短編
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鯉登少尉は私のことが好きらしい。
なぜらしいかというと、ユキちゃんと一緒にお茶していて聞いたからだ。
鯉登少尉が帰ってから、鯉登家のことをユキちゃんに教えてもらっていた。そしたら、驚きの鯉登少尉は私のことを好き発言を聞いてしまったのだ。
「えっ、ほんとなの?私音之進さんから好かれてるっぽいのあんまり感じないけど……」
「本当よ。音之進さんったら、今まで来た縁談全部断っていたのに、いきなり結婚したい相手がいるって連絡して来たの。それが☆☆ちゃんよ」
でも私は鶴見中尉に紹介されたからなあ。
鯉登少尉は鶴見中尉大好きだから断らなかったって可能性も十分あり得ると思う。むしろそうとしか思えない。
「そうかなぁ」
「そうよ。☆☆ちゃんは音之進さんがあまり優しくしてくれないって言っていたけれど、それは好意の裏返しよ。好きじゃなかったらあんなに真剣に☆☆ちゃんの着物を選ばないわ」
メイドさんに入れてもらった紅茶を飲みながら、私は鯉登少尉が帰る前に一緒に服を買いに行ったときのことを思い出していた。
◆
「奥様もどのようなお着物もお似合いでしたが、若奥様もお似合いですね」
今日は鯉登家御用達の呉服屋にユキちゃんと鯉登少尉と三人で来た。どうしても行くと言うので、鯉登少尉が帰る前に一緒に来たのだ。
私はユキちゃんと若旦那さんに着物についてのあれこれを教えてもらいながら、並べられた色とりどりの反物を見てどれにしようか悩んでいた。
「こんなにたくさんあると迷っちゃうね」
「好きなものを選んだらいいのよ。好きな反物を決めて、そしたら帯や帯揚げを決めたらいいわ」
ユキちゃんと若旦那さんにいろいろ聞きながら決めた。けっこう時間をかけて選び終わると、突然鯉登少尉が私に反物をあててきた。
「どうしたんですか?」
「私もお前に似合うものを探しているだけだ」
「えっ?でも今日は一着だけの予定じゃないんですか?」
「そんなわけないだろう。鯉登家がそんなしみったれた真似はせん」
このお金持ちめ。
ちょっとむっとした顔をしていると、鯉登少尉は少し焦った顔をしていた。
「ああ、さすが若旦那様ですね。若奥様にとてもお似合いです」
私がちょっと不機嫌になったのを察知した若旦那さんが、フォローするように間に入ってきた。
改めて鯉登少尉があててきた反物を見てみると、とても高そうに見える。しかもさっきまで鯉登少尉がいたところに反物いっぱい置いてある!
これは止めなければ。
「前にも着物買ってもらったので持ってますよ?」
「持っていたっていいじゃないか。良いものは子に引き継がれる。何の問題もない」
「でも……」
「婚約のお祝いとして頂くのはどうでしょう?」
「正忠、お前も良いことを言うではないか」
おや?鯉登少尉は若旦那さんと知り合いのようだ。
ていうかこのまま買っちゃいそうだけど大丈夫?さすがに全部はないと思うけど心配だ。
助けを求めてユキちゃんを見ると、ニコニコと微笑んでいた。すごく嬉しそう。
わかりました。受け入れます。
「わかりました。頂きます」
「そうか!では他のものも見るぞ!」
◆
「確かに真剣に選んでた」
「でしょう?音之進さんったらすごく熱心に結婚させてほしいってお願いに来ていたのよ。すごく☆☆ちゃんのこと褒めていたわ。音之進さんは照れて素直に言えていないだけなのよ」
鯉登少尉は小学生男子だった?
思い返せば、たしかにテンションが小学生のときありました。
三島さんと岡田さんと野間さんに焼き芋に誘われて参加したとき、鯉登少尉が来て食べたそうにしていたから、あとから持っていったことがあった。溢れんばかりの笑顔でお礼を言われたことがある。あのとき笑顔はまさしく少年のようだった。
ちなみに私がみんなのところに戻ると、私の分の焼き芋は尾形さんに食べられていた。そして、優しい三島さんが半分こしてくれた。美味しかったです。
「実はね、私も主人も最初はもっと家柄の良い娘さんを薦めたことがあるの。音之進さんは絶対に☆☆ちゃんがいいって譲らなくてね。鶴見さんに薦められたからならやめなさいって言われたら、薦められていなくても☆☆ちゃんを選んでいるって言い切っていたわ」
他の娘さんを薦めてごめんねと謝られてしまった。気にしなくていいのに。相変わらずユキちゃん優しい。
鯉登少尉を小学生男子だと考えれば、好きな子にいじわるしちゃうアレに当てはまることはけっこうあるかもしれない。
もしかしたらほんとなのかも。
そう考え始めると、ユキちゃんがだめ押しのように食事会のことを話し始めた。
「音之進さんが帰る前にみんなで食事したとき酔っ払っていたでしょう?音之進さんは滅多に酔わないのよ」
「嬉しくてお酒が進んだのね」と言われた。
私がユキちゃんの結婚相談を受けたように、今度は私が相談している。
もうユキちゃんの言うことが正しい気がします。だってユキちゃん嘘つかないもん。
あっ、そういえば食事会のあと鯉登少尉に送ってもらったとき言われた内容教えてもらおうと思ってたんだった。薩摩弁で言われてよくわからなかったんだよね。
「ねぇユキちゃん、すいちょっどってどういう意味なの?」
「え?好きってことだけど、どうして?」
送ってもらってる間に一番言われた言葉だった。
他にも色々言われた気がするけど、あまり覚えてない。でもあのとき一番言われていたのが『好き』か……。今まで一度も言われたことなかったのに、酔ったら一番言っちゃうなんて……。
「ふふ、☆☆ちゃん赤くなってるわよ」
「恥ずかしいから言わないで……」
「だから言ったでしょう?音之進さんは☆☆ちゃんのこと好きだって」
薩摩弁で言われた言葉がこれだと誰に言われたかなんてすぐにわかってしまう。ユキちゃんは私が落ち着くのを微笑みながら待っていてくれた。
恥ずかしいので話題を変えてしまおう。
「そういえば、花嫁修業するって言ってたけど何するの?」
「鯉登家の習慣や料理を覚えるの。夜会にも行かないといけないから踊りも覚えないといけないわね」
「うっ、全部覚えられるかなぁ」
「大丈夫よ、ちゃんと教えるわ。私がいなくなっても滞りないようにしないといけないもの」
「ユキちゃんどこかに行っちゃうの?」
「ふふ、私だっていずれは亡くなるのよ。そのときにどうしたらいいかわからないと困っちゃうでしょう?」
そっか、私がいた時代と違って長生き出来るかわからないんだ。医療技術も全然違うだろうし、戦争だってある。死が身近なのは軍人さんだけじゃないんだ。
そう考えると寂しくなってきた。いつまで一緒にいられるんだろう。
「私もね、お義母さんに教えてもらって出来るようになったの。ちょっと厳しく言ってしまうときもあるかもしれないけれど、許してね」
「大丈夫だよ、大事だと思ってくれてるから言ってくれるんでしょう?」
「ええ、☆☆ちゃんはもう鯉登家の大事な家族ですもの」
私はもう鯉登家の人間に入れてもらえたみたい。
鯉登少尉に好かれてるみたいだし、ユキちゃんには家族って言ってもらえたしで嬉しくなってきた。
以外と早く馴染めそうだし、鯉登少尉とも仲良くなれるかも。
「ゆっくり夫婦になっていけばいいわ。誰でも最初は他人から始まるんだもの」
「ユキちゃんも大変だったの?」
「ええ、考えてることがわからなかったり、喧嘩しちゃったこともあるわ。でも、ちゃんと話し合って理解し合うようにしたらだんだんわかってきたの」
「そっか、じゃあ私もユキちゃんを見習って、帰ったらいっぱい話すね。そしたら音之進さんも素直に言ってくれるかもしれないし」
私のほうが年下なんだけど、しょうがないから私から歩み寄りましょう。
もう結婚することも決まってるし、夫婦になるなら仲良しのほうがいいもんね。いっぱい話してたら、そのうちシラフでも好きって言ってくれるかもしれないし!
そういえば電報送るって言ったけど、手紙にしようかな。あとから見たら字の上達具合もよくわかりそう。まあ練習して見られるようになってからだけどね。
早めに手紙出せるようにするからそれまで待っててね、音之進さん。
2019/11/20