短編
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鶴見中尉に呼ばれ、執務室に向かう。おそらく鯉登少尉のことだろうと見当をつけながら歩いていると部屋の前に着いた。一度深呼吸をし、気を引き締めてから扉に向かって声をかけた。
「月島軍曹参りました」
「入れ」
許可が下りたので部屋へ入る。鶴見中尉は両手を口の前で組み、俺に労いの言葉を掛けたあと本題に入った。
「鯉登が帰って来てから一週間が経ったが様子はどうだ?」
「本調子ではありませんが、少しずつ戻ってきているようです」
嘘だ。実際はまったく戻っていない。
[そうか、わかった。☆☆くんは元気にやっているそうだぞ。ご両親に気に入られたようだ」
「☆☆くんは器量良しだからなあ」とウンウン頷いている。
☆☆は鶴見中尉のところにいるより鯉登少尉と一緒になるほうが幸せになれるだろう。鶴見中尉は☆☆のことを駒として見ているが、鯉登少尉は大切な女性として見ている。☆☆は重要なことは何も知らされていないから、鯉登家の人間になればこの金塊争奪戦が終わったあとも危険はないだろう。俺や鶴見中尉とともにいればどうなるかわかったものではないからな。俺の可愛い妹分が幸せに暮らせるように鯉登少尉をしっかりと補助せねばならない。
「月島、鯉登少尉が無事に結婚出来るよう助けてやってくれ」
「はい、お任せください」
俺の考えは鶴見中尉に筒抜けだと思って行動せねば。
◆
二週間が経った頃、鯉登少尉への手紙が届いた。差出人は鯉登少将だ。少しは調子が戻って来ていたのに、この手紙でまた使い物にならなくなったら困るどころの話ではない。死活問題だ。俺に睡眠時間をくれ。
「鯉登少尉殿、鯉登少将殿から手紙が届いております」
「なにっ!?父上からだと!?もしや☆☆が粗相をしたのではあるまいな!」
執務中だというのに心ここにあらずといった表情だった鯉登少尉は、俺から手紙を取りすぐさま読み始めた。するとだんだん顔が青くなり後ろに倒れてしまった。
「鯉登少尉!どうしたんですか!」
「父上が……☆☆の滞在を二月伸ばすと……」
震えながら手紙を渡された。読めということだろう。内容は花嫁修業もそのまますることになったので二月滞在を伸ばすこと、若い夫婦をあまり離すのも悪いので、鯉登少尉が長期で家を離れるときなどに続きをするので鯉登邸で預かることなどが書かれていた。
さらば俺の睡眠時間。
「鯉登少尉、手紙は最後まで読みましたか?」
床に蹲ってめそめそしている鯉登少尉に言うと、読んだと言う。ならばこれからしなければならないことは決まっているではないか。
「ならばしっかりしてください。お父上は鯉登少尉に男として、夫として立派になってほしいんですよ。☆☆さんは向こうで妻になるために頑張っているのでしょう?ならあなたも軍人として、男として成長するときです」
結婚後のことは経験がないので教えられないが、死に物狂いで生き抜いた経験を教えることは出来る。☆☆と鯉登少尉が戦争やこの金塊争奪戦によって悲しい結果にならないよう、俺とあの子のようになってしまわないよう助けになろう。それがあの時から騙し続けている俺に出来る鯉登少尉へのせめてもの罪滅ぼしになるだろう。
▼
私は自分のことばかり考えていたようだ。
☆☆と一緒に暮らしてまぐわうことばかり考えていた。そしていずれ子をもうけようと思っていた。別に間違いではない、鯉登家の男なのだから子をもうけることはとても重要なことだ。男なのだから女を抱きたいと思うことは当たり前だろう。好きな女ならば特に。だがそれは職務を全うしてこそ言えるものだ。
最近尾形が私の悪口を言っているのを聞いた。「☆☆がいないから鯉登少尉殿は腑抜けになられたな」と。確かにそうだ。☆☆と結婚が決まって舞い上がり、離ればなれになって仕事もまともにこなせないなど腑抜けと言われても反論のしようがない。私はこれから☆☆といずれ生まれる子を守らなければならない。そして私は軍人なのだからこの国を守らなければならないのだ。父上や兄さあのように立派な軍人になり国を守ることが、延いては家族を守ることになるだろう。ならば私がしなければならないことは決まっている。
◆
☆☆と離れてからそろそろ一月が経とうしていた。月島に諭されてからというもの私はとても真面目に仕事に励んでいた。そんな折りに、月島が手紙を持って現れた。また父上からだろうか。
「鯉登少尉殿、手紙が届いております」
「誰からだ?」
「☆☆さんからです」
「なんだとッ!?」
まさか☆☆から手紙が来るなど思ってもみなかった。私は☆☆に惚れているが☆☆はそうではない。もしや私と結婚するのが嫌になったなどと書かれてはいないだろうな。今さら嫌だと言われても私も嫌だ。そこだけは譲れない。絶対に幸せにするから☆☆の残りの人生を私に預けて貰いたい。
恐る恐る封を切ると便箋とお守りが入っていた。
☆☆からの手紙を読み進めると、胸が熱くなった。私と離れている間に☆☆は私との未来について真剣に考えてくれていたようだ。それなのに私は☆☆のことを疑ってしまうなど夫として最低だ。☆☆は私のことを理解しようとしているのに。
花嫁修業も頑張っているようだ。帰ってきたら料理を振る舞ってくれると言う。楽しみで仕方がない。☆☆が作ってくれるなら何でも嬉しいが薩摩の料理ならばさらに嬉しい。
私と仲の良い夫婦になりたいなど可愛いとしか言いようがない。もちろん私もそのつもりだ。やはり私の目に狂いはなかった。妻にするのは☆☆しかいないと思っていたのだ。お守りも肌身離さず持っていよう、☆☆から始めてもらったものだからな。
☆☆に手紙を書いたほうがいいだろうか。だが文通をしてしまったら、また職務を疎かにしてしまうかもしれない。それは駄目だ。☆☆が懸命に仕事を覚えているのだから、私もしっかりしなければならない。そうだ、直接会ったときにこの気持ちを伝えよう。緊張して☆☆に伝わらなかったらいけないから手紙も書くとしよう。ふふん、妙案だ。ならば次の休みに便箋を買いに行かねばならん。あとは簪も買っておこう、私からの贈り物だ。櫛は好みのものを買ってやりたいから☆☆と一緒に見に行きたい。☆☆のためにやることがたくさんできて喜ばしいかぎりだ。
「月島!仕事をするぞ!」
「機嫌がよろしいようですが、何か良いことが書かれていたのですか?」
「ふふん、そうなのだ!今回の手紙は見せてやらんぞ!なにせ私の可愛い妻からの愛の手紙だからな!」
◆
音之進さんへ
青森も桜が桜が咲く季節となりました。この手紙が届く頃には北海道も桜色を楽しんでいるかもしれないですね。
私は今花嫁修業をしています。私の時代では花嫁修業は面倒なものとして認識されていると思います。私もそうなんだと思っていました。でも本当はそうではないのだとお義母さんに教えてもらいました。その家の伝統文化や価値観の継承なのだそうです。料理、裁縫、家事、作法と一人で家の中を習慣通りに整えられるようにお姑さんはお嫁さんに一生懸命教えるのだと言われました。
私の時代の感覚で言えば、職場の新人が難しい仕事を引継ぎ無しですぐに実践しなくてはならないという、とても大変なことなのだと感じました。
私は何も出来なかったのですが、少しずつ出来ることが増えてきました。お義母さんのおかげです。
薩摩料理も教えてもらっているので、帰ったら作ってみますね。同じ味に出来るかまだわかりませんが、筋がいいと言われているので帰る頃にはとても上達してると思ますよ。
音之進さんが帰る前にお義母さんと三人で見に行って買った着物が出来上がりましたよ。私が選んだものもとても良いとお義母さんに誉められました。洋装はもう少しかかるようです。出来上がりが楽しみです。
お義母さんに夫婦はいきなりなるものではなく、少しずつなるものだと言われました。なので、帰ったら毎日お話しませんか?お互いのことを知って、理解していくことが仲良しになる秘訣ですからね。
夫婦になるのですから、せっかくならおしどり夫婦を目指すのもいいかなと思うんです。お手本となる素敵なご両親がいるのですから。
色々書きましたが、怪我しないようにしてくださいね。お仕事頑張ってください。私も花嫁修業頑張ります。
追伸
お守りを頂いて来たので持っていてもらえると嬉しいです。あまり無茶したら駄目ですよ。
☆☆
2019/7/17