短編
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「☆☆!距離が近いぞ!離れろ!!」
「え~、それはちょっと……」
また鯉登さんに見つかってしまった。
なぜかいつも鯉登さんに見つかるときは尾形さんと一緒にいるときばかりだ。これでは尾形さんが怒られてしまうかもしれないから申し訳ない。
「なぜお前はよく尾形と一緒にいるんだ!」
「それはちょっと秘密って感じなんですけど……」
「なんだと!?」
なぜ一緒にいるのかなんて、秘密にするって約束してるんだから言えるわけない。言ったら尾形さんに怒られてしまう。
「ひ、秘密だと……、言え!何を秘密にしているんだ!尾形なんかと何を秘密にしている!」
「鯉登少尉殿、秘密と言っているのに言う者はおらんと思いますが」
「うるさいぞ!貴様、☆☆とベタベタしてからに!どういうつもりだ!」
鯉登さんはものすごい勢いで尾形さんに文句を言っている。尾形さんも尾形さんで煽りぎみに言うものだから鯉登さんもヒートアップしている。このままだと人が集まって来そうだ。何とかしないと。
「鯉登さん、あまり大きな声を出したら駄目ですよ」
「っ!?」
左手を鯉登少尉の右肩につき、右手で口を覆った。少し静かにしないと見せ物になってしまう。
「人が来ると大変ですから、静かにしましょう?ね?」
「ッ!!!」
右肩に置いていた手を今度は自分の唇に人差し指をあて「しーっ」と鯉登少尉に言った。すると、目を見開いたまま固まってしまった。顔の前で右手をひらひらさせても全く反応がない。大丈夫だろうか。
「☆☆こっち来い」
尾形さんに左手を握られ少し離れたところに連れて行かれた。
「尾形さん、鯉登さん置いていっちゃ駄目ですよ」
「いいから耳塞いどけ」
私の両手を持って耳を塞ぐように手をあてると、今度は尾形さんが自分の耳を塞いでいた。ちょっとすると鯉登さんが大きな声で叫んで走り去って行った。
「すごい声でしたね」
「お前があんなことするからだろうが」
「あんなこと?」
何か変なことしただろうか?騒動になるとあとが大変だから静かにしてもらおうと思っただけなのに。
「はあ、そんなんだから一等卒にちょっかい出されるんだぞ。お前は隙がありすぎなんだ」
「一応普通にしてるつもりなんですけど……」
「あの時だって俺が助けてやらなかったらどうなってたと思ってるんだ。自覚しろ」
「わ、わかってますよ。だから尾形さんが大丈夫って言った人にしか近づかないようにしてるじゃないですか」
「ふん、当たり前だ」
あの時は本当に危なかった。兵士さんに部屋に連れ込まれそうになったときに尾形さんが助けてくれたのだ。あれ以来、尾形さんの言うことをちゃんと守っているので怖い目にはあっていない。
「早く行かないと時間なくなるぞ」
それは困る。早く秘密の場所に行かないといけない。私もできるだけ長く癒されたいのだ。あとは歩きながら話そう。
「助けてくれてありがとうございます。本当に感謝してます」
「目が合っちまったからな。あのまま無視してたらお前、俺の休息場に来て文句言うだろう。だから助けてやっただけだ」
尾形さんはこんなことを言っていてもけっこう優しいのだ。私を連れ込もうとした人は、私を見るとすぐにどこかへ行くようになったし、一緒に出掛けないかとよく誘われていたのがなくなったのだ。不思議に思って谷垣さんに言ってみたら、私にちょっかいをかけると尾形さんから意地悪をされるのだと言われた。
「今日はチビしかいないようだな」
「ツバキは餌取りに行ってるんですかね?」
ここの建物はあまり人が来ない場所で、尾形さんの休息場であり猫ちゃんたちの遊び場だ。尾形さんが休んでいたときにたまに構っていたら懐かれたらしい。
最初は黒い成猫だけだったのが、子猫が三匹産まれたそうだ。私が初めてここに来たときは子猫が産まれて二週間くらい経ったときだった。尾形さんは猫ちゃんに名前を付けていなかったので私が付けた。母猫はツバキ、ハチワレはサクラ、黒はレン、サビはシオンと名付けた。レンだけ男の子だ。生後二ヶ月ほど経ち元気に遊んでいるのをよく見るようになった。あれ?レンがいない。
「尾形さんレンがいないですよ!」
「あいつまたやったのか、懲りないな」
サクラとシオンが木の根元で座っているところに行くと、上から「にゃー」と小さい声が聞こえた。
「いたな」
「いましたね」
いつものように私はサクラとシオンを少し離れたところに連れて行き、尾形さんは軍服の上着を脱いで私に渡す。
「登るぞ。準備出来たか?」
「はい、出来ました」
私が尾形さんの上着を広げて、レンの下で待機したのを確認すると木を登り始めた。前は低いところまでしか登っていなかったが、最近はもっと上を目指し始めてしまったようで尾形さんが大変になってしまった。
レンのいる少し高めの枝まであっという間に登り終わると手を伸ばして話しかけた。
「レン、ゆっくりこっちに来い」
レンは恐る恐る尾形さんのほうに近寄っている。揺れでレンが落ちないように尾形さんは手を伸ばしたまま全く動かない。私はレンが動く方へ上着を広げたまま一緒に移動していると尾形さんの手が届き首裏を掴み、持ち上げられていた。
「捕まえた。今降りるから待ってろ」
尾形さんはレンを左手で抱き、そのまま慣れたように下に降りると私に渡してきた。私は上着を尾形さんに返した。
「これ以上上に登られると回収するのも一苦労だな」
「レンは木登りが上手くなるのが楽しいみたいだから、やめてくれないでしょうね」
「ね~、レン」と話しかけると「にゃー」と言っていた。
「ほらほら、尾形さんにお礼したいようですよ」
「俺は休みに来たんだがな」
サクラとシオンが尾形さんの足に体を擦り付けている。いつも尾形さんが助けに行っているから兄猫のつもりで甘えているのかもしれない。
「今日は鯉登少尉に絡まれたから時間が少ないんだ。また今度遊んでやるから我慢してくれ」
二匹の頭を撫でると人目につかないところに移動して座り込んだ。尾形さんは寝るみたいだから、私はみんなと遊んでよう。
「☆☆、レン置いてこっち来い」
「えっ?尾形さん寝るんじゃないんですか?」
「寝る。今日は時間が短いから膝を貸せ」
躊躇っていると、「いいから早くしろ」と言われた。仕方がないのでレンを置いて尾形さんのところに行くと、木の根元に座れと示された。ちょうど私が木で見えなくなる位置だ。
「膝枕するのけっこう恥ずかしいんですけど」
「鯉登少尉にあんなことしたんだから、膝枕くらい平気だろ」
早くしろと地面に敷いた上着を叩かれたが、まだ迷っていると子猫たちが尾形さんの周りで寝る体制になってしまった。
「ほらみろ、こいつらも寝るってよ。お前も早く座れ」
「もう、わかりましたよ」
諦めて正座すると、すぐに尾形さんは頭を乗せた。やっぱり恥ずかしい。緊張するのはなんでなんだろう。私は他人と距離が近くてもあまり気にならないタイプなのに。
「どうしたんだよ。そんなにガチガチじゃ寝にくいだろう。緊張してんのか?」
「はい、なんか緊張するんです」
「お前男といつも距離が近いじゃないか。鯉登少尉に触ってもなんともなかったくせに」
「そうなんですけど、なんか変で……」
なんでだろう。尾形さんに手を握られても、近くで話しても平気なのにこの体制はとても恥ずかしい。谷垣さんにふざけて抱きついたこともあったけどなんともなかった。
「お、尾形さん!?いきなりどうしたんですか!?」
「心臓がドキドキしてるか?」
「しますよ!するに決まってるじゃないですか!」
尾形さんは起き上がると、私を正面から抱き締めてきた。恥ずかしすぎて顔が熱い。
今度は私の耳を胸にあてるように抱き締めてきた。
「俺の心臓もドキドキしてるだろう。☆☆も同じくらいか?」
「ん、同じくらいだと思います」
「俺は☆☆を好いている。同じくらいなら☆☆も俺のことを好いているんじゃないか?」
「他のやつにはこうならないんだろう?」と言われるとそうなのかもしれない。私は人を好きになったことがないからよくわからないけど、こんな風になったことは一度もない。
「私は尾形さんが好きなんでしょうか?こういう経験ないのでよくわからなくて」
「なら試してみればいい。俺と一緒にいて惚れたら結婚する。ならなかったら今まで通りに戻る。これでどうだ?」
尾形さんと一緒にここで寛ぐのも好きだし、私が嫌な思いをしないようにしてくれているのも知っている。尾形さんの優しさは見えにくいところにあるけれど、それを見つけられると嬉しい気持ちになる。私のことを好きだと言ってくれるのなら応えたいと思ってしまう。これが好きだということなんだろうか?
「…はい、よろしくお願いします」
2019/7/11