これからともに
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三日目の朝ご飯の最中、百ちゃんは帰る時期がわかったという驚きの情報を教えてくれた。
そろそろ朝ご飯が出来上がりそうになった頃、ヴァ―シャが百ちゃんを起こしに行ってくれるというのでお願いした。しばらくすれば、身支度を整え現れた百ちゃんが「おはよう」と挨拶してくれる。先にアシリパちゃんたちが出来上がったおかずをテーブルに運んでくれていたので、あとはご飯とお味噌汁を出せば終わりだ。一番最後に来たからと残りの配膳を手伝ってくれている百ちゃんの特徴的な目は、視線を落としているせいかいつもより目が合わない。
「熱いから気をつけてね」
「ん、わかった」
今日の朝ご飯の用意をしているとき気づいたことがある。みんなのお茶碗やお箸を買い忘れたのだ。昨日は焼きうどんで大皿料理だったとはいえ、今日の朝まで気づかなかったのは忘れっぽいにもほどがあると思う。買おうと思ってたのに。だから今日も使えそうな器を使っている。
お盆に乗せて持って行ってくれているので、四回ほど行き来するとすべて運び終わった。
このお盆は、百ちゃんが私に慣れてきた頃、お手伝いすると言い始めたあたりに買ったものだ。食器をそのまま持つと熱かったりで危ないだろうと思い、一緒に選んで購入した。洋風で白を基調としたものとも迷っていた様子だったけれど、馴染みがあるのか木製のものを選んでいた。冷蔵庫の隣のブラウンのカラーボックスにいつも置いてあるのを覚えているのか、自然に取り出していた。記憶力が良すぎる。天才かな?
私と杉元さんが真ん中で向き合い、右隣に百ちゃん、左隣にヴァ―シャが座っている。そして、百ちゃんの向かいにアシリパちゃん、ヴァ―シャの向かいに白石さんだ
みんなが座っていただきますをして少し経った頃、静かに食べていた百ちゃんはおもむろに話し出した。
「あと数日で明治に戻れそうだぞ」
何でもないような様子で、ポツリと言う。
けれど、アシリパちゃんたちが楽しげに話しているなか、声を張ったわけでもないのによく聞こえた。気にせず食べているヴァ―シャを除いて、みんなの視線が百ちゃんに向いた。
「さっそく夢を見たのか?」
「ああ、距離をみるに数日だと思う」
「そうか。せっかく☆☆と仲良くなれたのだから、もう少し色々体験してみたかったが仕方ないな」
アシリパちゃんは眉を下げ少し残念そうな様子をしている。しかし、すぐに杉元さんが疑いの目を向けていたようで、刺々しい感じで百ちゃんに言葉を放つ。
「俺たちは誰も見てないのになんで尾形だけが見るんだよ。やっぱお前なにか隠してるだろ」
「お前たちと違って俺は二回目だからじゃないか」
「ヴァシリも二回目なんだろ」
間髪入れずに杉元さんが言い返す。
百ちゃんはちらっと杉元さんを見てから、やれやれという風に肩をすくめると口を開いた。
「前にも言っただろう、俺が見たのは鳥居だった。俺は日本人だからヴァシリよりも親和性が高かったんだろう」
まだ納得していないという顔をしていたけれど、次の言葉はなかった。
自分の名前が出てきたのがわかったからか、隣に座っているヴァ―シャが自分は何かしたのかと聞いてきた。それに大丈夫だと伝えると、ほんとかなと言ってるような顔でまたご飯を食べ始めた。
険悪な雰囲気のなかで自分の名前が出たから気になったんだろうけれど、すぐご飯を食べ始めるところがマイペースでいいところだと思う。
前回と同じくらいとまではいかなくとも、こんなにすぐだとは思わなかったなあ。再開できた二人やアシリパちゃんたちとの生活を楽しみにいていたんだなと、この沈んだ気持ちでよくわかる。この不謹慎な気持ちには蓋をしてしまおう。だって、アシリパちゃんも杉元さんも安心したような顔をしてるもの。白石さんはちょっと残念そうだけどね。
「あと数日ならあまり時間はないですね。さっきも話してましたけど、食べたいものや行きたい場所などあとで決めましょうか」
「私は未来がどうなっているかもっと知りたい。私たちの頃とは何もかも違う」
「俺はね~、若いお姉ちゃんがいるお店がいいなあ。明治の頃とどれくらい変わったのか気になるじゃん? 買い出しのときから露出多い子いるしさ~」
胸を揉むよう手つきをしながら白石さんは鼻の下を伸ばし楽しそうに言う。けれど、その白石さんを見る杉元さんの目は鋭い目つきで睨んでおり、表情も抜け落ち気味だ。顔の傷も相まってちょっと怖い。百ちゃんの場合は真顔である。そんな二人を見て少し慌て気味に白石さんは弁明した。
「いや冗談だよ冗談! わかるでしょ! 」
「冗談でも女の子に言っていいことじゃねえだろ」
「行きたいなら、お金渡しますから行ってきても大丈夫ですよ」
軽い気持ちで白石さんの背中を押した。すると、白石さんに非難の目を向けていた二人の視線が私に向く。杉元さんは、えっ、とか、は?みたいな言葉が洩れてきそうな顔をしている。百ちゃんは変わらず真顔だったけれど、黒目がキュッと細くなっているように思う。
「こんなことに☆☆ちゃんがお金出すことないよ!それも白石の頼みなんか!」
「俺の頼みなんかってひどくない?」
「すぐ金借りて博打やらに使うヤツが何言ってんだよ。そうでなくとも世話になってるんだから、余計な面倒をかけるな」
「わかってるって、俺だって本気で言ったわけじゃないから」
「あの、お金のことなら気にしなくていいんですよ?それに、男性の事情も少しはわかっているつもりなので……」
控えめに何かあれば遠慮せずに言ってくれ、という気持ちを伝えれば、杉元さんは顔を赤らめ帽子のつばを下げるような動きをする。けれど、今は何もかぶっていないので、右手は空振りした。そして、行き場をなくしたその手はまた足のほうに戻っていく。目を左右に彷徨わせ、口をきゅっとしたあと杉元さんは口を開いた。
「そんなこと☆☆ちゃんが気にしなくていいの! ほら、話を戻してどこ行くかとか、何食べるかの話しようよ!」
顔を赤くし早口で話す杉元さんは明らかに照れている。
顔が赤くなっているといたずら心で杉元さんに言ってみると、大きな手でさっと顔を隠してしまう。見た目は怖い系なのにかわいい行動をする。もう少し揶揄ってみたい気持ちが出てきたところで、白石さんが杉元さんに軽くちょっかいを出すと、赤かった顔は引っ込み、凄味のある顔で対応していた。
私が杉元さん、白石さんと話している間に百ちゃんとアシリパちゃんがどこに行きたいか話していた。
「動物園とかいいんじゃないか。世界中から色々な動物が集められているから、アシリパも気に入ると思うぞ」
「尾形が勧めてくるなんてめずらしいな。行ったことがあるのか? 」
「ああ」
「どんなのがいたんだ?」
「色々いたのは覚えてるが、子供のときだからな。あまり覚えてない」
どうやら動物園をアシリパちゃんにおすすめしていたようだ。
百ちゃんは動物園はそんなにねだられなかった記憶がある。どちらかといえば、水族館が好きで何度も一緒に行ったけど。
「こいつらは食うのが好きだから、何かうまいもん食べさせたら満足すると思う」
アシリパちゃんと話していたと思ったら、スッとこちらを向いて顎で示しつつ意見を言ってくる。
どうやら何か引っかかったようで、杉元さんがちょっと不満そうな顔で訴える
「なんだよその雑な扱いは。俺たちはただの食いしん坊じゃねえぞ」
「うるせえな。向こうに戻ったら楽なことは起きねえんだ、うまいもんでも食ってこれからに備えとけ」
2023/9/30
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