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初鍛刀 乱藤四郎

 本丸内、転送門のすぐ近く。私は二振りの刀を転送するため、機械の前に立っていた。

「山姥切国広、乱藤四郎。無理は禁物ですからね」

 そう言って切国さんと乱くんを見ると、乱くんは腰に手を当てる。

「も〜、あるじさんがそんな顔してどうするの!」
「えっ、そんな顔ってどんな顔ですか」
「こーんな顔。ねっ?」

 乱くんは唇を噛み締め、いかにも「緊張しています」というふうな表情をしている。つまり、今の私がそんな表情をしているということだろう。その表情のまま乱くんが切国さんを振り向き同意を求めると、切国さんの方は常と変わらない表情で頷いていた。やはり私は「そんな表情」をしているらしい。

「切国さん、あるじさんって心配性なんだね?」
「……ほら見ろ、やはり俺なんか」
「まーたそういうこと言う! っていうか、それじゃあなたもボクもあるじさんに信用されてないみたいじゃん」
「いや、別にあんたは……」

 どうにも口下手らしい切国さんに対し、乱くんはよく喋る。なんだか切国さんが言い負かされているみたいになっているが、おそらく乱くんは切国さんの後ろ向きな認識をどうにかしようとしているのだろう。それも私が心配を態度に出してしまったからだと思うと、情けない気持ちになってしまう。
 頬をぱんと叩く。深く息を吸い込んで、それから吐き出す。

「ごめんなさい。私が情けない顔してるから心配をかけてしまいましたね」

 口を開いた私を見て、切国さんと乱くんが私に向き直る。二振りの視線が真っすぐ私に向けられる。これが人の上に立つということなのだと、訴えかけられているようだった。
 強く在らねば。そう思った。この美しく、綺麗で、可憐で――かっこいい刀の神様に応えるために。

「でも、大丈夫です。切国さんと乱くんならやってくれるって信じていま
すから」

 彼らは付喪神だ。人の想いに応えて、力を貸してくれている。それならば私は、彼らが最大限力を発揮できるような想いを伝えなければならない。

「ああ」
「ボクに任せて!」

 深く息を吸い込んで、声を張り上げる。

「第一部隊隊長、山姥切国広。以下隊員、乱藤四郎。一八六九年、函館へ」

 花吹雪が二振りを包んで、それから――音もなく彼らの姿が消えた。
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