尾形、ネコ物語。
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「百ちゃんほんとにかわいいね」
☆☆と入れ替わりで杉元が風呂に行ったあと、俺はまた☆☆の遊び相手をしている。
あれから☆☆が風呂から上がってくるまで、俺と杉元は特に話すこともなく人一人分空けてソファに座っていた。正確に言えば俺は伏せの姿勢だな。
俺と☆☆を二人きりにしたくないようだったから、さっさと上がってくるだろう。協力関係になってもそこは譲れないだろうからな。
「ねえ百ちゃん、写真撮ってもいいかな?スマホの待ち受けにしたいんだ」
「にゃあ」
ああ、いいぞ。だが人間に戻ったら人間姿の俺に変えてもらうからな。
☆☆がそばに置いてあるスマホを手に取ったので、俺も膝の上からソファに移動し、姿勢を正して座った。他の奴らにも見せそうだからな。気の抜けたところを見られたくない。
「百ちゃんこっち向いて~」
言われた通りにスマホのレンズを見た。カシャッと音がしたので撮れたのだろう。
いつも撮られそうになったらさっさと逃げてたから、俺をちゃんと撮れたのはお前が初めてなんだぜ。大事にしてくれよ。
両手でスマホを持って操作してるので、☆☆の腕と太ももの間からするりと身体を潜り込ませ、そのまま身体の向きを変えて画面を見ることにした。
「スマホ気になるのかな?もう少しで終わるからもうちょっと待っててね~」
☆☆はささっとスマホを操作すると「よし、出来たよ」と言い、俺の背中を撫でた。
猫の身体も良いもんだな。くっついても許されるし、文句も言われない。主に杉元から。
しばらくこのままでもいいなと思うが、話せないのは嫌だ。そして、俺を覚えていないのももっと嫌だ。
「明日大学の友達に見せるんだ。可愛くて賢いネコちゃんなんだよ~って言うの」
「にゃう」
「うっ、かわいい……。ねぇ百ちゃん、私の彼氏にならない?ごはんとお家は保証するよ?」
「彼氏とか駄目だから!!絶対駄目だから!!!」
俺が返事をする前に杉元の野郎が帰って来ちまった。
ドアを開けた瞬間に叫びやがって、耳が痛えじゃねえか。タイミングが良すぎて盗み聞きしてたんじゃないかと疑りたくなる。たぶん気配はしてなかったと思うんだが、断定はできない。何故かって?ちょっと気を抜いてたからだよ。……いや、だいぶ気を抜いてた。
杉元のやつ、すぐに☆☆のそばに来たと思ったら、隣に座って両肩に手を乗せやがった。☆☆が俺にご執心なのが気に入らないようだ。
「駄目でしょ佐一、そんなに大きな声出したら百ちゃんがびっくりしちゃうじゃない」
「俺がいるんだから彼氏とかいらないでしょ?俺家事も出来るし、喧嘩も負けないから姉ちゃん守れるよ。お金もちゃんと稼いでくるから安心して」
「もう、そんなこと言ってるとまたシスコンって言われちゃうよ。佐一はモテるんだからそろそろ姉離れしないと。あと、それはもう彼氏というより旦那だと思う」
「俺はシスコンって言われるくらいがちょうど良いと思うよ。その方が姉ちゃんに近寄る虫も、変態野郎に目をつけられるのも減るし、良いこと尽くめじゃん」
こいつ回りに言われるほどなのかよ。立場を上手く利用してるじゃねぇか。まぁ俺もするだろうが、他のやつがやるのは気に入らない。
だが、俺の代わりに他の虫を追い払っているなら今のうちは許してやるよ。俺がこんな状態だからな、必要なことだ。
「そりゃあ、佐一が一緒だと変なの寄ってこないから助かってるし感謝もしてるけど、私だってそのうち彼氏くらい作るんだからね!」
「駄目だってば!姉ちゃんに寄ってくる男どもに良いのいた?ろくなのいなかったでしょ?」
「数少ない男友達は普通でしょ?だから友達になれる人は大丈夫だよ」
「いいや、強くないと駄目だね」
「花ちゃんなら文武両道だよ」
「でも俺より弱いじゃん」
「そんなこと言ったらほとんど駄目じゃん!佐一より強い人探すのって難しいと思うんだけど!」
「だって俺より弱かったら意味ないでしょ。俺が日々鍛えてるから姉ちゃんに近づく変態野郎を蹴散らせてるんだよ?俺より強かったら姉ちゃん餌食になってるよ」
「うっ、そうだけどさ……」
相変わらず変態野郎を惹き付けてるのか。
☆☆は昔から変態に好かれやすいらしく、困っていたそうだ。俺と出会ったきっかけも野郎に絡まれてたところを仕方なく助けたことだった。軍服着てたからな。そのあと働いている料理屋に送ったらお礼をしたいと言われ、後日メシを馳走になった。☆☆曰く、今までの奴らと違って俺に下心を感じなかったから礼をしたかったそうだ。
そりゃそうだ、面倒だと思ってたんだからな。下心を持つのはもうちょっとあとだ。
その後は、メシが旨かったのと、毎回店主が一品おまけをくれたので通うようになった。たまに☆☆が作ったのが付いてきたときもあったな。
あのおまけは「何かあったとき☆☆を助けてやってくれ」という意味合いだ。旨いメシだったから、協力してやってもいいと思って食っていた。
俺と仲が良いやつなんて珍しいから、鶴見中尉に目をつけられているかもしれないので連れ出したわけだ。
ちなみに杉元に懐きやがった理由は兄貴に似ていたからだそうだ。今までは腕っぷしの強い兄貴が守ってくれていたが、日露戦争で戦死したらしい。
「もう11時近いしその話は終わりにして寝ようよ!明日こそ朝練行くでしょ?」
「何言ってるの、行かないよ。俺には姉ちゃんを痴漢から守るという大切な仕事があるんだから」
「そろそろ行ってあげてよ。監督さんも困っちゃうでしょう」
「放課後はやってるし、練習も含めて一回でも負けたら朝練出るって約束だから大丈夫。それにたまに道場も行ってるから」
「約束してるって言っても来てほしいと思うけどな……。道場ってすごく強い人が教えてくれてるっていうのでしょ?そろそろ私も見学してみたい」
「絶対だめ。猛獣がいてすごく危ないんだから」
「もー、駄目ってこと多くない?私も見てみたいのに……」
「何かあってからじゃ遅いんだから我慢してよ。もう寝るんでしょ?二階行こう」
……姉弟仲が良すぎないか?
☆☆が俺の背中を撫でているからまだ落ち着いているが、こうも見せつけられると腹立つぞ。
姉弟に生まれりゃ仲良しになろうと思えば簡単になれるもんな。結婚は出来ないがな!
そういやあまり気にとめてなかったが、花ちゃんって誰だ。女か?女ならまあいいが、話を聞いている分には男っぽいんだよな。俺が知っているやつで、花という字を使うやつは勇作さんくらいしか心当たりがない。
……予想が外れていることを願うしかないな。
「百ちゃんはどこで寝ようか?一緒に寝ちゃう?」
「にゃっ」
☆☆が俺の目を見て話しかけてきた 。
一緒に寝ようと言われれば、そりゃ即答するだろ。願ってもない誘いだ。
上機嫌で☆☆の手に頭を擦り付けていると、首根っこを捕まれ持ち上げられた。
気分が悪い。最悪だ。
「ちょっと佐一何してるの、かわいそうでしょう。離してあげて」
「俺が普通に抱き上げたら引っ掻かれそうだから。あと一緒に寝るのはやめときなよ」
「どうして?」
「来たばっかなんだから、一人にさせとくのも大事だと思うよ。野良なんだし。それにまだちゃんと洗ってやってないんでしょ?」
来たばっかと言われたときは、俺はまだ手を離させようと手足をばたつかせていた。そこらの野良猫と一緒にするんじゃねえよと。しかし、洗っていないと言われると俺も抵抗するのをやめた。
確かに俺は野良猫生活をしていた。ここに来てからは濡れタオルで拭かれただけ。自分じゃ分からないがもしかして臭うかもしれない。☆☆が寝ている場所を汚しちまったら嫌だしな……。
抵抗するのをやめたので杉元も察したのか、俺を床に置いた。
最初に入れられたカゴの近くに置いてあったタオルを咥え、ソファの前にあるローテーブルの下に具合良く整えて丸まった。
気落ちしていると、しゃがんだ☆☆が心配そうな目で俺に話しかけてきた。
「百ちゃんどうしたの?大丈夫?」
「眠くなったんじゃないの」
「でも、しっぽも下がってたし元気なさそうだったよ。首のところ捕まれたの嫌だったのかな……」
「今日うちに来たばっかだから疲れたんじゃないの、ずっと遊んでたんでしょ?」
「うん……。ごめんね百ちゃん、今日来たばっかなのに構いすぎちゃったね。ゆっくり休んで」
いや、疲れたわけではなく不貞腐れたというほうが正しいんだが。
というか、杉元は分かっていてやってるだろ。新しい環境で慣れなくて疲れたなんてあるわけないだろ。猫じゃねえんだよ俺は。しかも☆☆相手だぞ。
まあ、☆☆は猫だと思ってるんだからこのまま見送るわけにはいかないよな。
俺は立ち上がって☆☆のところに近寄り、足に控えめに頭を擦り付け様子を伺った。
「気にしてくれてるの?ありがとう」
お前がそんな不安そうな顔してたら気にする。
☆☆がいつもの顔になるように、手やしっぽを使って少しじゃれてやった。☆☆も気をつかって控えめに接してくるので、頃合いをみてローテーブルの下で伏せの姿勢をとった。
「そろそろおやすみしようか。また明日ね、百ちゃん」
「にゃあ」
「ほら、佐一も」
「……おやすみ」
「……にゃ」
杉元に邪魔されようが、明日こそは身体洗って☆☆と一緒に寝てやるからな。
2020/7/16
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