短編
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この間催された指相撲大会は第一回で終了する、と尾形と宇佐美に言っておいた。
☆☆を茶屋に誘ったという奴らはすでに見つけて忠告の上訓練の量を増やした。不用意な接触は避けるようにと言っておいたにも関わらず、俺が鶴見中尉殿の使いで離れていた間に、さっそく第二回目は開催されていた。
「申し開きがあるなら聞いてやろう」
「百之助がやろうって言いました」
「宇佐美がやると言いました」
目の前に揃って正座させ、反省の弁を聞いてやろうと思えば、即帰ってきたのは互いに擦り付ける言葉だった。
「百之助がやるって言ったんじゃん。絶対負けるのに☆☆がムキになって勝負するところがバカで面白いって」
「宇佐美がやるって言ったんだろ。アイツの手を握れるようにしてやるから参加者は一人五回使いっぱしりになれって。しかも今回は腕相撲にしてやるから、両手で握ってもらえるぞと馬鹿な兵卒をそそのかしただろ」
宇佐美と言い合っていた尾形が、俺の目を見ながら腕相撲になったということを言った。尾形は俺に、前回の指相撲より触れる面が多いのは宇佐美のせいだと言いたいらしい。
俺にしてみれば、また開催された時点で問題なんだがな。まあ両成敗されるにしても、宇佐美のほうを重くしてくれということだろう。
「バカお前余計なこと言うなよ! 僕が月島軍曹殿の使いっぱしりになっちゃうじゃないか! 」
「俺の使いっぱしりになるのは決まっているぞ、宇佐美上等兵」
「ハッざまぁないな宇佐美」
「お前もだぞ尾形上等兵」
馬鹿にしたように宇佐美を笑った尾形は、俺の言葉を聞いて黒目を細める。なんで俺までという顔だ。
それを聞いて宇佐美は尾形を見てニヤニヤと笑い、尾形は尾形で宇佐美を睨む。限がない。
「当たり前だろう。俺の命令を破ったのは変わらない。あとは参加した者の名を言え」
「いや~、みんなでやったんで数が多いというか、覚えきれてないというか」
「お前が覚えていないはずがないだろう」
「あれ、僕の優秀さを評価してくれてるんですか? 嬉しいです! ありがとうございます! 」
「誤魔化すな。なんだ、庇っているつもりか? 」
「そんなわけないでしょう」
自然に見える手慣れた作り笑いを張り付けて、なかなか口を割らないのはいつもの宇佐美らしくない。兵卒どもを庇う理由があるのか?
尾形に聞いてみるかと視線を動かしているとき、☆☆に声をかけられた。
「月島さん! 帰ってきてたんですね!」
「ああ、時間がかかる任……用事でもなかったからな」
「聞いてくださいよ! この間みんなで腕相撲大会やったんですけどね! 」
ああ、また皆に負かされたのだろう。俺が手伝いをしてもらってもう一度駄賃でも渡そうと考えていた。
しかし、☆☆の顔は不満そうなものにはならず、嬉しそうなままだった。
「宇佐美さんと尾形さんが勝たせてくれたんですよ! おもいっきりバシッと倒されて即負けると思ってたのに接待してくれました! 」
奴らに背を向け☆☆と話していたところを首をぐるっと回して上等兵どもを見てみれば、にっこりという言葉が似合う笑みを二人揃って張り付けている。
その間も☆☆は、宇佐美の負けかたの演技が上手くて手慣れていただの、尾形はやる気があまりない感じなのか、適当なところで負けていただのと楽しそうに報告してくる。
これはあれか、☆☆を楽しませてやったのだから加減してくれと言いたいのか。
「楽しかったか?」
「はい、楽しかったです! やっぱり負けばっかりでしたけど、最後は二人がお兄ちゃんみたいに遊んでくれたので嬉しかったです! 」
「そうか、楽しかったならいい」
宇佐美と尾形には罰を与えるが、手心を加えてやってもいいか。ああ、参加した兵卒も見つけておかないといけない。
☆☆が楽しかったと言うと、まあ多少はいいかという気持ちが出てくるのだから、俺も甘さが残っていると自覚する。
しかし、三回目は許容できない。あとでキツめに忠告をしておかないとな。やるなら覚悟しておけと。
▼
月島軍曹からお叱りを受けているとき、☆☆の姿が見えた。
最初に☆☆の視線が向かったのは月島軍曹だった。そして次は、月島軍曹の視線が外れて自由になった宇佐美。ヒラヒラと手を振っていたからだろう。それで最後が俺。
アイツが月島軍曹に一等懐いているのは周知の事実なのだ。焦ることもない。だが、宇佐美は違うだろう。
いくら宇佐美に手を振られ、つい見てしまったとしても、俺のほうが☆☆を構っているはずなのだから俺を先に見るべきだ。
自分でもただのガキの癇癪みたいなものだとは思いながらも、このスッキリしない気分をどうしたものかと考えていれば、ちょうど向こうから歩いて来た宇佐美と廊下で会った。
にやにやとした嫌な笑みを浮かべている。ここは少し「お話」をするか。
「お前がああも優しく遊んでやるとは思わなかったぜ、宇佐美」
「百之助がヘタクソなんでしょ、なにあのぎこちない対応。僕は鶴見中尉殿に言われた通りに兄妹みたいに接しただけだよ」
「中尉殿に言われなきゃ辛辣な態度で接するのかよ」
「そうとは言ってないでしょ。別に嫌いってわけじゃないし。甘やかしたりはしないってだけだよ。むしろ甘やかしてるのはそっちだよね。僕が知らないとでも? 」
「なんのことだかわからんな」
「あっそ。ま、そういうことにしといてあげるよ」
俺が宇佐美が何をしているかある程度把握しているように、ヤツも俺の行動は知ってるようだ。
そりゃそうだよな、中尉殿の飼い犬なんだから。だからこそ、月島軍曹からも離しておいたほうがいいのさ。
2025/8/16
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