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 それから、ボクたち第二部隊は順調に強くなっていった。道中に現れる素早い槍の時間遡行軍に苦戦しながらも、なんとか京都の市中を抜け、三条大橋を通り、池田屋まで進軍していった。先へ進めば進むほど道中の敵は強くなっていき、時には重傷を負うこともあった。それでも、ボクたちは誰一振り欠けることなく踏破していったのだ。
 そして、強くなったのはボクたち刀だけじゃない。あるじさんもだった。



 あれは、京都の市中を本格的に攻略していこうと決めた矢先のことだった。

「秋田!」

 敵との戦闘中、例の素早い槍に秋田が集中攻撃を受けたのだ。あの敵は素早い。本来なら真っ先に仕留めるべきだったけれど、ボクたちの中の誰も、あの槍の機動には敵わなかったのだ。それで、秋田が連続攻撃をされてしまった。なんとか敵軍を倒しきったものの、秋田の衣服はボロボロに破れている。その様子を見て、ボクは一時的に身を隠すよう指示した。夜の市中で、偵察や隠蔽、軌道に優れるボクら短刀が身を隠すのは容易いことなのだ。
 ちょうどそのタイミングで、あるじさんから通信が入る。

『こちら本丸です。乱藤四郎、皆は無事ですか!』
「こちら第二部隊。重傷者はいないけど、秋田が槍の攻撃で中傷。他はみんな軽傷以下だよ」
『わかりました。……やはり、あの槍は手強いですね』

 あるじさんは一瞬息を呑んだけれど、すぐに落ち着いた声音で返事をした。機械越しでも、あるじさんの迷いが伝わってくるようだった。

「ねえ、あるじさん」

 声をかければ、少し固い声が返ってくる。

「ボクらなら、大丈夫だよ」

 少しくらい傷ついたって。そう言えば、わかりやすく狼狽えた。

『……そう、ですよね』

 尚躊躇いを見せるあるじさんの声を注意深く聞いていると、くいっ袖を引かれた。秋田だ。口パクで、『かわってください』と言っている。秋田に頷いて機械を貸すと、そっと優しく触れた。まるで、宝物に触れるみたいな、そんな手つきで。

「主君」

 秋田が、いつもより少し優しい声音であるじさんを呼んだ。

「僕たちはちゃんと帰ります。安心してください。だって、主君の守り刀ですからね」

 そう言って、秋田は笑った。それを皮切りに、周りのみんなも代わるがわるあるじさんに話しかける。

「そうだぞ大将。戦場じゃ頼りにしてくれって言ったろ」
「万が一間違ったって、俺が教えてやるから。大将はもっと堂々としてろよ」

 薬研と厚が秋田の両脇から顔を出す。それを見て、五虎退と前田も近付
いた。

「あるじさま、ちゃんと帰りますから……そしたら、撫でてください」
「主君、無事の帰還を約束します。……ええ、必ずです」

 ぐす、と涙声が聞こえて、思わず笑ってしまう。
 本当に仕方のない人だ。

「……ね、大丈夫でしょ? みんなのことはボクが責任もって連れ帰るからさ」

 ――それなのに、こんなにも愛おしい。

「ボクに任せてよ、あるじさん」

 機械越しに、パンと音が聞こえる。ボクともう一振りしか知らない、あるじさんの癖。

『すみません。取り乱しました。……第二部隊、行軍を決行します』

 すう、と音が聞こえる。

『ただし。必ず、無事に戻ること』

 その声音から伝わる信頼は、何よりの激励だ。
 優しすぎて臆病なあるじさんのもとへ、早く戻って顔を見せてあげなくちゃ。そんな気合いのおかげか、その出陣でボクたちは見事敵将に勝利を飾り、本丸へと帰還できた。みんな服とか全部ボロボロだったけれど、秋田の手入れをしながら涙を流して「ありがとう」って言うあるじさんを見てたらそんなことどうでもよくなっちゃって、傷に響くのも構わずみんなで笑っちゃったんだ。
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