短編
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「音之進には私から言っておくから出掛けて来るといい」
「すみません平之丞さん、ありがとうございます」
「百之助、☆☆ちゃんを頼んだよ」
「任せてください、平之丞さん」
朝、鯉登邸でこんなやり取りをした。任せてくださいじゃないですよ。平之丞さんとも仲良かったんですか。
百ちゃんは車で迎えに来てくれた。今日の予定は決まっているようで、最初は映画館に行った。事前にチケットも用意していたようで、ペアシートでパニック映画を見ることになった。絶対百ちゃんは私が怖がるのを楽しんでた。サメさん怖いよ、夢に出そう。そのあとはご飯を食べて、服を見たりした。これからどうするのかと思っていると行くところがあると車に乗せられた。
「着いたぞ」
「普通初めて一緒に出掛けた日に実家に連れて来る?」
車が停まったのは、二階建ての和風建築の家でした。庭もすごく手入れされてる。
まさか実家に連れて来られるなんて思っても見なかったよ。勇作さんに私が将来嫁になるって言ったり、実家に連れてきたり、外堀埋めまくってるよ。絶対に逃がさないという意思をひしひしと感じますね。
「俺だってもっとゆっくり進めたかったさ。鯉登がまだ諦めてねえからな、さっさと婚約まで持ってかねえと安心できねえんだよ」
もうすぐにでも婚約する気でいるじゃん。私まだ一言も好きって言ってないし、言われてもないんですけど。
「ほらもう行くぞ。じいちゃんとばあちゃんが待ってる」
「ちょっと待って、なんて紹介する気でいるの?」
「結婚を前提に付き合ってる」
「私、好きも付き合っても言われてないけど」
百ちゃんはきょとんとしたあと、ニヤニヤと笑い始めた。なんですかその笑みは。当然でしょう、付き合ってもないのに結婚もなにもありませんよ。
「俺と結婚を前提に付き合ってくれ。生まれ変わっても、俺はお前以外考えられない」
すごく真剣な顔で言われてしまった。
私は別に百ちゃんと結婚してもいいと思っている。昔から百ちゃんのお願いに弱いから断れた試しがないし、格好いいとも思っている。ただ私は今、鯉登家にお世話になっている。名字は違うけど私も一応鯉登家の人間なので、ちゃんと伯父さんと伯母さんに言ってからじゃないと申し訳ない。
「付き合うのはいいんだけど、結婚となると伯父さんと伯母さんに言わないと……」
「それならなんの問題もないな。俺のほうが鯉登より一枚上手だってことを教えてやるよ」
百ちゃんは機嫌よく私を車から連れ出すと、玄関に向かって行った。心の準備くらいさせてほしい。
「ただいま」
「おかえり百ちゃん 。言ってた時間より早かったのねえ」
「思ったより早く着いたんだ。じいちゃんは?」
「もうそろそろ帰ってくるはずよ。あら、昨日言ってたのはこのお嬢さんのことね。可愛らしい子じゃない」
「はじめまして、○○☆☆と申します」
昨日言ってたって、しっかり段取り組んでやってますね。この調子だと花沢家にもすぐ紹介されそうな勢いなんですけど。
「じゃあじいちゃん帰ってきたら紹介する。こいつ部屋に案内したら飲み物取りに来る」
「ええ、わかりましたよ」
百ちゃんはスリッパを履くと私にも履くよう促された。私も履くとそのまま腕を引かれ二階に上がろうとするので、後ろを向いて、おばあちゃんにお邪魔しますと言いながら会釈するのがギリギリだった。
部屋に通され、百ちゃんが飲み物を取りに出ていった。部屋を見回すと壁に銃が三つ飾ってあった。あとはベッドと机、竹刀が置いてあるくらいで簡素な感じだった。
「なんだ、まだ座ってなかったのか」
持ってきた飲み物を机に一度置き、クローゼットから折り畳みのテーブルを出した。飲み物を移動し座った百ちゃんに手招きされたので隣に座る。
「竹刀置いてるなんて、百ちゃん剣道の練習ちゃんとやってるんだね」
「まあな。やっとかねえと体が鈍ってじじ様にどやされるからな」
「じじ様?」
「花沢幸蔵、俺と勇作さんのじじ様だ。月に一度、勇作さんと一緒に稽古をつけてもらってんだ」
「そっか、だから勇作さん百ちゃんの腕前に詳しかったんだ」
一緒に練習してるなら詳しいに決まってるよね。勇作さん百ちゃん大好きだから毎回楽しみにしてるんだろうなあ。
「勇作さんと一緒に昼飯食ったんだろ?どんな感じだったんだ?」
そう言いながら私を自分の胡座の上に横向きに座らせ抱きしめられた。そして手は腰を撫でている。なぜ撫でる。
「勇作さんがいかに百ちゃんがかっこよくて優秀か熱弁してるの聞いてた。ていうかなんで腰撫でてるの?」
「はあ、勇作さんにも参ったもんだ。鯉登の前ではさすがに勘弁してほしいぜ」
「ちょっと、なんで今度はお尻撫でてるの?」
人の話し聞かないし悪化してるんですけど!
おばあちゃんがいるから私が暴れないとわかった上でやってるな。暴れないけどさ!
「いいじゃねえか、お前は高校生で俺は大学生なんだぜ?隠れてやらないと捕まっちまう。そうでなくとも鯉登のやつに見つかってみろ。あいつすぐ通報するぞ」
「えっ、もしかして本番する気ですか?」
「しねえよ。お前が卒業したら籍入れる予定なんだ。それまでは☆☆の体触るので我慢しようと思ってんだよ。☆☆がしたいって言うなら予定早めて籍入れてもいいぜ」
ニヤニヤ笑いながら言うんだから絶対からかってるよ。私だってたまには仕返しするんだから!
「百ちゃんこそいいの?もう勃ち始めてるけど。おばあちゃん来ちゃったらどうするのさ」
「俺のばあちゃんは気配り上手でね。俺が初めて女を連れて来たんだ。わざわざ部屋に来たりしないさ。それと俺は今日、抜く気でいるんだから勃ってるのは正しいんだよ。しっかり堪能させてもらうからな」
私は百ちゃんの脚の上を跨いで座らせられた。嘘でしょ?さっきは捕まるからしないって言ってたじゃん!
「やだ、しないって言ったじゃん。めっちゃあたってるし……」
「しねえよ。この体勢なんだからどうやったってあたるだろ。いい子だから少しだけ我慢してくれ」
首元に顔を埋め、お尻と太ももを撫でている。もう、ほんとにこの状況わかってるのかな。
「ッ百ちゃん、今日何しに来たかわかってるの?もうやめないと」
「わかってる。やめねえといけねえのもわかってる。だから少しだけ頭撫でてくれ」
「……わかった」
言われたとおりに頭を撫でる。百ちゃんの両手は止まらずお尻をぐにぐにと揉まれているし、呼吸も荒い。なんかこれおかしくない?
しばらく頭を撫でていると、百ちゃんの手が止まり離れていった。やっと終わった……
「悪かった、ちょっとトイレ行ってくるから待っててくれ」
私を降ろすと百ちゃんは前屈みで部屋を出ていった。
我慢できなくなっちゃうなら抱きしめなきゃよかったのに、というのはひどいか。百ちゃんは私のことを探していたと言っていたし、今日も私以外と結婚するのは考えられないとも言っていた。きっと我慢していたんだろう。百ちゃんはとても我慢強いけど、箍が外れると反動で抱き潰してくるからガス抜きが大切だ。オカズになるくらいなら受け入れるか、ほかでもストレスためてるはずだからね。私が寛大な心で受け入れてあげましょう。
「悪かった、ここまでする気じゃなかったんだ」
「いいよ、我慢できなくなっちゃったんでしょう?」
私の隣に座ると、そろそろと手が伸びてきて遠慮がちに服の袖を掴まれた。こちらを伺うように見てくると、怒ってないのかと聞いてくる。これは反省しているようだ。
「怒ってないよ」
頭を撫でながら優しく言うと、下を向いたまま動かない。しばらく撫でていると、じとっとした目で見てきた。なんで。
「お前、勇作さんと同じ大学行けよ。お前一人じゃ不安だ」
「なにその私がちょろいみたいな感じ。ていうか勇作さん先に卒業するんだからどっちにしても私一人のときあるけど」
「押しに弱いからだろ。問題ない、☆☆が行く大学に鯉登もついてくる。番犬代わりにちょうどいいだろ」
鯉登さんを番犬代わりって、取られるかもしれないなんて思っていないらしい。
そういえば勇作さんは頭良いんだから、私では同じ大学行けないと思うんですけど。
「私、勇作さんみたいに頭良くないんですけど」
「それも大丈夫だ。おそらく俺と同じ大学に来る。じじ様と幸次郎殿とも同じだからな。俺がしっかり教えてやるよ」
これはもう決まりですね。私に拒否権なんてものありませんので、勉強漬け決まりました。
「そろそろじいちゃんが帰って来てる頃だ。居間行くか」
「えっ、私なんて言えばいいの?」
「俺に合わせておけば良い。反対されることもないからな」
そこからはほんとに合わせていただけだった。もうトントン拍子にことは済んだ。これからも百之助をよろしくと言われ、公認の仲になりました。そのあとは夕食をご馳走になって車で送ってもらった。
スムーズに進みすぎじゃない?百ちゃん鶴見中尉の見事な根回しの技を体得したの?このままだと花沢家と鯉登家もあっという間にクリアしてそうだよ。だって夕食のお誘いも連絡してないからと渋ると、百ちゃんが平之丞さんに連絡してOKもらってしまったのだ。やっぱり仲良いんだ。
この調子だと高校卒業したらほんとに名字変わりそうだ。
▼
俺は今日失態を犯した。
あんなことする気はなかった。そりゃ抱きしめるくらいはしようと思ってたが、からかうくらいでやめる気だった。☆☆が挑発してくるからちょっと遊んでやろうと思ったら失敗した。そりゃそうだよな、今まで我慢してきたのに過度に接触すればああなるに決まってる。俺が悪い。
ただ話を誤魔化そうと触りすぎたのがいけなかった。じじ様のことを話すとなると過去のことを話さないといけない。いつ話すか決めてなかったから誤魔化そうとして失敗した。だが収穫もあった。俺がやり過ぎても許してくれた。やっぱり俺には☆☆しかいないと再確認できた。だから☆☆に帰りの車で話した。俺の今までの人生を。
俺と母さんは今世でも幸次郎殿に捨てられるところだった。だが、じじ様が手を出したなら最後まで責任を持てと言ったらしく、花沢家に受け入れられることになった。当主はじじ様だから家に好きに来いと言うし、幸次郎殿の奥様を説得して俺たちが居づらくないようにしてくれたのもじじ様だ。まあ、その時のことが尾を引いて、幸次郎殿は今でもお飾り社長をやっている。
俺が小学校に上がる前くらいからじじ様に剣道の稽古をつけてもらっている。すぐ勇作さんも混ざるようになった。そのときからじじ様との稽古は一緒にやるようになった。最近は月に一回だが。
母さんは俺が小学四年のときに病気で亡くなった。今度は幸次郎殿も見送ってくれた。幸次郎殿だけじゃない、奥様もじじ様もばば様もじいちゃんばあちゃんに俺や勇作さんだっていた。母さんは笑顔で逝った。母さんが亡くなったあとは尾形家とじじ様の家両方が俺の家だ。じじ様の家といっても花沢家の敷地内だから花沢家と言っても問題ない。
俺はじじ様に信頼されているようで、将来は俺と勇作さんで会社を守ってほしいと言われている。今度の人生はじじ様のおかげでうまくいっていると思う。あと俺に足りなかったのは☆☆だった。でもそれも手に入れられそうだ。こうも順調だと不安になることもあるが、今度の俺は一人じゃないからたぶん大丈夫だ。
▼
「先週末は兄様と出掛けたと聞きましたが、いかがでしたか?」
今日は週に一回の親睦会だ。二回目なので鯉登さんもいる。
「えーと、映画見たり買い物したりしました」
「さすが兄様です。健全なお付き合いをしていらっしゃるのですね」
「お付き合い!?☆☆!尾形と付き合っているのか!?」
「音之進、声が大きい。それに約束しただろう?親睦会なのだから、兄様とも仲良くなるように努力しようと」
勇作さんは鯉登さんと百ちゃんに仲良くなってほしいんですね。それと申し訳ないですが、健全でないこともありました。
「……わかりました。☆☆、尾形と付き合っているのか?」
「えっとですね……、先週末付き合うことになりました」
「本当ですか!それは喜ばしいことです!」
勇作さんは喜び鯉登さんは落ち込む、予想していた光景です。
「そういえば、兄様が☆☆さんは私と同じ大学に行かせたいと言っていました。私は兄様と同じ大学に行こうと思っているのですが、☆☆はどうですか?」
「はい、百ちゃんも勇作さんがそう言うだろうって言ってました。なので私も百ちゃんと同じ大学です。勉強も教えるって言われたので」
「そうですか!なら三人で勉強会などもできるかもしれません。兄様にお願いしてみます!」
「勇作さん、その勉強会四人でお願いします」
鯉登さんが燃えている。とても鋭い眼光だ。
「私も同じ大学に行きます。尾形に☆☆をやるものか」
「音之進、呼び捨てにせずさんをつけなさい」
百ちゃんの予想通り鯉登さんも同じ大学になりました。私が落ちなきゃですけど。
2019/6/4