第二十三章 男体山より現れし神
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ぼんやりとした光に、目を覚ます。
鳥の鳴き声や、虫の声も聞こえる。
朝露にしけった草木の香りもそよ風にのせられてきた。
もう、夜が明けたようだ。
「おはようございます。宿、ありがとうございました」
「ああ、おはよう。早いねえ。なんだい、もしかしてもう上の方へ向かうのかい?」
男は、まだ眠そうにしょぼしょぼさせた目を見開く。
「そうだ、昨日の夜は鎌倉の頼朝様の命でこちらに来た方たちも泊まっていてね。向こうの方で、まだ寝ているんじゃないかな。彼らも山頂の方、奥津宮を目指していくそうだから、良かったら一緒に行ったらどうだい? 一人よりも安全だと思うよ」
頼朝の命で、という言葉に優樹はまだ寝ぼけていた頭が覚醒するのを感じた。
「いえ⋯⋯まだ休んでいらっしゃるんでしょう? 朝早い方が空気も澄んでいておいしいでしょうし、一人で大丈夫ですよ」
「そうかい? ⋯⋯そういえばお前さん、なんだか昨日より⋯⋯」
「? どうかしましたか?」
「う、ん⋯⋯いや、気のせいだろうね、なんでもないよ⋯⋯」
まだ何か言い募ろうとしたが、男はそれ以上何も言わなかった。
優樹は足早に岩屋を目指した。
(頼朝の命⋯⋯ということは鎌倉の御家人? わからないけれど⋯⋯顔を合わせる前に、早く行った方が良い)
下りと違って、登りはかなり足に堪えた。
「っく⋯⋯エスカーさえあればすぐに登っていけるのに」
ぜえぜえと言いながら、優樹は上を目指した。
なんとか無事に奥津宮までたどりつく。
ここまで来れば、もう岩屋も近い。
稚児が淵から岩に押し寄せる波を見下ろす。
ここは風が強い。
鎌倉は故郷でもあるから、江ノ島には良く遊びに来ていた。
違う世界とはいえ、自然はそう変わらない形をしているように感じた。
現代と違って整備された道ではないため、慎重に足を進めていく。
岩屋にたどりついたとき、はあ、とようやく一息つくことができた。
もう一度、来たときと同じ洞穴に入れば、もしかしたら──。
暗闇の先が、恐ろしく感じた。
けれど、行くしかない。
ゆっくりと足を進めていく。
洞穴の中はひんやりとしている。
先ほどまで太陽に照らされた海や空を見ていたから、目がちかちかとするようであった。
どんどん、明かりがなくなっていく。
恐怖を押し殺して、先へ先へと進んでいく。
とん、と前側に手が当たり、え、と思わずまばたきをした。
恐る恐る手を伸ばす。──行き止まりだ。
そんなはずはない。
周りに手を伝わせていくも、広い空間も何もない。
暗いから、道を間違えたのか?
振り返ったとき、ふわり、と目の前でやわらかな光が舞った。
「これ⋯⋯」
ぐにゃり、と足元が歪むような感覚に、たたらを踏む。
光は、行き止まりだったはずの先にふわりふわりと飛んでいった。
足をその方向へと踏み出したとき、え、と優樹は目を見開いた。
予想していた感覚が──足場がない。
一気にぐん、と前のめりになり息を詰めた。
「すまないな、この人数分の朝餉まで馳走になってしまって」
「いえいえ、かまいませんよ。上までかなり急ですからね。体力も使うでしょう。⋯⋯昨日言っていたあの子も、ご飯くらい食べていけば良かったのにね。朝早くに出立してしまいましたよ」
神社仕えの男の言葉に、与一は目線を上げる。
「あの子、というと、参拝しにきていたという?」
「ええ。育ち盛りなんだから、いっぱい食べていけば良かったのにねえ、あのお稚児さん」
稚児、という言葉に与一は目を伏せる。
そして快活な笑みを男に向けた。
「もし会うことがあったら、気にかけておきましょう」