これからともに
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「みんな気持ち悪くなってない?大丈夫?」
スーパーから帰って来てマンションの駐車場に車を止めた。三人の様子を見ると、後ろの座席にアシリパちゃんと隣同士で座っていた杉元さんが少し調子が悪そうに見える。
「大丈夫だ。なんともない」
「俺も平気だよ☆☆ちゃん」
「俺はちょっと駄目かも」
行きは平気みたいだったけど、帰りは酔ってしまったようだ。行きと同じように安全運転したつもりだったんだけど駄目だった。食後だったのがいけなかったのかもしれない。食べ終わってから少し休憩を挟んだのだけど、まだ時間が足りなかったようだ。
「杉元さん大丈夫?動けそう?」
「うん、動けるよ。そんなに悪くないから大丈夫」
後部座席のドアを開け、三人には外の気温に慣れたら出てもらうように言った。私は先に荷物の確認をすることにした。
バックドアを開け積んだ布団三枚を見る。一人一枚持つ予定だったが、私が杉元さんを酔わせてしまったのだから私が二枚持とう。
「☆☆、何をしている」
「え?布団持つところだけど……」
布団の入った袋二つを持とうとすると、アシリパちゃんに声をかけられた。どうしたのだろうと不思議に思っているとアシリパちゃんは白石さんに目をやった。
「白石、お前が布団二枚持て。世話になってるんだから☆☆にあまり持たせるな」
「そうだぞ白石。俺の分も働け」
アシリパちゃんに続いて少し元気のない声で杉元さんも言うと、白石さんは当たり前だと返した。白石さん曰く、「男相手になんかやってやらねえけど、女の子なら積極的にやるさ」だそうだ。
「てことで、貸して☆☆ちゃん。俺のこと頼ってくれていいよ」
白石さんは私が持っていた布団を持つと、私にニッと笑いかけた。
白石さんにお礼を言って、私も布団一枚と買った服の入った袋二つを持った。杉元さんと白石さんのものだ。着替えを入れた袋は靴も入っていて重いしあとから運ぼう。
「アシリパちゃんは抱き枕持って行ってくれる?」
「ああ、もちろんだ」
アシリパちゃんが自分の服の入った袋を持とうとする。重くなっちゃうからと止めると、自分のものなのだから自分で持つと言われてしまった。「でも」と渋っていると横から手が伸びてきて杉元さんが袋を持った。
「アシリパさんはもう大きいの持ってるんだから俺が持つよ」
「杉元さんまだ体調悪いんでしょ?私が持つから貸して」
袋二つを持った右手を差し出すと二つとも取られた上に、車に入れたままの残りの袋七つも持ってしまった。杉元さんすごい。力持ちだ。
「なんか地面に立ってたら良くなってきたから大丈夫。俺丈夫だし」
「いやいや、荷物持ちすぎだから私も持つってば」
「ほんとに大丈夫なんだって!じゃあ俺先にあっち行ってるから!」
杉元さんは「行くぞ白石!」と言って、白石さんと一緒に小走りでエレベーターのほうに行ってしまった。
「大丈夫だ☆☆、杉元は怪我もすぐに治る強い男だ」
アシリパちゃんが言うなら大丈夫なんだろうか。どちらにしても荷物を持っていってしまったのだから早く家に置いて負担を減らしたほうがいい。
車の鍵をかけ、アシリパちゃんと一緒に歩いてエレベーターに向かった。
四人でエレベーターに入ると布団が嵩張ってギリギリだった。三階で降り私の家に着くと服はリビングに、布団は和室にひとまず置いておいた。
「ねえ杉元さん、やっぱりちょっと休んでからスーパーに戻ったほうがいいんじゃないかな?」
「えー、大丈夫だよ。歩いたらさらに良くなったし。それに遅くなると尾形に嫌味言われそうだから」
「そうかな?優しいから大丈夫だと思うけど」
「それは☆☆ちゃんだからだよ」
杉元さんの言葉に同意するように、アシリパちゃんと白石さんもコクリと頷いている。
そうなんだ。本人がいないところで以外な一面を知ってしまった。と思ったけれど、そういえば白石さんに辛辣なこと言ってた気がする。
「というわけだから、☆☆ちゃん早く行こう」
杉元さんは私の手を引いて部屋を出ようとするので、これは百ちゃんと同じタイプだなと思い諦めた。
家の鍵をかけ車に戻ると、今度は杉元さんが助手席に乗ることになった。シートベルトを忘れていることを伝えると、慌ててしまったのか勢いよく引っ張ってしまっている。このままだと上手くいかないので、身を乗り出してシートベルトを締めた。
「ちょっと☆☆ちゃん!なんで杉元はやってあげてるの!?俺は自分でやったのに!」
「だって白石さん自分で出来てたから大丈夫だなって思って」
「なら出来ないふりすればよかった……」
「おい白石、☆☆に迷惑をかけるな。世話になってるんだから自分で出来ることは自分でやれ」
アシリパちゃんがとても大人だ。まとめ役をしてくれてとても感謝しています。ありがとう。
「はい、じゃあ出発するよ」
車のエンジンをかけ駐車場を出た。ワゴンの運転も慣れて来たので、赤信号で止まっている間はアシリパちゃんが気になったことに答えた。横断歩道や信号、電柱にアスファルトなど説明した。
大型スーパーに着き駐車すると、百ちゃんたちのところへ向かった。行って帰って来るのに一時間弱くらいかかった気がする。何事もなく待っていてくれていることを願いつつ地下一階の休憩所に行くと、二人で話している姿が目に入った。
「☆☆、大丈夫だったか?」
「みんなおかえり」
こちらに気づいた二人が声をかけてくれた。ヴァーシャもアシリパちゃんたちに慣れてきたようだ。
「私たちは大丈夫だったよ。二人はどうだった?」
「おんなのひとはなしかけてきた」
「えっ、何かあったの?」
「何もない。ただのナンパだ」
なんだナンパか。二人ともかっこいいからね。仕方ないね。
「よくわからないことばはなしてた」
「よく分からない言葉?」
「いけめんだのらいんがどうの言ってた。見た目が派手で軽薄そうな女だった」
なかなか辛辣な物言いだ。嫌そうな顔をしているから、しつこく誘われたのかもしれない。そして杉元さんが言っていたこともわかってきた。機嫌が悪くなるとキツイ言い方になるんだろう。子供のときは機嫌が悪くなると口をきいてくれなくなるか、どこかに隠れてしまうことがあった。そういうときは、そのまま放っておくと悪化するから何が嫌だったか聞いて理解したり、頭を撫でたりぎゅっとするなどスキンシップが効果的だ。
「☆☆、なんぱとはなんだ?」
「男の人が女の人を遊びに誘うことだよ。今回は逆だけどね」
トップスの裾を引かれ誰かと目を向けると百ちゃんだった。「どうしたの?」と聞くと、「寝間着はいらないのか?」と言われた。そうだ、買おうと思っていて忘れていた。私は忘れっぽいところがあるので、百ちゃんに助けられることも多い。百ちゃんとヴァーシャが子供のときも助けてもらったことがあった。百ちゃんにはちゃんと見ていないと心配だと、ヴァーシャには自分と一緒にやれば忘れないと言われたことがある。とてもしっかりした子供だった。
百ちゃんにお礼を言って、みんなでまた洋服を買いに行った。薄手のスウェットと短パン、Tシャツを二枚ずつ四人分買った。アシリパちゃんは七分丈のパンツとTシャツを二枚ずつ買った。あと茶碗とお箸も人数分色違いで買った。
服は足りなかったらまた買おう。百ちゃんとヴァーシャのときは2ヶ月近く居たから買い足していた。今度はみんなどれくらい居てくれるのだろうか。
「必要なものだいたい買ったので、食品買いに行きましょう」
エレベーターで地下一階の食品売り場へ行き、カゴ二つを乗せたカートを押す。アシリパちゃんと杉元さんは最初の沢山の野菜、果物コーナーに目を奪われている。
先ほど買った荷物は百ちゃんと杉元さんが持ってくれている。
「杉元!食べ物がたくさんあるぞ!」
「そうだねアシリパさん!」
アシリパちゃんと杉元さんがキョロキョロ見渡していると、白石さんが大玉スイカを持ってきた。
「☆☆ちゃん!みんなで西瓜食べない?」
昨日今日とご飯がとてもおいしかったからスイカもおいしいに違いないと思ったらしい。
「おい白石、なに勝手に持って来てんだよ」
「みんなで食べたらおいしいと思ってさ~。ねえ☆☆ちゃん、お願い!」
「いいですよ」
白石さんが持ってきたスイカをカートに乗せた下のカゴに入れた。立ち上がるとヴァーシャは梨、百ちゃんは桃を持ってきていた。どちらも四つ入っているものだ。買ってほしいという目をしているので、これもカゴに入れた。
「☆☆!ここは食べ物がたくさんあって楽しいな!」
アシリパちゃんにキラキラした目で言われた。喜んでくれてとても嬉しい。
食料品は必要そうなものと食べてみたいと言われたものをカゴに入れていった。お肉やお魚コーナーではトレーに入れてあるのに驚いていた。家の冷蔵庫もそんなに大きいわけではないので、入る範囲で食品を買った。三人とも色々なものに興味を示すので買ってあげたくなるけど、また来たときにしないと冷蔵庫から溢れてしまう。
カゴいっぱいに入った食料品を見て杉元さんがまたお金のことを気にしていた。力仕事してくれているのだから気にすることはないと言うと、車に持って帰るときにまた頑張ってくれた。毎回頑張ってくれるのでとても丁寧にお礼を言いました。
食料品も調達できたのでもう家に帰らないといけない。家に着くのは18時くらいになってしまうだろうから、ベッドの解体は明日かな。
また車酔いしないように助手席は杉元さんにお願いした。静かな車内でアシリパちゃんの安眠を邪魔しないように、安全運転して家路に着いた。
駐車場に車を止め家に荷物を置く。寝ぼけ眼なアシリパちゃんは杉元さんが抱っこして連れてきた。買ったものは他のみんなで運んだ。夕方になったとはいえまだまだ暑いのでエアコンを入れ、食料品を冷蔵庫にしまったところでみんなに声をかけた。
「これから車返してくるので少し待っててください」
「もう夜になるんだから一人じゃ危ないよ。俺も一緒に行くよ」
まだ少し眠そうなアシリパちゃんのそばで座っている杉元さんが申し出てくれた。しかし、すぐに百ちゃんも自分が行くと言った。
「俺はこの時代のことはお前より慣れてる。外が薄暗い上に不慣れなお前より俺のほうが適任だ。わかったらアシリパを見てろ」
杉元さんが言っていた通り、百ちゃんはけっこう辛辣な物言いが多いのかもしれない。
百ちゃんは猫ちゃんみたいな感じだから、懐いてくれるととても可愛い。百ちゃんが子供のときも最初はツーンとしていたけれど、だんだん懐いてくれてスキンシップも多くなった。
ヴァーシャにはあまりつんけんした態度をとっていないから、慣れなのかな。それともまた機嫌が良くなかったか。よくわからなくなってきたけど、百ちゃんは百ちゃんだしあまり気にすることもないか。
「ひゃくずるい。わたしもいく」
「駄目だ。ヴァシリは家にいろ」
「なんで!」
「この家のことを知ってるやつがいたほうが安心だろ?お前は目立つんだから家担当だ」
「ひゃくもそう、あご!」
ヴァーシャは百ちゃんの顎の傷と同じ場所を指でトントン叩いた。それを見ると百ちゃんはヴァーシャを廊下に連れていき、何かを話しているようだった。
それにしても、ヴァーシャ日本語話すの少し上手くなってる気がする。たくさん話してるからかな?
「決まったぞ。俺が一緒に行く」
「ヴァーシャもいいの?」
「いい。ひゃくわたしのおねがいきいた。わたしもひゃくのおねがいきく」
ヴァーシャは笑みを浮かべ機嫌よく了承した。百ちゃんは何のお願い聞いたんだろう。
「☆☆行くぞ」
「ちょっと待って」
テーブルに飲み物とコップ、お菓子を置いてみんなにお留守番をお願いした。
戸締まりをし、一緒に車へ向かった。車に乗ってレンタカー店で車を返すまで百ちゃんはあまり話さなかった。疲れたのかな。今日は早めに寝たほうがいいかもしれない。
車を返し帰り道を歩く。今まで言葉少なだった百ちゃんが、歩きながら私の右手を握り話しかけてきた。
「離ればなれになってからずっと会いたかった。……から、また姉さんに会えて嬉しい」
手を少し強く握られた。百ちゃんの目を見ると懸命に伝えようとしてくれているようだ。
「私もまた百ちゃんに会えて嬉しいよ。そろそろ来るんじゃないかなって思って準備してたんだよ」
「俺が来るの分かるのか?」
「前兆があるからね」
どんなことが起こるんだと聞いてくるが、秘密だと言って言わないでいた。こちらをじっと見つめたあと、ため息をついた。
「俺は姉さんのこと好きなのに、姉さんは俺のこと好きじゃないんだな」
「そんなことないよ。私だって百ちゃんのこと大好きだよ!……ていうかなんでそういう話になるの?」
「俺に秘密にするなんて酷いだろう」
「だって、教えたらもう同じ前兆じゃなくなっちゃうかもしれないし……」
事前準備できなくなったら困っちゃうから秘密のままにしておきたいんだもの。
まだちょっと納得していない顔をしている。でも駄目だ。教えてあげられない。
「わかった。秘密でいいから、代わりに頭撫でてほしい」
百ちゃんは立ち止まり私を見つめた。相変わらず甘えん坊さんだ。当たり前だけど、大人になって変わったところもあるし変わらないところもある。百ちゃんは百ちゃんだ。
向かい合い、空いている手で百ちゃんの頭を撫でた。満足そうな顔をし、頭を手に押し付けている。猫みたいで可愛い。
頭を撫でていた手を動かし、頬を撫でる。気になっていた顎の傷をそっと触った。
「痛くないの?大丈夫?」
「たまに痛むときもあるが、大丈夫だ」
そのまま頬を撫でていると、手を掴まれた。どうしたのかと目を合わせると、とても真剣な顔をしていた。
「俺と一緒にいてくれるか?」
「ふふ、昨日も約束したでしょ?一緒にいるよ」
そう言うと、百ちゃんはとても嬉しそうに私の手に頬擦りしていた。
2019/8/2