なんかおかしいんだよ。起きる前の記憶が全然ねーんだ。オメーのことは分かるけど、それ以外何にも思い出せねーんだ」
「……」
澄野はただ黙ってオレを見ていた。
そのなんの感情も読めない顔が嫌で、オレは今すぐ全部を無かったことにしたくなる。
でも本当にここがどこかわからない。
机と椅子がたくさん並んでいて、正面にでかい黒板があるからどこかの学校の教室なのは分かる。
で、オレは制服を着てるから、ここの生徒なのは間違いないはずだ。
なのに目覚める前何をしていたのかが、ぽっかりと穴が空いたみたいになくなってしまっている。
「丸子」
そんな中で、澄野の存在だけが確かなものだった。
「心配しなくても大丈夫だ。オレが全部なんとかするから」
「澄野……」
「オレは絶対にお前を見捨てないし、何があっても守る。だってオレたち───親友だろ」
澄野の口から出てくる【親友】という単語に心が揺さぶられる。
それは兄弟たちに隠れて食べた甘い菓子のように舌の上でとろける。
その魅惑の甘露はオレからすべての不安を遠ざけてくれる。
澄野がいれば大丈夫だ。
だって澄野はすごい奴だから。
どんな時も最前線で俺たちのために戦ってくれるヒーローなんだから。
ジジ…
「っい゛」
何かを思い出しそうになった瞬間、強烈な痛みがそれをかき消す。
いやだ。怖い。なんでオレがこんな目に。
ただ貧乏に生まれただけなのに。
親がいないだけなのに。
なんでオレばっかり苦労しなくちゃなんねーんだよ!!
「丸子っ!」
目の前が暗くなったかと思えば、体を覆うように抱きしめられる。
温かい。
それになんだかいい匂いもする。
「ここは最終防衛学園だ。普通のどこにでもある学園で、俺たちは同じクラスで毎日楽しく勉強したり遊んだりしてる親友だ」
「…しんゆー」
「ああ。丸子はクラスのムードメーカーで、いつもみんなを楽しませようと色々考えてくれてるんだ」
「……」
夢みたいな話だった。
オレが澄野みたいなクラスの中心人物と親友で、しかもみんなのムードメーカーなんて呼ばれてる。
騙されてるんじゃねーかって疑いたくもなるけど、目の前にいるのは澄野だ。
澄野だけはオレを裏切らないって信じたい。
それにこんなにオレに都合がいいんだから、たとえ罠だろうとなんだろうと乗っかって楽しんで何が悪いんだよ。
ごくりと喉が鳴る。
心臓が壊れるくらいにバクバクしている。
こんなこと聞いて、気持ち悪がられたらどうしよう、なんて女々しいことが頭をよぎる。
それでもオレはどうしても、知りたかった。
「澄野……オメー、オレのこと……さ」
こわい。
こわい。
こわい。
それでも知りたくて、澄野の深い青の瞳を見つめ返す。
「オレのこと───好きか?」
口から出た言葉は自分で思ったよりもずっと震えていた。
澄野はそんなオレの髪を優しく撫でてくれる。
そして甘ったるい声で、オレの耳を溶かすように囁いてくる。
「オレは丸子のことが大好きだ」
「じゃっ、じゃあ…オレとカラオケに行ったりゲーセンに行ったり、してくれるか?」
「当たり前だろ。ていうか昨日も一緒に商店街で買い食いしただろ? 忘れたのか?」
温かい腕の中で、守られるように包まれて、その上オレの欲しい言葉を全部返してくれる。
そんな都合のいいものに手を伸ばしたっていいじゃねーか。
ちょっとくらい良い思いしたっていいじゃねーか。
だって澄野はいつもみんなのもので、オレはそんなこいつが羨ましくて、澄野みてーになりたくて、でもなれなくて───でもいまその澄野がオレだけをみてる。オレを求めてくれてる。
「澄野っ、澄野澄野澄野澄野澄野澄野澄野澄野澄野澄野澄野澄野澄野澄野澄野澄野澄野」
頬が熱い。
目から溢れる涙がどんどん体を濡らしていく。
それでもオレは構わずに目の前のそれに縋りついて甘える。
「なんだよ。急に子供みたいになって」
「オレぇ……澄野みてーな友達が欲しかったんだ。優しくて、オレを貧乏だって差別しねー、どんな時もオレを守ってくれる友達が───欲しかったんだ」
オレを捨てた両親。
オレに寄生する兄弟。
オレに甘えさせてくれない社会。
「でももう大丈夫なんだよな。澄野がいるんだから。オメーがずっとオレのこと守ってくれるんだよな。大事にしてくれるんだよな。な?」
「……ああ、オレが丸子を守るよ。
今までたくさん頑張ったな丸子」
「うん、オレ、いっぱい頑張ったんだ。小さな兄弟たちのために、オレらみてーなのを育ててくれるグループホームの人たちのために、いっぱいいっぱい頑張ったんだ!!」
澄野は自分が濡れるのも構わずに、オレの涙を全部受け止めてくれる。
優しい手つきで涙を拭ってくれる。
微笑んだまま、ずっと頭を撫でてくれる。
オレは澄野みたいになって誰かに愛されたかった。
たけど本当は、澄野に愛して欲しかったんだ。
誰よりも輝くヒーローに、守って欲しかったんだ。
「頑張り屋の丸子は本当に偉いな。でもオレの前だけはお休みしたって良いんだ。今みたいに小さな子供のように甘えたって良い。友達として遊んだり、家族として支えたり、丸子が望むなら恋人として愛することだってできる。オレが丸子の願いをなんでも叶えてやるよ」
「こ、こいびと…」
反射的に唾を飲み込む。
澄野の目を覗き込んでも、そこに嘘は見つからなかった。
オレが望めば、澄野はなんだってしてくれるんだ。
その事実に、頭ん中を直接撫でられたみたいに全身に痺れが走る。
「期待してるのか? かわいいな丸子は。大好きだ。だからずっとオレと一緒にここにいよう。辛い現実なんて全部忘れて、オレと二人で楽しく暮らそう」
「っ……へ、へへ……そんじゃ、オメーさ、オレにキスとかできんのかよ」
試すように顔を近づける。
澄野のことを別に可愛いとも綺麗だとも思ったことなかったのに。今はなんでかものすごくカッコよくみえる。
ドキドキと脈打つ心臓が今にも飛び出しそうだ。
恐る恐る指で澄野の唇を撫でる。
抵抗されないのをいいことにオレが夢中になって触ってると、澄野は突然オレの腰を掴んだ。
そのまま澄野の方に引き寄せられる。
「───してもいいのか?」
「へ? まっ、まじですんの?」
「丸子がしたいならオレもしたい」
「んなっ! なんかそれずるくねーか?!」
「本当は、丸子がしたくなくても……したい」
「うっっ!」
澄野の上目遣いはなんかよくない。
特にオレの心臓に良くない。
なんだこれ、なんなんだこれっ!
「す、すみの…ちゅー……した───」
言い終わる前に唇を塞がれる。
澄野の唇の感触を味わうよりも、厚い舌がオレの唇を割り開いて押し入ってくるのに意識を持ってかれる。
初キッスがディープキスとか、ちょっと夢が壊れた。
「んっ、んんっ…はっ、すみのぉ……もっと…」
それでも粘膜同士の触れ合いは未知の快感で、オレはあっさりと虜にされてしまう。
澄野はなんでかめちゃくちゃ慣れてるし。
オレだけあへあへされてなんか悔しい。
「なあ、続きはオレの家でしないか?」
「はあっ?! お、オメー急にドスケベな提案すんじゃねーよ!」
「……今更だろ」
そんなんオレだって興味がないわけじゃないけど。
だからって野郎同士のやり方なんて興味ないから知らねーし。
でも、誘ってきたってことは澄野は知ってんだよな。
「どうするんだよ、丸子」
「うう……ぜってー痛くすんなよ! オレのことお姫様みたいに大事にしろよ!!」
「お前がお姫様って柄かよ」
「なんだよ、文句あんのかよっ」
「ぷっ、はいはい、お姫様。カボチャの馬車もネズミの馬もいませんが、オレがエスコートさせていただきますよ」
澄野はどこにそんな力があったのか、軽々しくオレを抱き上げて教室を出ていく。
こんなの誰かに見られたら死ねるやつだろ。
頼むから人目に晒されずに辿り着けますように!神様仏様葉隠様ーーー!!
「丸子! 起きろ丸子!! 敵の精神攻撃だ!! オレたちは幻覚を見させられている! 早く目を覚ましてくれ!!!」
END?? 幸せな悪夢
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