短編
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私は春にこの学校に転校してきた。私には不相応な有名私立高校だ。卒業まであと二年ある。だから変な騒ぎは起こしたくないのにこの男ときたら……
「☆☆、なぜ名前で呼ばない!いつも言っているだろう!」
「鯉登さん、勘違いされるようなことはしないようにしましょうっていつも言ってますよね?」
今日の授業も終わり帰ろうとしていると、鯉登さんに話しかけられた。これ絶対長いやつじゃん……
「私はただ☆☆と今までのように話したいだけだ!」
「それが駄目なんですよ。鯉登さん自分がどれくらい人気があるかわかってますか?」
「私など大したことはないだろう。勇作さんのほうが上だ」
「そういう問題ではなくー」
「音之進!」
鯉登さんと教室の後ろのほうで言い合っていると鯉登さんを呼ぶ声がした。そしてそのあと黄色い声と花沢先輩と言っている声が聞こえた。そして鯉登さんは焦った顔をしている。
「ゆ、勇作さん!」
花沢勇作?鯉登さんと交友のある花沢勇作さん。これはもしや百ちゃんの弟さんでは?目も百ちゃんに似てる気がする。
「音之進、最近部活に来ないでなにをやっているんだ。連絡もしていないだろう」
「勇作さんこれには深い事情があって…」
「お話し中申し訳ありません。花沢先輩、もしかして尾形百之助って名前のお兄さんいらっしゃいませんか?」
「おい☆☆!そんな事を聞いては駄目だ!」
「音之進静かにしなさい。兄様をご存知なんですか?」
「はい。昔仲が良かったんですが、連絡先を知らないまま離れてしまいまして」
嘘は言っていない。明治の頃は仲良しだったけど、また生まれてから会えていないから連絡先は知らないのだ。
「そうなのですか。では連絡してみますか?兄様も友人と再会出来たら嬉しいでしょうし」
「本当ですか!ありがとうございます!」
昔の記憶あると思うんだけど、なかったらやばい。まあ鯉登さんこんなに覚えてるしなんとかなるでしょ。
「お名前を教えていただいてよろしいですか?」
「○○☆☆です」
「ありがとうございます。では送ってみますね」
花沢先輩はとても優しく親切な方のようだ。
「あっもう返事来ました!」
「えっ?めっちゃ早いですね」
「○○さんの写真を送ってほしいそうです」
「ああ、本人確認したいんですね。わかりました」
花沢先輩は「はい、チーズ」と言って写真を撮ってくれた。百ちゃん、あなたの弟さんはかわいい方ですね。
「こら音之進、写真に写りたいのはいいが睨んでは駄目だろう。○○さんもう一度撮りましょうか」
「勇作さんそのまま送ってください。それを送ればおそらく学校にすぐ来ますよ」
「しかし……」
「勇作さん大丈夫です。なんの問題もありません」
今撮ったとき鯉登さんの顔真横にあった気がする。
鯉登さんは花沢先輩のスマホを取りそのまま送ったようだ。お行儀が悪いと怒られている。しかし、すぐに花沢先輩のスマホが振動しているのを見ると言った通りじゃないかと言わんばかりのどや顔をしていた。振動時間からしてこれは電話ですね。
「はい、勇作です。兄様どうしましたか。えっ?はい学校に居りますが、はい、はいわかりました。お待ちしております」
「尾形さんどうしたんですか?」
「○○さんこれから時間大丈夫ですか?兄様がこれから学校に来られるので、剣道場で待っていてもらうようにと言われまして」
「大丈夫ですけど、なんで剣道場なんですか?」
「私はこれから部活動の時間なので、気を使っていただいたのだと思います。音之進、今日はお前も行くんだぞ」
「もちろん行きますよ。尾形さんが来るのに☆☆一人にはできません」
「兄様は悪い方ではないといつも言っているというのに……」
その後、剣道場のすみっこで二人が着替えてくるのを待っていた。花沢先輩が主将のようでここにいるのも融通してくれた。
私は百ちゃんが来るまで暇なので、おとなしく二人の練習を見ていた。鯉登さんは最近サボりまくっていたからしごかれている。
一時間くらい経ったころ百ちゃんは現れた。見た目は昔と変わっておらず、私に気づくなりこちらに近寄ってきた。
「☆☆、お前今までどこにいたんだ。勇作さんから連絡が来たときは驚いたぞ」
「最近鯉登さんのところでお世話になってるの。両親が亡くなってお葬式のときに鯉登さんと再会して、そのあと引き取られたの」
「ははあ、やはり鯉登は☆☆を隠してたのか。最近怪しいとは思ってたんだ。勇作さんに感謝しねぇとな」
百ちゃんと話していると、鯉登さんがすごい形相で駆け寄ってきた。
「尾形貴様!☆☆と馴れ馴れしく話すな!」
「音之進、今は練習中だぞ!!集中せんか!!」
鯉登さん花沢先輩に怒られてるけど諦める様子はなさそうだ。
「尾形、今から私と勝負しろ」
「なんでそんな事せにゃならん」
「腹の虫が収まらん。それに貴様はOBなのだから、後輩の相手をしてもいいだろう?」
「口も態度も悪い後輩で参るね。勇作さんにもっとしごいてもらえ。まあいい、相手してやる」
えっやるの?剣道とか鯉登さんの得意分野では?でもOBとか言ってたな。今世の百ちゃんは剣道上手いのかな。
そうこうしているうちに剣道部のみなさんは乗り気で剣道着を渡したりしている。百ちゃんは「剣道は防具がくせえのが嫌なところだな」とぼやいている。
花沢先輩はちょっと困った顔だ。けれど、「練習をしないと…いやでも兄様の太刀筋見たい……そうだ、見ることもいい勉強になるはずだ」と独り言が聞こえた。解決策を見つけ嬉しそうな顔だ。
「☆☆、俺は着替えてくるから勇作さんの近くにいろ。あと鞄預かっててくれ」
「うん、わかった」
「○○さんのことはお任せください兄様」
「ええ、お願いします」
百ちゃんは着替えに行き、花沢先輩は部員にしっかり見るよう言うとすぐ私のもとに戻ってきた。
「尾形さん大丈夫でしょうか」
「兄様は子供の頃から剣道をやっていらっしゃるから心配ありません。大将を任されることもありましたから。確かに音之進も強いですが、サボっていた付けが回るでしょう」
「そうなんですか。じゃあ一方的に負かされることはなさそうですね。安心しました」
花沢先輩と雑談していると百ちゃんが戻ってきた。初めて剣道着姿を見たけどめっちゃかっこいいじゃん。つい見惚れてしまう。
「なんだ惚れ直したか?もっと見ていいぞ」
「いやそういうわけじゃないし」
とは言いつつ見てしまうのだから説得力がない。頬が熱い気がする。百ちゃんはお見通しだと言わんばかりにニヤニヤしながら見ている。とても悔しい。
「ははっ、まあそういうことにしといてやる。お前は俺が勝つのを応援しながらしっかり見とけ。勇作さん審判お願いします」
「はい、お任せください」
二人は剣道場の中央に向かって行った。
鯉登さんはというと、座って精神統一しているようだ。ああしているのを見ると、鯉登さんかっこいいんだから部活真面目にやればいいのにと思う。
試合は三本勝負になった。試合前のピリピリした空気で静まり返っている。二人はお面を付け試合が始まった。
二人の試合はとても迫力があった。鯉登さんは相変わらず運動神経良いし強いようだった。百ちゃんも強いのがわかった。しかし2ー1で百ちゃんが勝ったのは驚いた。やっぱり鯉登さんのほうが強いのではと思っていた。ごめんなさい、でも応援はしていたから許してほしい。
「今までのおサボりが足引っ張ったな、鯉登」
「ふん、貴様こそ大学に入ってから大して練習していないだろう」
「俺はちゃんとやってるぞ。そりゃ時間は減ったがな。何のためにわざわざ柔道、剣道とやってるかっつー話だ」
百ちゃんは鯉登さんと話ながらこちらに来ると、私の頭を撫で「シャワーしてくるからもう少し待ってろ」と言い剣道場から出ていった。鯉登さんは花沢先輩に慰められている。
鯉登さんは真面目に練習してたら百ちゃんに勝ちそうだと素人目にも見えたから大丈夫だよ。頑張って。
「音之進分かっただろう。いくらお前が強くても練習していないと負けるんだ」
「分かりました。しっかり練習し次は尾形を負かします。あいつに負けたままだと気分が悪いですから」
「兄様は先輩なのだからもう少し礼儀正しくしなさい」
鯉登さんと百ちゃんの仲の悪さは健在ですね。見慣れたものです。
十五分くらいたつとシャワーを終えた百ちゃんが戻ってきた。髪濡れてて色気出まくっています。
「お帰り百ちゃん。あれ?シャンプーの匂いするけど持ってたの?」
「勇作さんのをちょいと拝借した。どうせならちゃんと洗いたいだろ。お前このあと時間大丈夫か?」
「あんまり遅くなると平二伯父さんに怒られるから、遅くても七時までには帰らないと」
「わかった。鯉登、七時までには帰らせるから家のやつに伝えとけ」
「なに!?勝手に連れていくな!」
「ちゃんと送っていく。お前は練習に励んでろ」
連れていかれたのは携帯ショップだった。私と連絡するのに鯉登家支払いのスマホは嫌らしい。そのまま百ちゃん名義で新規契約したスマホを持たされ、連絡先の交換をした。
「今日は時間もないからこれで終わりだ。他のやつの連絡先なんか入れるなよ」
そう言うとタクシーを捕まえて家まで送ってくれた。鯉登さんはなにもされていないかと心配していた。
百ちゃんは昔に比べて人を信頼する感情を持ったように思う。受け入れてくれる人が増えたのかもしれない。
新しくもらったスマホをいじっていると今週末の予定を空けておけと連絡があった。それに了承の返事をして眠りについた。
次の日、お昼休みになると一緒に食べようと花沢先輩がクラスに訪れてきた。鯉登さんも一緒に行くと言うと、今回は駄目だが次からなら良いと言っていた。次もあるんですか、周囲の視線が痛いのですが。
「いきなりお誘いして申し訳ありません」
「いえ、ただどうして私なんかと食事なんて」
「兄様が○○さんは将来私の姉になる方だと昨夜仰っておりましたので、仲良くなるのは早いほうがいいと思いお誘いしました。これからは☆☆さんとお呼びしてもよろしいですか?」
「あの、名前で呼ぶのはいいですけど……ほんとに尾形さんそんな事言ったんですか?」
「はい、悪い男に騙されては大変なので学校では私が代わりに守ってほしいと。それにこれは親睦会のようなものと思ってください」
百ちゃん外堀から埋めすぎじゃない?まずは花沢先輩からか。毎回生徒会室にお呼ばれしてたらやっかみがやばそうだ。どうにか回避しなければ。
「そんな、花沢先輩はお忙しい身なのですから、ご迷惑をお掛けするわけにはいきません」
「そんなこと気にしないでください。それに私も嬉しいのです。私は兄様のことを尊敬しているのですが、回りにそのことを話し合える方はあまりいなくて。昨日☆☆さんと兄様のことを話していてとても楽しかった。だから、これは私の我が儘と思ってください。それと、これからは是非勇作とお呼びください」
どうしよう、昨日の雑談がこんなところで裏目に出るなんて。こんな善意しかなさそうな目で見られて断れる人いるんですか?あ、百ちゃんは出来そう、でも私は出来ない。そうか……これが百ちゃんの作戦か……
「わかりました。よろしくお願いします勇作さん」
「はい、よろしくお願いします☆☆さん」
勇作さんは尾形と話す機会が増えて嬉しい
尾形は勇作さんのおかげで鯉登が動きにくくなって嬉しい
鯉登は勇作さんいるけど一緒に食事できる機会が増えて嬉しい
兄様(にとって使い勝手がいい)ファンクラブ
2019/5/28