短編
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今日は玉井班のみんなにいつものお礼としてお菓子を振る舞う日だ。鯉登少尉からもらったお金だけどね。
「月島さん!お団子買いに行ってもいいですか?」
「行ってもいいが誰か連れて行かないと駄目だぞ」
廊下で月島さんを見つけて許可をもらおうとと話しかけた。無事お許しをもらったので誰かにお願いしないといけない。
「三島!」
「月島軍曹殿、なんでしょうか」
「悪いが☆☆に付き添ってやって……、お前今日は非番だったな。すまなかった。他のやつをあたる」
「予定もありませんので、任せてください」
「そうか?悪いな、では頼んだぞ」
通りすがりの三島さんに月島さんがお願いしてくれた。非番だったのにありがとうございます。
三島さんは「行こうか」と言ってくれたので、月島さんにバイバイと手を振って別れた。
「今日はどこに行くんだい?」
「花園公園のお団子買いに行きたいんです」
「お団子食べたくなったのかい?」
「みんなでお茶会しようと思ってるんです。三島さんも是非来て下さい!」
「じゃあお呼ばれしようかな」
三島さんは優しい笑顔で頭を撫でてくれた。とても爽やかな笑顔だ。私はみんなより年下なので、よく頭を撫でられる。
兵営を出て街を歩いていると、視線を感じた。周りを見てみるとお姉さんたちが三島さんを見ているようだった。心なしか睨まれているような気がする。いやきっと気のせいだ。
「三島さん!お久しぶりです。またうちに寄っていってくださいな」
「ああ、お久しぶりです。また時間があるときに行きますので」
「ええ、是非来て下さい。お待ちしております」
とても綺麗なお姉さんが話しかけてきた。三島さんモテモテなんだな。爽やかイケメンって感じだもんね。
「三島さん格好いいから女性の視線集めまくりですね」
「そんなことないよ。ただ顔見知りだからだと思う」
花園公園に着くまでに三島さんはよく女性に話しかけられていた。女性の目はもう恋する乙女のようだった。
「おかみさん、団子ください」
「あらいらっしゃい。鶴見中尉のものかしら?」
「いえ、今日はこの子の付き添いです」
「可愛らしい子じゃない。あなたも遂に女の子と一緒に来るだなんて、感慨深いわ」
「そういうのじゃありませんから!」
三島さんが照れている。なかなか見れない光景だ。三島さんモテるのに女の子とあんまり出掛けないのか。なんでだろう。
「お嬢さん、ご注文はなんでしょうか?」
「この三種類のお団子五本ずつください」
「けっこう買うんだね」
「はい、尾形さん、岡田さん、野間さん、谷垣さん、三島さんで五人分なので」
一人一人名前を言って数え三島さんに伝えた。二階堂兄弟は今日はいないし、一昨日私がもらったお菓子を横取りされたしで今回は招待していない。また今度ね。
「それだと☆☆ちゃんの分がないじゃないか。俺が買ってあげるよ」
「でもそれじゃあ申し訳ないです」
「俺が買ってあげたいだけだから気にしないで」
お言葉に甘えて私の分は三島さんに買ってもらうことにした。三島さんとても優しい。
おかみさんがお団子を包んでくれたものを受け取ろうとすると、三島さんが持ってくれた。
「三島さんありがとうございます。買ってもらった上に持ってもらっちゃって」
「いいんだよ。俺は頼ってもらったほうが嬉しいからね」
兵営に戻り、酒保に向かった。そこであんパンとキャラメルを買いサロンで玉井班と合流した。ただ、玉井伍長は用事があるとのことで不参加だ。後日何かプレゼントしたいと思っている。
「☆☆、遅かったじゃないか」
「そんなに遅くないですよ。だったら尾形さん買いに行っても良かったんですよ?」
「なに言ってんだ。今日はお前が招待したんだから俺は客だぞ」
確かに今日の尾形さんはお客様だった。言い返せない。
「そう言ってやるなよ尾形。☆☆がわざわざ団子買ってきてくれたんだぞ」
岡田さんが優しい。いつもからかってくるのに。
「岡田さん今日は優しいですね。どうしたんですか?」
「いつものお礼にお茶会開いてくれるんだろ?そんな日まで意地悪しないさ」
「尾形も岡田もお前が帰ってくるの楽しみに待ってたんだぞ。そわそわしてたからな」
野間さんの言葉を受けて二人とも言い返していた。三人で言い合っていると、谷垣さんが三島さんに話しかけていた。
「三島も参加するのか?」
「ああ、☆☆ちゃんに誘われたからな」
「☆☆、早く団子を出せ」
尾形さんに催促されたので、三島さんからお団子を受け取りテーブルに広げた。みんな飲み物は用意していたようなので、三島さんは自分の分を酒保に買いに行った。
「けっこうあるな」
「一人三本の想定で買いました。酒保でも少し買ったので足りると思うんですけど」
お団子だけだと足りないと確信できるのはいつも食事を共にしているからだ。この人たちの食欲ほんとすごい。
三島さんが戻って来るとお茶会は始まった。お団子もあんパンもキャラメルもどんどんなくなっていく。
「みんな食べるのに集中しすぎじゃないですか?お茶会なんだからお話もしましょうよ」
「話してもいいが、なに話すんだよ」
何の話題がいいかな。鶴見中尉にも話したあれでいいかな。
「私がいた時代で今月の行事は父の日なんですけど、ジューンブライドっていうのがけっこう人気があって六月に結婚式する人も多いんですよ」
「六月なんて梅雨の時期だろ。雨ばっかで憂鬱な季節に結婚式やるなんてアホらしい」
「梅雨の時期にはやりたくないよな」
尾形さんも野間さんも不評だ。説明を最後まで聞いてから言って欲しい。
「ジューンブライドは、ヨーロッパで『六月に結婚する花嫁は幸せになれる』という言い伝えがあって人気なんです」
「へー、女の子が好きそうな話だね。俺は好きだよ。谷垣も良いと思わないか?」
「ああ、俺も良いと思う」
三島さんと谷垣さんはジューンブライドの話を気に入ってくれたようだ。残りの三人はどうかな。尾形さんが好きじゃなさそうなのは分かるけど。
「ははっ、六月に結婚すれば幸せになれるって?なら世の夫婦は苦労しねえな」
「ああ、そんなもん物売りたいやつが考えただけだろ」
「ヨーロッパが発祥なんだろ?向こうじゃ六月にやるのはそれなりに都合が良かったんじゃないか?」
尾形さんは予想通り、野間さんは興味なし、岡田さんはちょっと擁護してくれているのかな?
まあ確かに六月のヨーロッパは乾期らしいから結婚式に適していると聞く。
「☆☆ちゃんはジューンブライド?っていうのになりたいの?」
「えっ?いや別に私はどっちでもいいかな。一緒にいられるならいつでもいいと思うので」
好きな人と一緒にいられるなら何月でも構わない。あえて言うなら、過ごしやすい季節がいいかな。
「☆☆ちゃんかわいいこと言うね」
「こいつがかわいいのは当たり前だろ。今さらなに言ってんだ三島。ちゃんと目ついてんのか」
「いやお前こそなに言ってんだよ野間!」
岡田さんが私の代わりにツッコんでくれた。ほんとなに言ってるんですか。
「野間のやついつの間にか酒飲んでるぞ!」
「えっ!?ほんとですか谷垣さん!」
「いいか☆☆、男は狼だ。そしてここは男ばかり、鶴見中尉の目があるとはいえいつ取って食われるかわからん。あまり俺たちの側を離れるなよ」
野間さんが真剣な目で話しかけて来たと思ったら寝てしまった。私別にそんなにモテたことないから大丈夫だと思うんですけど。
「それは一理ある」
「ああ、野間の言うとおりだ。☆☆は騙しやすいからな」
岡田さんはいいとして、尾形さんの騙しやすいとは?騙されやすいじゃなくて騙しやすい?私は尾形さんに騙されたことがあるの?……心当たりがない。
「尾形さん私のこと騙したことあるの?」
「いいか☆☆、男にほいほいついて行くなよ。鯉登少尉は駄目だ。月島軍曹や鶴見中尉であろうと気を付けろ」
「谷垣さん、尾形さんが私の話聞いてくれない」
「すまん☆☆、俺では力になれない」
これが上等兵の力か。一等卒の谷垣さんが私のために頑張ってしまうとあとで尾形さんにしいたけ押し付けられた上に嫌がらせされてしまう。しいたけなら私が食べる約束してるのにそういうときは谷垣さんのところに行くのだ。
「おい、聞いてんのか☆☆。返事はどうした」
「わかっひゃ、わかっひゃからはなひて!」
尾形さんに左の頬を引っ張られた。「俺は真面目な話をしてるんだぞ」と言うけど、私だって真面目に考えてたんだよ!
「離してもらうときはなんて言うんだ?」
「ごめんなひゃい!はなひてくだひゃい!」
「まあ良いだろう」
解放された左頬を撫でながら尾形さんを睨むと鼻で笑われた。痛かったんだからね!
「岡田さん!尾形さんがいじめる!」
「あー、尾形の言うことも一理あるから許してやってくれ」
岡田さんに頭を撫でられながら宥められた。尾形さんに助けてもらうことも多いからそりゃ許しますけど、痛いのはやだ。
「許すのはいいですけど、痛いのは嫌です」
「だってよ尾形。痛いのはやめてやれよ」
「ふん、お前が俺の言うこと守ればな」
「相変わらず素直じゃないこと」
「うるさいぞ」
尾形さんの横暴に岡田さんと野間さんが言い返し、谷垣さんがハラハラしている。玉井伍長が来たら四人とも怒られたりする。そんな玉井班のみんなが好きだからちょっとくらい意地悪されても一緒にいたい。これからもみんなの色々な一面を見ていたい。
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「なあ尾形、今度は俺たちがお返ししてやるか」
「あ?お前らはいらん。俺がやるからいい」
「なに言ってんだよ。お前一人はずるいだろ。俺と岡田と谷垣も入れろ」
「そうですよ、俺も入れてください」
まったく、最近は鯉登少尉が☆☆を気にし始めているから牽制してやろうと思っていたんだが。二回行けばいいか、玉井班でと俺と二人で。強敵なのは月島軍曹と鶴見中尉だ。うまくやらないと遠ざけられるかもしれないが、☆☆は俺になついているからな。中尉殿が近づかないよう言っても俺のところに隠れて来るさ。
近いうちにこの優しい檻の中から俺が出してやるからな。
2019/6/27