尾形、ネコ物語。
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☆☆だけ前世の記憶がないのだとアシリパから聞いた。
☆☆は大学一年生でサークルなどにも入っていない。両親が海外にいるから家のことをするためにバイトもしていないそうだ。父親は前から単身赴任していたが、☆☆が大学生になったのを機に母親も父親のところに行ったそうだ。
杉元は☆☆の弟で高校二年生。柔道部に入っていて、全国大会常連らしい。『不死身の杉元』なのだから当然だよな。
☆☆は杉元が柔道に専念できるように、サポートを一生懸命しているそうだ。
子供の頃から杉元は両親よりも☆☆に懐いていて、常にくっついていたとアシリパは☆☆の母親から聞いたという。☆☆は献身的なやつだったから、弟が活躍できるように尽くしているんだろう。
気に入らねえ。
アシリパが家に帰るから杉元が送りに行った。その間に☆☆が晩飯を作っている。
手際よく作っているから慣れているんだろう。杉元のやつ毎日毎日☆☆の飯食いやがって、腹立つぜ。
俺の飯は何になるんだろうか。猫になっちまってるし、人間用は出てこないよな。となるとキャットフードだが、そもそもこの家に置いてあるのか?
「にゃあ」
「百ちゃんどうしたの?お腹減っちゃったかな。ごめんね。もうちょっと待っててね」
台所の入り口に座って☆☆に声をかけると可愛いことを言ってくる。嫁にしたい。
俺が人間に戻って☆☆と生活している光景を想像していると、嫌な足音が聞こえる。俺の機嫌は急降下し、しっぽは床をぺしぺし叩いていた。リビングに入ってきた杉元は、ビニール袋をぶら下げていた。
「姉ちゃんただいま。頼まれたもの買ってきたよ」
「おかえり。買ってきてくれてありがとう。ほら、百ちゃんもおかえり~って」
☆☆は俺を抱き上げ手を持ち、杉元に向かって振らせた。
そんな俺の姿を見て杉元は顔をしかめる。俺だって好きでやってねえよ。
「姉ちゃん、尾形のこと可愛がりすぎじゃない?」
「え~、だってすごく可愛いんだもん。ていうか、佐一も百ちゃんって呼んであげてよ。明日子ちゃんが名前考えてくれたんだよ?」
「いやでも俺、尾形のほうが呼び慣れてるから……」
杉元に「百ちゃん」なんて呼ばれたくない。そもそもお前が弟っていうことも受け入れてないぞ。
「百ちゃんとよく会ってたの?」
「キロランケのところによく来てたからさ。尾形って呼ぶほうが慣れてるんだ」
「もう、しょうがないなあ」
アシリパも言っていたが、なんでキロランケなんだ。野良猫に餌やっててもおかしくない仕事でもしてるのか?
☆☆は俺をテーブルの近くに降ろした。椅子は四つあるから四人家族なんだろう。
「さっきちょうどご飯出来たんだよ。百ちゃんのご飯も佐一が買ってきてくれたし、もう食べようか」
☆☆は二人分の飯をテーブルに並べ終えると、椅子のそばに俺の皿を置いた。「はいどうぞ。百ちゃんのご飯だよ」と俺の頭を撫でながら、優しい声で言ってくれた。
俺に用意された飯はカリカリしてるやつだった。白い深鉢で、外側に桜色の花が描かれた器に入れられていた。☆☆のものだろうか。
杉元が買ってきたというのが気に入らないが、☆☆が出してくれたのだから食べるさ。食べなかったら悲しませるからな。
味はいつもどこかでもらうカリカリとあまり変わらないと思う。不味くなければ味はそんなに気にしていなかったからな。大事なのは質より量だった。なにせ野良だったもんでね。
「ねえ、本当に猫飼うの?」
「うん。佐一猫だめだったっけ?」
「そうじゃないけどさ、その猫はちょっと……」
食事をしながら杉元は☆☆に話しかけた。
なんだよ杉元、俺をこの家に居させないように粘る気か?はっ、そうはいかねえぞ。俺はこの家に住むって決めたんだ。
お前は弟として今まで☆☆と一緒にいたんだから、俺に譲ってもいいんじゃないのか?
「百ちゃん苦手だった?ちゃんと待っててくれるし、すごくいい子なんだよ」
「いや、それは尾形は出来て当然っていうか」
「そうなの?もしかして百ちゃんって芸達者な子だったりする?」
「う~ん、まあそんな感じかな」
なにが「そんな感じかな」だよ。お前俺と会ったの今日が初めてだろうが。
杉元が何と言おうが、☆☆は俺に夢中なんだから諦めろ。猫の魅力に落ちたからな。落ち着いた態度で俺に接しているが、目を見ればわかる。俺がかわいくて仕方がないと言っている。
杉元に見せつけるように、座っている☆☆の足に体を擦り付けた。
「にゃ~」
「どうしたの百ちゃん。不安になっちゃった?大丈夫だよ」
「尾形てめえ、わざとらしく姉ちゃんに擦り寄りやがって……」
杉元はイラつきながらも声を抑えて言った。
駄目押しに座っている☆☆の膝の上に乗り、薄い腹に頭を擦り付けた。☆☆は顔を綻ばせ、俺の体を撫でている。
どうだ杉元。☆☆の嬉しそうな顔を見てみろ。これで飼うなと言ったら☆☆が悲しむんじゃないか?
「ほら見てよ佐一。百ちゃんすごくかわいいでしょ」
「あー、うん。そうだね……」
「ねえ飼ってもいいでしょ?百ちゃんすごく懐いてくれてるんだよ」
杉元は非常に葛藤した様子を見せたが、☆☆のお願いに弱いのか渋々了承していた。
これで無事俺の家ができたわけだ。杉元がいるのは気に食わんが、多めに見るさ。今は☆☆の弟だからな。将来的には俺の弟にもなるわけだし寛大な心を持って接してやるよ。
二人とも食べ終わると、杉元が食器を洗い始めた。もちろん俺のもだ。洗い物は杉元の担当らしく、☆☆は俺を抱き上げてソファに移動し背中を撫で始めた。
「佐一も許してくれたし、今日から一緒に暮らそうね」
「にゃう」
「うっ、可愛すぎる。百ちゃん可愛すぎじゃない?こんなの親バカになっちゃうじゃん」
俺に骨抜きになっている☆☆は、何度も俺を撫でてくる。俺はお前のこと好きだから嫌じゃないが、普通の猫だったら嫌がられてるぞ。
上機嫌になった俺は、喉をゴロゴロ鳴らしながら成すがままにされている。たまに☆☆の手を舐めたり、じゃれついてやったりするととても喜ぶ。
俺はそこらの猫とは違うからな。まずは猫として理想的なパートナー関係を☆☆と築こうと思う。いずれは人間に戻って☆☆と結婚する。
とりあえず☆☆の前世の記憶を思い出させることと、俺が人間に戻ることが当面の目標だな。
☆☆と遊んでいると、急ぎ足で近づいてくる杉元の足音が聞こえた。皿洗いが終わったんだな。
「姉ちゃん先に風呂入って来たら?」
「佐一が先のほうがいいんじゃないの?部活で疲れてるでしょ?」
「風呂入って眠くなる前に、尾形と仲良くなろうと思ってさ」
嘘だな。杉元が本心でそんなこと言うわけがない。どうせ出ていけか☆☆に必要以上に近づくなとか言うんだろう。
☆☆は杉元が俺と仲良くなる気があるのが嬉しいのか了承していた。ソファから立ち上がり「佐一は動物好きで優しいから大丈夫だよ」と言い頭を撫でると、風呂に入る準備をしに部屋を出て行った。
「姉ちゃんが風呂入ったら話がある。逃げるなよ」
逃げねえよ。今日からここは俺の家だからな。
☆☆のことを思えば俺に手荒な真似はしないだろうから、ソファの真ん中で体を伸ばしうつ伏せの状態で杉元を見た。
「お前今日来たばっかなのに寛ぎすぎだろ。ほんと図々しいやつだな」
何とでも言え。傍から見たら俺は猫だからな。これぐらいでいいんだよ。
苦々しくこちらを見る杉元と視線を外さないでいると、☆☆がドアから顔を出した。
「二人とも喧嘩しちゃだめだよ。いつも喧嘩しちゃうんだから」
いつも?こいつ少し思い出したのか?
杉元も驚いた顔で☆☆を凝視している。
☆☆は「あれ?なんでいつもなんて言ったんだろ」と言い、不思議そうな顔をしたあとドアを閉めた。
「なあ尾形、今☆☆ちゃんいつもって言ったよな」
「にゃあ、にゃうにゃにゃー」
「なんつってるかわかんねえよ」
俺はいま猫なんだよ。見ればわかるだろうが。そもそもお前が話しかけてきたんだぞ。
「はー、なんで大事なときに話せないんだよ」
「……」
猫だからに決まってんだろうが、いい加減にしろよ。
俺が☆☆の猫になってから変化があったんだから、俺に感謝しろ。
「尾形、俺たちと協力しないか?」
いきなりなんだと話を聞いてみると、前々から☆☆に思い出してほしくてほかのやつらと色々やっていたらしい。アシリパと一緒にキロランケやインカラマッに会わせてみたり、北海道に旅行したりしたが駄目だったそうだ。だから俺に協力してほしいと。
まあ協力してもいいさ。俺も☆☆に前世のことを思い出してほしいからな。
「どうするんだ?協力するなら俺の手叩け」
杉元は左の掌を上に向けてみせた。さっきまでイラついていたのが嘘のような対応だ。
俺はソファの上に座り直し、右手を杉元の手に軽く乗せすぐ離した。
☆☆のためだからな。協力してやるよ。
2019/9/2