このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

拓楽

(お風呂でイチャイチャ)


 二人で出かけていたら、突然の雨に降られてしまった。
 朝の天気予報では雨なんて一言も言ってなかったぞ、と、二人して雨音に負けじと空に文句を叫んだ。
 やっと家に着いたところで、誰が先に風呂に入るんだと、お互いに顔を見合わせる。だがそれも一瞬のことで、すぐに、相手が出るの待っていたら風邪を引くという結論に至った。
 仲良く濡れた足音を立てながら、風呂場へと向かう。
 その途中でオレは気づいてしまった。こいつと二人で暮らすようになって随分経つが、一緒に風呂に入るのなんて初めてじゃないか?
 セックスなんてほぼ毎日しているのに、今更裸にドギマギしてるなんて笑い話だが、そういう雰囲気じゃない時に見られる裸というものはむしろ非日常感がある。

「ひえー、それにしても酷い雨だったな」
「あ、ああ。そうだな」

 脱衣所に入ってすぐ、丸子は無造作に服を脱いで洗濯機に放り込む。水分を含んだ布が、重たい音を立てて底に落ちる。続いて下着までなんの恥じらいもなく脱ぎ捨てた丸子は、悔しいほどいつも通りだ。オレばかり興奮してて、どうしたらこいつにも意識させられるのか、なんて考えなくてもいいことをつい考えてしまう。
 盗み見るように横目で見た丸子の肌は、いつもの薄暗い照明の下で見るよりもずっと白く見えた。
 一緒に暮らしてからは幾分かは肉はついたが、それでも肉付きの薄い体に思わず喉が鳴る。
 喉が渇く感覚に促されるままに、雨に濡れた自身の唇を舌で舐めると、熱い息が口から漏れた。

「オメー、なにぼけっとしてんだ。さみーから早くこいよ」

 オレにどんな目で見られているかも知らない丸子は、前を隠しもしないで堂々と立っていた。
 思わず股間に目をやると、寒さからか、いつもより小さくなっているモノがぶら下がっている。
「オメーはいつからそんな変態になったんだ…」
 オレの視線に気づいた丸子の呆れた声に、咄嗟に「ちがっ」と否定の声をあげるが、すぐに「…いません」と素直に頭を下げる。
 そう。オレは気付けば同い年の同性にムラムラしてしまう変態になってしまっていた。ふつうに女の子が好きだったのに。どうしてこんなことに……いや、よくよく考えれば丸子だってオレに突っ込まれてアヘアヘしてるんだからお互い様だろ。

「うん。オレは悪くないな」
「この一瞬でなんでそうなんだよっ?!」
「オレが変態なら丸子も変態。つまりオレたちは変態同士だ。何も気兼ねする必要なんてないだろ」
「そ、そうなのか?」

 一瞬丸め込まれそうになった丸子だが、すぐに正気に戻った。そのまま丸められてろよ。丸子だけに。

「ひっ、今なんかめちゃくちゃ冷たい空気が流れなかったかっ?!」
「……気のせいだろ」

 丸子を押し除けて、風呂の蛇口を捻る。まだ温まってない水が流れ出し、次第に熱いお湯になっていく。湯船に溜めていく間も待ちきれないので、丸子と向かい合う形で湯船に腰を下ろした。
 ゆっくりと上ってくる熱い湯に、体が自然に震える。冷えた足先から、じんわりと温められて「はあーっ」と声が漏れた。

「ジジイかよ、澄野」
「なんでそうなるんだよ」
「昔、たまに行ってた銭湯で、ジジイどもがよくそうやってため息ついてたんだよ」
「だからってジジイはないだろ」

 意趣返しに足先でツンツンと丸子の足を突くと、丸子の体が大げさに跳ねる。

「うおっ、やったな」
「油断大敵だぞ、丸子っ」

 丸子が反撃で足を上げて、水を飛ばしてくる。
 ぱちゃぱちゃと跳ねる水音と、笑い声が風呂場に反響する。
 そうして二人ではしゃいでいると、いつの間にか風呂の湯が溢れるほどになっていた。慌てて体を起こして蛇口を閉める。はあー、もったいない。

「っ……」

 気づくと、丸子を押し倒すようにオレは覆い被さっていた。
 オレのすぐ下に丸子がいて、大きな丸い目でオレを見上げている。雫の垂れる髪。濡れた肌。半開きの唇。赤い目が誘うように閉じられていく。
 丸子の顎を指でそっと支えて、唇を重ねる。湿った唇はまだ少し冷たかった。

「……んっ、はっ……」

 浴室の壁に手をついて、丸子の唇に吸い付く。ふにふにとした唇の感触を楽しむように、何度も何度も啄む。そのたびにチュッチュっと可愛らしいリップ音が浴場に響く。
 
「ふっ、んぅ……はあっ、はあっ」

 丸子の手がオレの肩に添えられる。
 もうやめろなのか、もっとなのか、オレは勝手に後者だと解釈して、舌を入れて熱くなった口内を舐め回す。
 丸子の尖った歯の感触。舌の表面のざらつき。上顎の滑らかさを心ゆくまで堪能する。どれだけ味わっても味わい足りないほど、丸子とのキスは気持ちがいい。
 快楽から溢れる丸子の涙を、指で優しく拭う。
 泣き虫な丸子をあやすように、その丸い頭を撫でて、唇をチュゥッと引っ張る。「んぅぅ」と丸子が唇を尖らせで抗議してくるのが、なんだか愛らしく感じた。

「もっ、のぼせる……」
「悪い……ちょっとやりすぎたな」
「たく、がっつきすぎなんだよオメーは」

 さっきまで真っ白だった丸子の肌は、今はもうほんのり桃色に染まっていた。
 思わず肩口に吸い付くと、丸子に思いっきり頭を殴られる。

「これ以上はここではやらねえからなっ!」
「いたいっいたいっ、わかったからやめてくれ」
「バカ澄野! 変態澄野!」
「オレがジジイなら、丸子は子供だな」
「ムキーッ」

 丸子の腕が水を跳ね上げるように持ち上げられる。

「あははっ!」
「笑ってんじゃねーよ!」

 オレたちはそのあと、また水を掛け合ったり、それに飽きたらまたキスをしたり、まったりと風呂を楽しんだ。



「あちぃ〜…」

風呂から上がった丸子は、すっかり茹ってしまったようだ。タンクトップとハーフパンツというスタイルで床に転がっている。

「汚いだろ」
「この前掃除機かけたから平気」
「最後に掃除機かけたのって一週間くらい前じゃないか」

 オレも丸子もあまりまめに掃除をするタイプじゃない。それでもオレは最低限の片付けはできるが、丸子は放っておくとそこら中にゴミを置きっぱなしにして部屋を荒廃させるタイプだ。
 やれやれと丸子は体を起き上がらせると「んっ!」と甘えるようにオレに手を伸ばす。
 まさかオレに抱っこしてほしいとでもいうんだろうか。こんなことで可愛いと思うほどオレは甘くないぞ。

「ほら、これでいいか」
「へへへ。すみのぉ〜♡」

 これでも筋トレは欠かさず続けている。その成果をどうやら見せる時がきたようだ。
 オレは丸子の体をひょいっと抱き上げる。
 いくら丸子が軽いと言っても、大の男を軽々と持ち上げられるとは、自分で自分の力が恐ろしいな。
 丸子は抱き上げられたことが嬉しかったのか、甘えるように擦り寄ってくる。さっきまではツンツンしていたくせに、現金なやつだ。

「なあ、澄野、オレとしたいことがあるんじゃないのか?」

 熱のこもった眼差しでこちらを見る丸子に、忘れかけていた情動が蘇る。ごくりと喉を鳴らせば、すぐ近くにいた丸子にもその音が聞こえていたのだろう。からかうようなら笑い声を上げる。その度に熱い息がオレの喉をくすぐるのがたまらない。

「なーあ、すみのぉ〜♡」
「そういうの、オレ以外にするなよ」
「えっ! な、なんだよオメーっ一丁前にヤキモチ妬いてんのかっっ」

 えへえへっと喜んでいるところ悪いが、オレの言いたいことはそんなことじゃない。

「お前のかわい子ぶりっこで興奮する男なんてオレぐらいだからな。勘違いするなよ」
「は、はあ〜〜〜っっっ!?!?!」

 丸子の目を見てはっきりと釘を刺す。
 まあ、もしオレ以外にこんな丸子で興奮する奴がいたら、正直何をするかオレにもわからない。法律は犯したくないが、相手の出方によってはやむを得ないことになるだろう。
 オレは騒ぐ丸子の口を、自分の口で塞ぐ。

「んぐぅ…むぅ……んっ、ぁっ」

 抱き上げられて逃げ場のない丸子は、せめてもの抵抗のようにオレの服をギュッと握っている。
 はあ〜〜〜〜丸子が可愛い過ぎてイラついてきた。
 これが無自覚なんだから恐ろしい。

「ぷはっ、はあっ……クソッ、こういうことばっかり上手くなりやがって」
「褒めてくれるなんて珍しいな」
「褒めてねーよ! バカ! いいからもうベッドに連れてけよ! いつ落とされるか気が気じゃねーんだよ」

 照れ隠しからポカポカと丸子に胸の辺りを叩かれながら、オレは鼻歌でも歌い気分でベッドルームに足を向ける。
 雨に降られるのも、なかなか悪くないな。



終わり
1/4ページ
スキ