〜独白〜鳥籠の番人
(●籠の中の鳥‥もしくは楽園の王に抱かれて●)
真っ黒な世界に僕は居た。
遠く遠くずっと遠くに、誰かを呼ぶ声を聞いた気がする。
緩やかに回る砂時計の砂の様に、僕の頭は回っている。
色々な物が抜け落ちた、空っぽな僕は其れがなんなのかを思い出す事が出来ない。
ただ、手に残る冷たい感触は、きっと誰かの流した涙なのだと思うだけだ。
「‥おはようございます、アリス。」
不意に声をかけられ、驚き、重い瞼を開けると真っ黒な2つの瞳が僕を覗き込んでいた。
真っ黒なぐるぐると渦巻く世界に居た僕は、今、起きているのか眠っているのかがよく分からなくなった。
軽く混乱する僕に気づいたのか気遣わし気な指が僕の頬を撫でる。
「‥ご気分が優れませんか?」
彼の質問に大きく頭を左右に振る。
安堵のため息が小さく聞こえた。
何処からか鳥の囀りが聞こえたが、黒い彼以外、何も見えない。
「今は夜なの?」
少し不安気に彼にたずねた。
ゆっくりと大きな手を背中に回され、抱き寄せられる。
「時刻から言えば今は昼間ですよ、アリス。」
楽し気な声色に、少しムっとしながら男の真っ黒な瞳を真っ直ぐに見返した。
「キャンディー‥食べますか?」
おもむろに男は硝子の小瓶をポケットから取り出した。
「キャンディー?」
「甘くて、美味しいですよ?」
ほらっと言って小蓋を開け、僕にみえる様に小瓶を傾けた。
「何色のキャンディーがお好みですか?」
「全部、同じ色に見えるけど?」
「‥‥‥あぁ‥‥」
男は長い指を自分の顎に当て、何やら思いついたらしく、ウンウンと一人で納得している。
「僕とした事が、アリスが起きて下さった事に舞い上がって、つい、うっかりとしてしまいました。」
そう言うと、男はついっと1粒のキャンディーを僕の顔の前に差し出した
「こちらを召し上がってみて下さい、きっとお好みに合うはずですから。」
僕の返事を待たず口にキャンディーをねじ込んできた。
あまりの事にむせそうになり、薄っすらと涙ぐむ僕の目を嬉しそうに覗き込む。
「ほら、美味しいでしょ?」
口の中には、苺の甘い香りと甘酸っぱい味が広がっている。
「‥‥‥‥‥」
無言でキャンディーを食べる僕の姿の何がそんなに楽しいのか、視線を外す事なくじっと見られている事に多少の居心地の悪さを感じ始めた頃、大きな鐘の音が響き渡った。
「‥‥何?」
僕の質問に彼はゆっくりと微笑みを浮かべ、首を傾げる。
「今から夜になりましたって合図ですよ、アリス。」
そう言うと彼は僕の座るベッドに腰掛け、僕を膝の上に抱え込んだ。
「‥ここは、アナタの王国ですから」
僕は口内に残るキャンディーをゴクリと飲み込んでしまった。
END
真っ黒な世界に僕は居た。
遠く遠くずっと遠くに、誰かを呼ぶ声を聞いた気がする。
緩やかに回る砂時計の砂の様に、僕の頭は回っている。
色々な物が抜け落ちた、空っぽな僕は其れがなんなのかを思い出す事が出来ない。
ただ、手に残る冷たい感触は、きっと誰かの流した涙なのだと思うだけだ。
「‥おはようございます、アリス。」
不意に声をかけられ、驚き、重い瞼を開けると真っ黒な2つの瞳が僕を覗き込んでいた。
真っ黒なぐるぐると渦巻く世界に居た僕は、今、起きているのか眠っているのかがよく分からなくなった。
軽く混乱する僕に気づいたのか気遣わし気な指が僕の頬を撫でる。
「‥ご気分が優れませんか?」
彼の質問に大きく頭を左右に振る。
安堵のため息が小さく聞こえた。
何処からか鳥の囀りが聞こえたが、黒い彼以外、何も見えない。
「今は夜なの?」
少し不安気に彼にたずねた。
ゆっくりと大きな手を背中に回され、抱き寄せられる。
「時刻から言えば今は昼間ですよ、アリス。」
楽し気な声色に、少しムっとしながら男の真っ黒な瞳を真っ直ぐに見返した。
「キャンディー‥食べますか?」
おもむろに男は硝子の小瓶をポケットから取り出した。
「キャンディー?」
「甘くて、美味しいですよ?」
ほらっと言って小蓋を開け、僕にみえる様に小瓶を傾けた。
「何色のキャンディーがお好みですか?」
「全部、同じ色に見えるけど?」
「‥‥‥あぁ‥‥」
男は長い指を自分の顎に当て、何やら思いついたらしく、ウンウンと一人で納得している。
「僕とした事が、アリスが起きて下さった事に舞い上がって、つい、うっかりとしてしまいました。」
そう言うと、男はついっと1粒のキャンディーを僕の顔の前に差し出した
「こちらを召し上がってみて下さい、きっとお好みに合うはずですから。」
僕の返事を待たず口にキャンディーをねじ込んできた。
あまりの事にむせそうになり、薄っすらと涙ぐむ僕の目を嬉しそうに覗き込む。
「ほら、美味しいでしょ?」
口の中には、苺の甘い香りと甘酸っぱい味が広がっている。
「‥‥‥‥‥」
無言でキャンディーを食べる僕の姿の何がそんなに楽しいのか、視線を外す事なくじっと見られている事に多少の居心地の悪さを感じ始めた頃、大きな鐘の音が響き渡った。
「‥‥何?」
僕の質問に彼はゆっくりと微笑みを浮かべ、首を傾げる。
「今から夜になりましたって合図ですよ、アリス。」
そう言うと彼は僕の座るベッドに腰掛け、僕を膝の上に抱え込んだ。
「‥ここは、アナタの王国ですから」
僕は口内に残るキャンディーをゴクリと飲み込んでしまった。
END