尾形、ネコ物語。
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この地域は第七師団二七連隊が管轄している。とは言うものの、『元』が付くが。
ここらの野良猫はだいたいが鶴見中尉の元部下達だ。地域猫として生活しているが問題がある。これ以上増やさないために去勢しようとしてくることだ。そんなことされたらたまったもんじゃない。玉だけに。
まあ俺たちは罠になんかかからないからそんなことはいいとして、鶴見中尉の部下だった者たちが前世の記憶を持って猫に転生している。俺としてはさっさと人間に戻って☆☆と暮らしたいんだが。
「尾形、見回りに行くぞ」
今日から見回りの場所が変わる。班ごとにローテーションしているわけだ。毎日見回りで何をしているかというと、縄張りの確認と餌場獲得だ。餌と言うのも嫌なんだが、猫になっている現実は変わらないから我慢している。任務が終わったあとは自由だ。仕事さえしていれば文句は言われない。問題を起こしたら話は別だが。
俺は玉井班に所属している。またいつもの面子だ。また皆で過ごすのも悪くはないんだが、☆☆がいないのは受け入れられない。ここらでまだ確認してないのはあと三ヶ所だ。見つからなかったら遠くの場所も探さにゃならんから、また脱走しなければならない。まあ見つかったら見つかったで脱走するんだけどな。
「なあ野間、お前は鶴見中尉のところでずっと野良やるのか?」
「何だよ。前に言ってた飼い主候補が見つかったのか?」
「いやまだだが、必ず見つけるから俺はいずれ脱走するぞ」
「はは、いいんじゃないか。近場なら俺もたまに遊びに行くか。今回は鶴見中尉もそんなに厳しくないからな」
今回の目的は人間に戻ることがメインだ。脱走すれば猫として生きていくと認識されるかもしれないが、俺はあまり信頼されていないからな。できればあまり知られたくない。
今日の任務を終えたあと、なぜか気分がよかったから少し離れたところを散歩していたときだった。
「ネコちゃんお散歩中なの?」
塀の上を歩いていると声をかけられた。この声はもしや……。
「綺麗な黒い毛並みだね。美人さんだ」
俺は女じゃねえ。いやそんなことより☆☆じゃないか!やっと見つけたぞお前!
俺は☆☆の前に飛び降り、立ち止まった足の上に伏せの状態になるよう乗った。
「どうしたのネコちゃん。遊びたいの?」
違う。いや遊んでもいいが、俺を家に入れてくれてからだ。
「ふふ、かわいいね。にゃーにゃー言ってるけど、何を伝えたいのかな」
よしよしと頭を撫でてくる。気分良く頭を擦り付けていると、満足したのか手が離れていってしまう。
「もっと遊びたいところだけど、晩ごはん作らないといけないんだ。ごめんね」
満足してないならもっとかまえ。
不服なので動かない俺を少し持ち上げ足を抜くと、バイバイと言って歩いて行った。まあいい。俺はまずお前の家を知りたいからな。
俺は☆☆と一定の距離を保ち跡をつけた。☆☆はときどき立ち止まって振り返るので、俺も止まる。それを繰り返しながら歩くと☆☆の家についた。どうやら一軒家に住んでいるようだ。☆☆が家に入るのを見届けていると手を振ってきたのでまたな、と言った。にゃあとしか聞こえていないだろうが。
ここからは我慢が必要だった。
ここを除いてあと二ヶ所の見回り当番を終えるまで脱走は出来ない。居場所を知られたくないからな。少しでも長く行方を眩ますためだ。数ヶ月我慢すれば俺はあの家で☆☆と住めるんだからなんてことはない。
一軒家となると家族がいるはずだ。仕方がないから追い出されないように媚び売るか。
準備は整った。あれから見回り任務をしっかりと遂行し、一通りの場所に行ったからすぐに特定出来ないだろう。岡田と野間に脱走することは伝えておいた。玉井伍長は短気だから直接は言わなかった。谷垣はすぐ顔に出るから言わん。
☆☆の家に行くのも我慢した。だからあれから一度も☆☆を見ていない。
時は来た。脱走しよう。
その日の任務を終え、非常に遠回りをして☆☆の家へ行った。耳を澄ましても物音が聞こえなかったので、まだ帰って来ていないのだろう。玄関の前に座って帰ってくるのを待った。
一時間くらい経ったころ、少しうたた寝していたら声が聞こえた。
「あれ、ネコちゃん久しぶりだね。元気だった?」
帰ってきたか。俺は元気だったぞ。お前はどうだったんだ?と言っても伝わらない。早く話したい。
「ふふ、元気そうだね。私のこと待っててくれたのかな?」
「そんなわけないよね」とか言ってるがそうだぞ。今日から家猫になるつもりで来たんだ。家に入れてもらうまで帰らんぞ。いや、そもそもこの家に住むんだから帰る場所はここだな。間違えた。
ドアの前を退き、横にずれた。早く開けてくれ、俺も入る。
「どうしたの?ドア開けてほしいの?でも飼い猫だったら困るしなあ」
俺は今野良でこれから☆☆に飼われるんだ。いいから家に入れてくれ。
頭を足に擦り付け、ドアをカリカリするのを繰り返すと諦めたのか鍵を開けた。俺の勝ちだ。
「わかったよ。首輪もしてないしね。でも探しネコのポスターとかあったらちゃんと帰るんだよ?」
☆☆がドアを開けたのでするりと中に入った。ちゃんと洗っているわけではないので、その場で待つ。部屋を汚したら悪いからな。
「ちょっと待っててね。タオル取ってくるからね」
やっと☆☆と一緒に暮らせる。とても良い気分だ。あとは人間に戻ることを考えないといけないが、検討もつかないからな。どうしたもんか。
「お待たせ。タオル持ってきたよ。ちゃんと待っててえらいね」
タオルで包み抱き上げられた。俺は中身は人間だからな。それくらい簡単だ。
それにしても相変わらず乳でかいな。乳の上に頭を乗せスリスリしていると、リビングに置いてあるカゴの中に入れられた。おとなしく待っていると濡れタオルを持ってきて拭かれた。
「ネコちゃんほんとにえらいね。待っててくれてすごく助かるよ」
ふん、そうだろう。もっと誉めてもいいんだぞ。
撫で回されて機嫌が良くなり、ついゴロゴロ鳴いてしまった。そうすると☆☆も嬉しいのかさらに撫でてくる。好循環だ。
「動物病院は明日予約するとして、まずは名前かな。ちょっとごめんね」
☆☆は俺を持ち上げ目線を下に向けると「男の子か」と言った。お前俺の股間見たな。もう婿に行けないじゃないか。ちゃんと責任取ってくれよ。
うーんと言いながら俺を膝の上に乗せて背中を撫でる。名前を考えているようだ。
目をつぶって堪能していると「ただいまー!」と声が聞こえた。
「もうそんな時間か。弟が帰って来たから紹介するね」
弟がいるのか。聞き覚えがある声のような気がするが、まあいい。弟なら媚び売っとくか。
☆☆は俺を抱くと玄関に向かった。
「おかえり~。あれ、明日子ちゃんも一緒だったんだね」
「ああ、父がお土産を買ってきたから持ってきた」
「ありがとう明日子ちゃん」
「ところでその猫はどうしたんだ?」
「懐かれたみたいだから、迷いネコじゃなかったうちで飼おうと思って」
弟って杉元かよ。前言撤回だ。誰が杉元なんかに媚び売るか。しかもアシリパも近くに住んでいるのか。ということは、他の奴らもいるかもしれないな。
チラッとアシリパを見ると目を見開かれた。
「尾形!?お前尾形なのか!?」
「 えっ!?尾形!?」
「知ってるの?」
「あっ、ああキロランケニシパが餌をやっているのを見たことがある。野良猫だから飼っても平気だぞ。杉元は☆☆と話していてくれ。私は尾形を構わないといけなくなった」
アシリパは目を泳がせながら言った。
杉元に掴まれそうになったので、飛び降りて☆☆の後ろに隠れた。なんで弟が杉元なんだよ。仲良くは出来ないぞ。
「佐一駄目でしょ。ネコちゃんびっくりして後ろに隠れちゃったじゃない」
☆☆は撫でながら俺を抱き上げた。するとアシリパが自分に渡すように言っている。何か話でもあるんだろうからおとなしく渡された。杉元は☆☆とリビングに行った。俺はアシリパとどっかの部屋に入り、床に置かれる。
「お前尾形だよな?合ってるなら声を出せ」
「……にゃ」
「尾形、これからいくつか質問するから『はい』のときは声だしてくれ」
「にゃ」
「よし。じゃあ質問するぞ。お前はここに住むつもりなのか?」
「にゃあ」
「谷垣もお前のように猫になっているのか?」
「にゃあ」
「☆☆はお前の名前を決めたのか?」
「……」
「谷垣を見つけるのを協力するなら、名前を百之助にするよう勧めてもいいがどうだ?」
「……にゃ」
「よし、決まったな。じゃあ☆☆のところへ行こう」
アシリパはなぜ谷垣の居場所を知りたいのか知らんが、俺の名前決めに協力するなら教えてやる。あまり鶴見中尉の近くに寄りたくなかったがな。
アシリパに抱えられてリビングに行った。ソファに座っている☆☆と杉元の距離が近いのが腹が立つ。なのでアシリパから飛び降りて☆☆の膝の上に乗った。
「尾形!なに姉ちゃんの膝に乗ってんだよ!」
「なに言ってるの佐一、ネコちゃんが膝に乗るのは普通でしょ」
「まあ落ち着け杉元。☆☆、猫の名前私が決めてもいいか?」
「えっ?いいけど尾形って名前なんじゃないの?」
「それは仮の名前だからな。百之助でどうだろう」
「百之助か。渋い感じでかっこいいし決まりだね。でもなんか聞き覚えがあるような……」
いいぞアシリパ。さっそくやってるなって、は?
☆☆は俺のこと覚えていないのか?嘘だろ。俺は猫になってて話せない、お前は俺のこと覚えてないなんてあんまりだ。
どういうことだとアシリパをじっと見ていると、まあ待てと言うように手で制してきた。
「百ちゃんと呼んでやってくれ」
「うん。百ちゃん今日からうちの子だよ。よろしくね」
ああ、よろしく頼む。
アシリパ、お前説明するまで帰れると思うなよ。
2019/8/10
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