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 ついに来た。粟田口の大部屋に戻ったボクは、そう思った。
 あの日、あるじさんとこんのすけの話をたまたま聞いてから、何週間も経った。
 ボクはまだ、このままでもまだ強くなれるかもしれない。でも、「いずれ限度が来る」という感覚もあった。根拠なんてないけれど、ボクはこう思うのだ。

 ――あるじさんのために、ボクは強くなりたい。

 あの日芽吹いた強くなりたいという想いが、確かな形となって現れた。
 それを自覚したらいても立ってもいられなくて、ボクは思わず立ち上がる。

「おい乱、どうした?」
「んー、ちょっと用事!」

 薬研にかけられた声に、軽い調子で返す。それなのに薬研はニヤッと笑って「頑張れよ〜」なんて言うんだから兄弟って不思議なものだ。
 ちらりと振り返った時、短刀と脇差の兄弟どころか鳴狐さんとお供の狐にまでニッコリと笑顔で見送られてしまい、どうにも照れくさい思いを抱きながら執務室へと駆け出した。
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