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うつくしい花

 短い言葉に滲む誇り。「俺は俺だ」との言葉通り、揺るぎない芯のようなものが垣間見える。
 私にとっての山姥切国広とは、そんな刀だ。

「おつかれさまです、山姥切国広。さすがですね」
「……写しに何を期待しているというんだ」

 そう言って顔を背けるも、頭からはふわりと薄紅の花弁が舞い落ちる。ああ、綺麗なあなたは花もよく似合うんだね、という感想は心の中に留めておいた。

「それはもちろん、益々のご活躍を。だってあなたは私の信頼する一振りですからね」

 代わりに主としての言葉をかける。切国さんは少しひねくれていて後ろ向きだが、主の期待には応えようとしてくれるからだ。これは、今までの彼の誉獲得回数が物語っている紛れもない事実だった。
 きっと頷いてくれているだろうと少し上にあるその顔を見上げる。

「あんたの命令なら、応えよう」

 思いがけず、その目を真正面から見つめてしまう。布の奥から真っ直ぐにこちらの視線を捕える目に秘められた確かな光。その輝きは青か緑か――いや、そのどちらともが混ざった色だ。

 あんなに心奪われる色を、私は知らない。

「……なんだ、その反応は」

 そんな風に言われて、は、と我に返った。その視線はいつもよりもじとりとしたものになってしまい、名残惜しいようなホッとしたような気持ちになる。これに安堵しているような私も私なのだけれど。

「あ、ええと、ごめんなさい」

 ひとつ呼吸を置く。思わず零れた笑みとともに素直な言葉を紡ぐ。

「ただ……そうですね。嬉しいことを言ってくれるなあと思いまして」

 そうしたら、案の定切国さんは布の奥に丸まってしまったのだった。



 あの瞳の色が、頭から離れない。真っ直ぐな光。ひねくれた部分や後ろ向きさに誇りが打ち勝った、そんな視線の力強さ。少し陰がかかっていたところも探究心をそそられる。
 そんなわけで、私は色辞典を引っ張り出したりなんかしてしまっている。どうにかしてあの瞳に一番近い色を見つけたくて。

「青緑……孔雀色……」

 青や緑の色たちを眺める。その一つひとつに心を動かされるも、感覚が「違う」と言っていた。エメラルドグリーン、蒼色、翡翠色、碧色――ありとあらゆる青緑を凝視して、ふとある色に視線が戻る。
 緑青の横に添えられていた、その色。

「花緑青……」

 “パリス・グリーン”の和名。十九世紀初頭にパリで生産され始めた明るく渋い青緑色。顔料は絵具や建築用の塗料としても用いられていたが、強い毒性によって現在は色名のみが残る――

「……毒、か」

 切国さんは、ひねくれているけれどその本質はどこまでも真っ直ぐな芯にあると私は認識している。同時に真面目でもあるので作戦として任せれば応えてくれるだろうけれど、毒などの搦手はあまり似合わなさそう。というのが私の中での印象だった。
 それでも、毒だというならば。こうして名付けてなお心を染められていることこそが、この花が毒である証拠なのかもしれない
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