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「修行……ですか」

 遠征の結果報告に来たボクは、執務室の前でピタリと足を止めた。聞こえた声はあるじさんのものだ。執務室はあるじさんがお仕事をする部屋なのだから何も不思議ではないけれど、口振りと気配からいって誰かと話をしているようだった。

「はい。一定の強さを示した刀剣男士を修行に出すことができるようになるのです。目安は……そうですね、池田屋周辺の時間遡行軍を一通り殲滅できるくらいだとされております」

 声と内容から察するに、話し相手はこんのすけだ。それ以外に気配はしないので、近侍を務める切国さんも今は席を外しているのだろう。
 それにしても。池田屋というと、ボクたちと同じく初期から本丸を支えている加州さんや大和守さん、長曽祢さん、第一部隊で切国さんと一緒に戦う堀川くんや和泉守さんたちに縁のある場所だ。縁があるだなんてフンワリとした表現でいいのか疑問はあるけど、ともかくあるじさんが「近々幕末の京都に出陣します」と言ったことで一部の男士がざわめいたことは記憶に新しい。

「池田屋……。ちょうど、次に出陣してもらう場所が京都。時代もその辺りでしたね」
「ええ。ですので、次に向かう時代が一種“審神者としての独り立ち”の線引きとなっているものと思われます」
「そういえば、以前はこの時代までしか遡行できなかったと先輩に伺ったことがありますね……」

 短刀の偵察値の高さからなのか、あるじさんもこんのすけもボクに気がついていないみたいだった。まだまだ話は続きそうなので、出直そうと思ってボクは執務室から離れた。
 それにしても。

「修行かあ」

 つい口から漏れた言葉だった。
 演練や、万屋のある商店街で見かけたボクとは違う乱藤四郎。ボクだけじゃない、前田、薬研、五虎退、秋田――他の粟田口の兄弟たちも、この本丸にいる兄弟たちとは異なる装いをしているのを見かけたことがある。
 この本丸は、脅威を退け生き残って逞しくなった。他の本丸に比べればまだまだ新しくとも、着実に出陣できる時代の範囲を広げているし、ボクたち刀剣男士の実力もあるじさんの霊力も高まっている。ここに至るまでにはそれなりの時間が流れている。つまり、本丸の二振り目で古参であるボクも、人の身を得てから同じくらいの時間が経っているということだ。本丸外から流れてくる情報を、一切知らないなんてことはない。
 修行は、一定の強さ、それから覚悟を示した刀剣男士に許されている、自分を見つめ直すための旅だ。そういう風に、刀剣男士の間では認識されている。
 その先でどんなものを見て、どんなことを感じてあの姿になったのか。そこまでは、わからない。審神者であるあるじさんは何か知っているのかもしれないけれど、少なくともボクや兄弟たちの中では誰も知らないことだった。
 どっちにしたって、池田屋の遡行軍を楽々倒せるレベルにならないと修行の許可は下りないのだ。ボクに限らず、他の兄弟たちや、短刀仲間、それに切国さんだって。
 この先、修行の許可が下りた時、あるじさんは誰を最初に修行へと向かわせるのだろうか。
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