短編
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「☆☆! 起きろ!」
肩を揺さぶられる感覚にゆっくり目を開けると、怒っているような怖い顔で鯉登さんが呼び掛けているのが目に入った。
何かしたかな? 怒るようなことはしてなかったと思うんだけど。
電気を消して早めに寝たなとか、鯉登さんが家に入れてるからチェーンするの忘れたんだなとかぼんやり考えていると、鯉登さんが体調の確認をしてきた。
悠長に考えすぎたなと反省し、大丈夫だと伝えれば、少しほっとした顔になった。
「どうしたんですか? いきなり家に来るなんて。何か用事でもできましたか?」
「用事がなかったら来てはいけないのか? いや、そんなことよりなぜ床に倒れているんだ!」
「倒れてませんよ。寝てたんです」
最近の夏はクーラーを入れても暑くてつらい。
暑いとベッドで寝るのも嫌なときがある。なので、そういうときは床で寝たりしている。身体が痛くて目が覚めたらベッドに行くけど、起きなかったらそのまま朝まで寝る。それが暑い夏の私の睡眠を取る方法だ。
ちなみに、今日の体勢はうつ伏せ寝だった。身体はちょっと痛い。
「そもそも、そんな格好で寝るやつがあるか!暑いのならもっとクーラーを効かせればいいだろう!」
「欲しかったもの買っちゃったから節約してるんですー。それに、下履いてないとけっこう涼しくて楽ですし」
「何!? 下着も着ていないのか!?」
「いや下着は着てますよ。ハーフパンツのことです」
なんという勘違い。
大きめのTシャツを着てるから見えなかったんだろうけど、さすがにパンツは履きます。
「……上はちゃんと着ているんだろうな」
「上? ああ、ブラですか? 着けてないですよ。もう寝るだけだったので」
Tシャツをずらし肩のところを見せれば、鯉登さんは目を大きく開き驚いたような反応を見せたあと、睨むような鋭い視線を私に向けた。
数秒後私から視線を外し、眉間に皺を寄せ何か考えているそぶりを見せている。
「いつもそのような格好で過ごしているのか?」
「暑く感じるときはそうですね」
「誰か来たときはどうする」
「そしたらハーフパンツ履いて出ます」
私だって玄関先に出るときはちゃんと着ている。
短パンじゃないのも、あまり露出しないようにするためだ。短パンで玄関先に出ていたら絶対鯉登さんに怒られる。
「クーラーの温度を下げる気はないんだな?」
「熱中症の心配してるんですか? それなら大丈夫ですよ。飲み物もちゃんとそばに置いてあるし。体温だって、ほら」
鯉登さんの左手を取り、太もも、お腹、首と手のひらを肌に当てた。
この格好が良くないのはわかるけど、涼しくて快適なのだ。それを分かってもらうために身体が熱くなっていないのを確認してもらった。
大丈夫でしょうと笑顔で鯉登さんを見ると、目が据わっている。あ、やばい地雷踏んだかも。
蛇に睨まれた蛙のように動けなくなってしまい、見つめ合った状態になっていた。すると、首に当てたままだった左手は、今度は鯉登さんの意思によって動きだした。肩、腰と下がりお尻にたどり着くと、荒っぽく揉み始めた。
これはまずいと思い、慌てて左手を掴み制止した。
「ちょっと鯉登さん! しないですよ!しませんからね!」
「お前が触らせたんだろう。責任を取れ」
「いやあれは体温確認であって、そういうつもりはなかったんです!」
「そんな破廉恥な格好の上触らせたんだ。そんなつもりじゃなかったではすまさんぞ」
そういうと鯉登さんは私の腰を両手で掴み、持ち上げて胡座の上に座らせた。背中から抱え込まれて身動きが取れない上に、お尻には大きくなった鯉登さんのが当たっている。
なぜ私が渋るのかというと、鯉登さんは絶対に一度では終わらないからだ。体力があるからか、一度では満足できないようなのだ。なので、最低3回くらいはして、次の日は鯉登さん家でゆっくり過ごすというのがよくある週末の過ごし方になっている。というよりは、動けないから家にいるしかないが正しい。
しかし今日は待ってほしい。明日は新刊の発売日なのだ。久しぶりに出る上下巻の小説を読みきってしまおうと、月曜日も有給を取って楽しみにしていたのに。
そうだ、今日は金曜日だった。それなら、土日は仕事が入ったと先週言っていたはず。
「そういえば、鯉登さん明日も仕事だって言ってませんでした?今日はゆっくり寝たほうがいいですよ」
「ああ、それはもう片付いたんだ。明日も明後日もも休みだから大丈夫だ」
「いやでも、毎日仕事で忙しくて疲れてるんじゃないですか?」
「私は体力に自信がある。それに、☆☆とするのは私にとって癒しのようなものだ」
このまま事を進める為か、最後の口説き文句のようなものはわざと耳もとに唇を寄せて言われた。私が耳弱いのを知っていて活用している。
寄せた唇は、そのまま耳のふちから首筋に吸い付くようなキスをしながら移動し首もとを強く吸われた。
「ッちょっと鯉登さん、そんな見えるところに……」
「たまにはいいだろう。それに、☆☆の家でするのは初めてだからな。記念みたいなものだ」
その理屈はよく分からないですけど。
お腹に回していた腕が太ももや脇腹を擦ってくる。どうにか止めなきゃと両方の腕を掴んだ。
「鯉登さん、駄目です」
「なぜそう嫌がるんだ。そんなに私としたくないのか?」
「そうじゃなくて……」
「私のことが嫌いになったのか?」
とても悲しげな声音で言われた。
鯉登さんは掴んでいた腕を動かして、今度は私の腕ごと抱き締められる。
「好きだ、好きなんだ。☆☆と別れたくない」
「ちょっと、私の話聞いてくださいよ。そしたらわかる……」
「聞きたくない!私はずっと一緒にいたいのに、別れ話など聞きたくない!」
どうにも勘違いしている鯉登さんは、頭を首もとに擦り付けてくる。そして、嫌だとか好きだとか、別れないなど呟いている。
話しかけようとすると、嫌だ嫌だと駄々をこねる。どうしたものかと解決策を考えることにした。
腕も動かせないし、話も聞いてくれない。そして、大きな勘違いをしている。けれど、頭は動かせるし、鯉登さんの顔は届くところにある。
これならいけるかなと思ったので、鯉登さんの方を向きほっぺたに軽くキスした。すると、ビクッと反応したあと、涙を浮かべた目で見つめられた。顔がこちらを向いたので今度は唇を軽く食む。いつも私からはあまりしないので、ちゃんと好きだという気持ちが伝わるように深いキスをした。
「……別れるなんて言わないか?」
さっきよりは落ち着いたけど、まだ不安な様子だ。
「言いませんよ。鯉登さんの早とちりです」
「休日の前の日は拒んだことなどなかったから、私のことが嫌いになったのかと思った……」
「違いますよ。実は、明日ずっと待ってた本が届くんです。だから、疲れて動けなくなると読む元気がなくなっちゃうから」
安心したのか固くなっていた体から力が抜け、拘束が弱まった。これはチャンスと立ち上がろうとすれば、離れるのは嫌なようで元の位置に戻された。
鯉登さんはそのまま動かなくなってしまったので、手持ち無沙汰だった私は首もとにまた置かれた頭を撫でることにした。
五分くらい経った頃、鯉登さんは急に私を横抱きにして立ち上がった。急な浮遊感に驚いたけど、私の狭い部屋だと移動もすぐなようで、目的地だったベッドの上に下ろされた。
「寝る気になりました?」
「いや、ならなかった」
「……しませんよ?」
「三回でどうにかするから許してくれ」
「えー、やだ……」
「頼む、このままでは寝られない」
「うーん、じゃあ二回なら頑張ります」
どうにも鯉登さんのお願いに弱い私は、明日無事に本を読める体力が残るよう祈りながら身を任せた。
◆
ひどく暑かった夏も終わり、涼しいを通り越して肌寒い日も増えてきた。
夏から秋になった間に、私の生活では二つの変化があった。一つは住む家が変わったこと、もう一つは名字が変わったことだ。
鯉登さんの押しに負けたあの日、結局疲れきってしまった私は本を読みきることが出来なかった。約束を守れなかったことを気にしたようで、次の週末にホテルに連れて行ってくれた。ここで読書しようと、鯉登さんも私が読んでいた本を持参して読んでいた。外の景色も良く、レストランの料理もとても美味しい、さらにスパやアフタヌーンティーも楽しんだ。もちろん本は無事読み終えることが出来ました。
さらに翌週は、鯉登家所有の別荘に行くことになった。観光してご飯を食べたあと、午後三時くらいに別荘に着いた。私が先に入るよう促されドアを開けると、部屋いっぱいにお花が飾られていた。たくさんの花束や、カゴに生けられたお花で彩られた部屋の中央のテーブルには、可愛らしいピンクの大きな胡蝶蘭があった。
胡蝶蘭の前まで手を引かれて移動すると、目の前に小さな箱を差し出された。中身は大きめの誕生石が鎮座した指輪でした。
そこでプロポーズされたわけですが、付き合って半年でされるとは思いませんでしたよ。非常に迷った結果お受けしたけれど、現状特に不満はないのでよかったのかな。まだ少ししか経ってないけど。
でも、ちょっと困っていることはありました。鯉登さんが新たな扉を開いてしまったことです。
「☆☆!なぜ出しておいた服を来てくれていないのだ!」
仕事から帰って来た鯉登さんを玄関で出迎えると、不満顔で指摘された。
鯉登さんが私の家に突撃訪問した日に致した結果、彼の服と下着だけ着てするのが気に入ってしまったようなのだ。結婚してからは、出勤する前にベッドの上に鯉登さんが着てほしい服が出されている。
「だってもう秋ですよ? 寒く感じる日も増えてきたのにシャツだけはちょっと……」
「なら暖房を入れれば暑くなるだろう」
リビングに移動して話していると、お目当てのリモコンを見つけさっさと起動させていた。ピッピッと設定温度を上げているので、いったい何度にしているのか気になり覗き込めばなんと三十度だった。
「ちょっと鯉登さん!上げすぎですよ!」
「音之進だ!もう☆☆も鯉登だろう!それと、もっと砕けた話し方にしようと言っただろう!」
「ああそうだった。なんかまだ慣れなくて……って、そうじゃなくてリモコン!」
温度を下げようとリモコンに手を伸ばせば、ひょいっと手が届かないように手を高く上げられてしまった。エアコンから勢い良く暑い風が吐き出されるので、早く取ろうと手を伸ばしたままジャンプしてもまったく届かない。猫じゃらしにじゃれる猫よろしく飛び跳ねていれば、暖房の効果もあり暑くなってしまった。
鯉登……じゃなくて、音くんはニヤニヤと楽しそうな顔で笑っている。どうやら私は策に嵌まってしまったようだ。ムキになるんじゃなかった。
「運動もしたからそろそろ暑くなっただろう?そろそろ着替えたらどうだ?」
「暖房切ったら大丈夫なのでいいです」
「やせ我慢をするな。ほら、寝室に行って着替えるぞ」
音くんは腰に手を回し、身動き出来ないようにすると、ピッとボタンを押してソファに投げた。幸いエアコンは止めてくれたのでよかったけれど、今度は私の身が危ない。
逃げようにも力は敵わないし、足の早さも敵わない。音くんの運動神経の良さはこういうときに困る。
何かないかと考えていると、ひょいっと横抱きにされた。
「まだするって言ってない!」
「良いじゃないか、新婚なんだから」
「ご飯だって冷めちゃうよ。せっかく作ったのに」
「む……、すまない。しかしもう我慢出来んのだ。埋め合わせはするから許してくれ」
眉尻を下げて謝られては言い返せない。本当に申し訳なさそうなのだから。
諦めて体の力を抜けば、途端に嬉しそうな顔になる。本人に言えば嫌がられるけどとてもかわいい。
同意を得たと認識した音くんは寝室に向かった。
少し歩けば着いてしまうベッドに下ろされると、置いてあったワイシャツを差し出された。
「今日は彼シャツですか」
「これくらいなら普通だぞ!私は変態ではないからな!」
チラッと見ただけなのに、なぜか焦り気味に言われた。
「そもそも服を着てするのは一般的な方だと書いてあった!」
「調べたの?」
「あっ……、いやその……、うん……」
反応からして、変態なのかどうか気になって調べたことは秘密にしたかったけど、口が滑っちゃったって感じかな。
仕方ない。そんなに気に入ったのなら着て上げましょう。
「わかった。いいよ」
そう言って着替え始めれば、嬉しそうな声で「そうか!」と聞こえた。音くんの新しい扉を開いちゃった原因は私にもあるし、協力します。
しかし、コスプレにまで興味を示し始め、着せられることになることを、このときの私は思っていなかった。
2020/11/16