短編
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鯉登両親は標準語も話せる設定になっています
鯉登少尉と結婚することになった。
別にしたくてするわけではない。鶴見中尉が仲人をしたので、鯉登少尉も断ることなくご両親を説得してしまいトントン拍子にお見合いが成立してしまったのだ。
私は高を括っていた。鯉登少尉がいくら鶴見中尉を信奉しているからといって私なんかと結婚しないだろうと。私は鯉登少尉の信者っぷりを甘く見ていたようだ。鯉登少尉が受け入れてしまったらもう断ることは出来なかった。私は腹を括った。
そして今日は鯉登少尉のご両親に挨拶するため、青森にある鯉登邸にお邪魔している。連日の移動からのご両親にご挨拶は非常にキツイ。まだ疲れがとれていません。
客間に通され、お義父さんとお義母さんを待っている状態だ。もうこの家にあるもの絶対高いよ!触るの怖い……
「おい、なにをボケッとしている。もうすぐ父上と母上がいらっしゃる。しっかりしろ」
「わ、わかってますよ。でもあるもの全部高そうだし、もし壊したらと思うと怖くて」
「ふん、少しくらい壊れてもどうってことはない。貴様は粗相をしないことだけ考えていればいい」
相変わらず上から目線の少尉殿だ。
まあ実際私の立場なんてないようなものだ。鶴見中尉に保護されている身だもの。だから鯉登少尉の嫁になることを受け入れたのだ。鶴見中尉が嫁に行けと言うなら行くしかない。
「わかってますってば。鶴見中尉に叱られないようちゃんとやります」
「少しはおいを頼ればよかもんを……」
「えっ?何ですか?聞こえませんでした」
「なんでもない!貴様に言ったのではない!」
たまに鯉登少尉は薩摩弁でぼそぼそ話すのだ。ほんのちょっとはわかるけど声小さいしまったくわからない。いつもはあんなに声大きいのに。
「音之進、静かにしなさい」
「っ!父上、申し訳ありません」
鯉登少尉のお義父さん鯉登平二少将だ。事前に鶴見中尉が教えてくれた。そしてお義母さんが鯉登ユキさんのはずだ。
「っ!もしかして貴方、昔薩摩で会った☆☆ちゃん?」
「えっ?私ですか?」
「☆☆という名前の女がこの場に他にいるわけないだろう」
「私よ、ユキよ。私が女学生だった頃よく話していたじゃない。珍しいお菓子もくれて……。覚えていない?」
「なにを言っているんだユキ。お前が女学生のときに会ったならその人も歳をとっているはずだろう」
「ユキちゃんなの!?また会えるなんて、すごく嬉しい!」
「「は?」」
実は私は二年前くらいにもトリップしていたのだ。そのときは行ったり来たり出来たので、お菓子を手土産にユキちゃんとお話していたのだ。まさかこんなところで再会できるなんてとても嬉しい。
「☆☆ちゃんはあまり変わっていないのね。私なんてこんなに年を取ってしまって」
「なに言ってるのユキちゃん。今もすごく可愛いしし綺麗だよ!」
「本当に?とても嬉しいわ。これからまた一緒にお話できるだなんて夢みたい」
「あっごめんなさい。これから私のお義母さんになられるのに、失礼な呼び方をしてしまって」
「いいの、ユキちゃんって呼んでちょうだい。私も若返ったみたいで楽しいわ」
相変わらずユキちゃんが優しくて涙が出そうです。息子さん私に全然優しくしてくれないんですよ!
鯉登少尉はユキちゃんの爪の垢煎じて飲んでください。
「まさか音之進さんのお見合い相手が☆☆ちゃんだなんて嬉しい驚きだわ」
「私も鯉登しょ……音之進さんのお義母さんがユキちゃんだなんてとても嬉しいです」
「私の結婚を後押ししてくれただけじゃなく息子の結婚相手になるだなんて、これはもう運命ね」
「ふふ、仲良しでいなさいってことかな」
ユキちゃんと二人で「うふふ」と笑い合っていると
お義父さんが話しかけてきた。
「もしや昔結婚を後押ししてくれたと言っていた方なのか?」
「そうなんです。私あのとき踏ん切りがつかなくて、ずっと話を聞いてくれていたんです」
「そうだったのか。その節は大変世話になったようで」
「いえいえそんな、私は大層なことはしていませんので」
もしかして鯉登少尉となんとか折り合いつけられれば、この結婚うまくいくんじゃない?だって相手のご両親とうまく行けば他の問題はだいたい解決しそうだと思う。
こうなると一番の問題は鯉登少尉とどうやって仲良くなるかですよ。鯉登少尉的には政略結婚の気分なんじゃないかな。鶴見中尉との縁を一つ増やしておきたいみたいな。もうほんとどうやって解決しよう案が浮かばない!
「音之進こちらに来なさい」
「はい、父上」
鯉登少尉はお義父さんとお話があるようだ。じゃあ私はユキちゃんとお話ししよう。
「実は私まだ着物のことよくわかってなくて、どういう合わせ方がいいかとか教えてほしいの」
「ええ、もちろん構わないわ。でも今の着物の合わせすごくいいと思うの。どういうところを知りたいの?」
「私ほんとに全然わからなくて、音之進さんが決めたの着てるの。だから自分でできるようになりたいなって思って」
そう、私の着物は鯉登少尉が決めたものなのだ。はじめて着物を買いに行ったときの付き添いも鯉登少尉だったし、ご両親に挨拶に行くのだからもっといいものを着ないと私じゃ格好がつかないと言われ、これももちろん鯉登少尉が選んでいた。
きっといい感じの着物を着ていたら、馬子にも衣装だなって言うと思っている。
「あらそうなの?うふふ、わかったわ教えてあげる。数日は居るのだろうからせっかくだし一緒に呉服屋に行きましょう。ああでも洋装も捨てがたいわ。☆☆ちゃんかわいいし背も高いからきっと似合うわ」
「どちらも行ってくるといい。☆☆さんは一月ほどはこちらに滞在することになった」
「あら本当に?嬉しいけれど、いいの?音之進さん」
私一ヶ月ここに居ていいの?ユキちゃんといっぱいお話できるじゃん!嬉しい!
あれ、鯉登少尉めっちゃ悲痛な顔してるけど大丈夫なの?
「……はい、せっかく再会できたのですから是非ごゆっくりとお過ごし下さい」
「音之進さんはどうするんですか?」
「っ!私は先に帰る。お前が帰るときは私か代わりの者を寄越す。父上と母上にご迷惑をかけるんじゃないぞ。わかったな?」
「わかってますよ。じゃあたまに電報送りますね。」
「ああ。お前はどんくさいのだから誰か供をつけるんだぞ。くれぐれも迷惑をかけるな」
私そんな迷惑かけまくってないと思うんですけど。
まあいいですよ。ご両親の前ですからね。しょうがないから妻として夫を立ててあげますよ。
「はい、音之進さんもお仕事頑張ってくださいね」
「ああ」
ユキちゃんもいるしこれから一ヶ月で鯉登家に馴染めるように頑張るぞ!
▼
私はついに☆☆と結婚することになった。
あいつと初めて会ったのは、鶴見中尉殿に紹介され着物を見繕ってやってくれと言われたので仕方なしにやってやったときだ。おそらくあのとき好きになったのだと思う。
一等卒や面倒な性格の上等兵どもと笑顔で接していたことも好ましく感じていたはずなのに、いつの間にかイラつくようになった。そのせいで☆☆と話すとき意地の悪いことを言ってしまうようになった。☆☆はちょっと嫌そうな顔をするがしばらくするとまた優しく接してくれたのだ。
私は不良のような真似をして母上を悲しませたことがある。母上はこんな私を見捨てることなく優しく受け入れてくれた。
☆☆も私を受け入れてくれる女なのではないかと思った。私を見た目や立場で判断せず、言いすぎたときは諭してくれた。☆☆と結婚するのは私しかいないと思った。鶴見中尉殿が☆☆と結婚するというなら、私では敵わないので諦めるしかないが。
早くしなければどこぞの男に取られてしまうと焦っていた矢先に、鶴見中尉殿から私なら任せられるから☆☆を娶らないかと言われた。私は一も二もなく受け入れた。この日は酒を飲みすぎて珍しく酔ってしまい、二日酔いになった。
父上と母上を説得するのは骨が折れた。はじめはもっとしっかりした家柄の娘が良いのではないかと言われた。☆☆には両親ともに結婚を認めてくれたと言ったが、実家での挨拶で本人と話して鯉登家の嫁に相応しいか判断すると言われていた。☆☆との結婚は反対されても認めてくれるまで粘るつもりだった。だから、母上と旧友だというのはとても良いことなはずなのだ。おかげで父上も☆☆と話していると母上はとても楽しそうだと喜んでいらっしゃった。結婚も許してもらえた。万々歳じゃないか。
「月島ぁん!私はどうしたらいいのだ!」
「ご両親に結婚を許していただけたのでしょう。良かったじゃないですか」
「それは良かったのだが、☆☆が一月も帰ってこないんだぞ!私はもう我慢の限界だ!」
俺はまた面倒くさいことに巻き込まれている。この感じからいくとあっちのネタになりそうな気配しかしない。
「何が我慢の限界なんですか」
「私は帰ってきたら初夜を迎える気持ちでいたんだ!今まで我慢に我慢を重ねたのにこれ以上は無理だ!」
「だったら遊女を買うかご自分で処理するかしたらいいじゃないですか」
「遊女を買う気はないし自分でするのももう嫌だ!」
「我慢するのはいいですが、抱き潰したら嫌われるかもしれませんよ」
「なに!?ではどうしたらいい、教えろ月島!」
「ご自分で考えてください」
これでは同じ問答を繰り返すことになる。我が儘ばかり言っていないで仕事をしてほしい。鯉登少尉は帰ってきてから使い物にならない。☆☆、早く帰ってきてくれ。
2019/5/28