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〜独白〜鳥籠の番人

(●アリスの一日●)

「おはようございます、アリス」
いつもと変わらない朝。
紫色の世界の冷んやりとした空気を纏い、黒服、黒仮面の男がアリスに笑顔を向けている。

「‥‥‥‥‥」

重い身体をベッドから無理矢理起こし、部屋に据え置かれた、小さめの丸いテーブルの上にある、適温の紅茶を一杯。
これが繰り返される朝の儀式だ。
紅茶のカップを啜りながら、上目づかいに男の長い指を見る。
いつも通り、硝子の小瓶の蓋を器用にクルクル回していた。

「今日は何色になさいますか?‥‥
可愛い桃色に情熱の赤、神秘の紫に爽やかな緑。それとも‥‥」

「‥‥‥いらない。」

かぶりを振って小さくつぶやいた。
男は聞こえなかったのか楽しそうに小瓶の中からキャンディーを一粒取り出した。
「‥‥本日は、これがピッタリです。」

そう言うと僕の口にキャンディーを押し込んできた。

爽やかな柑橘の香りと酸味が口の中に広がる。

「‥‥酸っぱいよ」

口を尖らせ抗議をするも、黒い男(ナイトメア)は楽し気に笑うばかりである。

「‥ご自分で、選ばないからですよ」

ボソっと呟かれた言葉にナイトメアの苛立ちを感じたが無視する事にした。
ナイトメアが部屋から出て行った後はいつも通り、お気に入りの長椅子に腰掛け、本のページをめくった。

昨日はどこまで読んだっけ?

何故か挟んでおいた栞が無くなっていた為、ページが分からなくなってしまった。
アリスは小さく溜息をつき、本を閉じた。
部屋の中をキョロキョロとアッチコッチ視線を動かしてみても、目新しい物は見当たらない。
いつも通り‥‥‥何も無い部屋だった。

「‥‥つまんないなぁ‥‥」

ポツリと呟き、庭に続く窓の扉を開けてみた。
高い樹々に囲まれた庭は色とりどりの花が咲き、紫の空は今は昼間の時間なので少し黄色味を帯びている。
アリスはワクワクして、庭に出てみる事にした。
窓枠を超え、薄い芝生の上にトンっと降り立つ。
ナイトメアに内緒で庭に出た事により、先程までの嫌な気分がスウーと消えていった。
一人で歩く庭は何もかもが興味深かった。
低木から立ち登る白い水蒸気に乗り、青い羽の蝶は空高く舞い上がる。
覗き込んだ噴水の底は、空の紫を映し、銀色の小魚達が大きな岩に隠れようとウオサオしていた。
アリスは声を上げて笑い、そういえば、ここで目覚めてから初めて笑った事に気づいた。
ザワザワと花々が揺れる。

「‥アリス、お昼の用意ができましたよ。」

背後からフイに声をかけられ、驚いて振り向くと黒い仮面のナイトメアが笑顔で立っていた。

END



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