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君に出会わなければ ~Another story~


イリヤ(N)
草花に滴る雫が 朝日に照らされた光景を見て また同じ朝を迎えたのだと思い知る。
変わらぬ日常はまるで お前は逃げられないぞと言わんばかりに 私に突きつける。
嘆いても仕方のないこと。私は私の運命を受け止め そのシナリオに沿うだけなのだから。

トグマ(N)
その日は雨上がりの よく晴れた日だった。気持ちがいいくらい 気分の良い始まりだった。
友人と始めた傭兵の仕事は順調。その日も いつも通りに一日が終わるはずだった。
しかし 仕事先で友人が負傷し 近くの村へ寄って行くことになったのだ。幸いにも噂によれば その村の薬はよく効くらしく 友人の怪我もすぐ良くなるとのことで 一安心した。
薬師の女性と友人は 治療後 意気投合したようだった。だから俺は 邪魔をしないように 静かに 診療室を出た。

トグマ
「さて...フクロウの奴 嬉しそうにしやがって こっちが恥ずかしかったっつーの。まぁ 人の恋路は邪魔しちゃいかんな」
イリヤ
「恋路って もしかして お姉ちゃんとあの怪我した人のこと?」
トグマ
「うおっ!?って あんたさっき治療してくれた...リズさんの近くにいた...」
イリヤ
「イリヤよ」
トグマ
「あーイリヤ...さん。さっき俺が言ったことは忘れなくてもいいが 見守ってやってくれないか?確かに 俺らの見た目はおっかないが フクロウは良い奴なんだ。だから...」
イリヤ
「別に私だって 邪魔するつもりなんてない。お姉ちゃんも嫌そうじゃなかったし」
トグマ
「お そうか?なら 良かった」
イリヤ
「あなた...優しいのね 見た目の割に」
トグマ
「一言余計だが まぁ このナリじゃ しょーがねぇよな」
イリヤ
「あ ごめんなさい 傷つけるつもりじゃなかったの。私 思ったことをすぐ口に出しちゃうから...えと 今のは気にしないで?」
トグマ
「いや 別にそんな気にしてない。むしろ 見た目だけじゃなく 中身見て 優しいって言ってくれたなら嬉しいよ」
イリヤ
「......」
トグマ
「ん?イリヤさん?」
イリヤ
「ねぇ まだ村にいるの?」
トグマ
「あ?ああ フクロウの傷が良くなるまでは この村にいるつもりだが」
イリヤ
「じゃあさ じゃあ...私とお友達になって」

トグマ(N)
小さくて簡単に壊れてしまいそうな その少女は俺に『友達』を提案してきた。まぁ 彼女曰く 『お話友達』と言うやつらしい。村を出たことのない彼女は 村の外に興味があり 俺が外の話をすると 目を輝かせて話を聞いてくれた。俺に何の得があるかなんて そんなもの無いが 目の前にいる少女が 喜んでくれるのが 嬉しかった。

今日も 花畑で待ち合わせ。

イリヤ
「『さん』付け 何かやだ」
トグマ
「そうか?」
イリヤ
「だって 他人行儀なんだもん。私とトグマさんはお友達でしょ。じゃあ いらないじゃない」
トグマ
「ふーん...じゃあ イリヤ」
イリヤ
「トグマ...ふふっ 何か変な感じ」
トグマ
「あんたがこうしたいって言ったんだろ」
イリヤ
「でも あはははっ」
トグマ
「全く...」

トグマ(N)
穏やかな時間が流れる。今 とても幸せな気分だ。柄じゃないって言われるかもしれない けど 俺はこういう時間が好きだ。

イリヤ
「ねぇ トグマ。私ね いつかこの村を出て 世界を旅するのが夢なの」
トグマ
「良い夢じゃねぇか」
イリヤ
「でもね 私の夢は叶わないの。そう 昔から決まってて 抗えない」
トグマ
「何でだ?リズさんが反対してるとか?」
イリヤ
「お姉ちゃんが というか 村全体が かな」
トグマ
「よくわかんねぇな。なんで村全体に?」
イリヤ
「...お姉ちゃんに言われたの。『イリヤが成人したら 私とイリヤが村を守るのよ』って」
トグマ
「でも イリヤは村長の家族とかじゃないし 医者が必要って言っても リズさんがいるし 」
イリヤ
「私 本当はこんな村から出たい。生まれ育った 大切な村だけど。この村は 私を縛るの。私は 自由になりたい...。ずっと 誰かに話したかったけど話すのが怖かった」

トグマ(N)
そう言った彼女の瞳は熱を帯びて 宝石のように 美しく輝いてた。彼女の周りにはきっと この想いを聴いてくれる人が居なかったのだろう。知り合って間もない俺に伝わるくらい その秘めた想いが受け止めきれないくらい溢れているのがわかる。

トグマ
「話してくれて ありがとうな。わからねぇことだらけだが これからは一緒に考えよう」
イリヤ
「うん...ありがとう」

トグマ(N)
彼女は少し考え過ぎているだけ そう思っていた気持ちもあった。だから そばにいれる間 たくさん話を聞いて 励まそうと思っていたんだ。明日は何を話そうか そんなことを考えていたときだった。

友人が血相を変えて 部屋に入ってくる。取り乱した友人を落ち着かせると 友人は何があったか 少しずつ話した。まず この村の薬の材料は『ヒト』だったこと。友人曰くその現場を目撃したらしい。もちろん 友人が嘘や冗談を言うわけがない。そしてもう一つ 友人が想いを寄せていた薬師の女性が関わっていたと。
俺たちは この 人の死を冒涜する村から一刻も早く逃げ出したい そう思った。
しかし ふと頭によぎる。村人全てが加担しているわけではないんじゃないだろうか。だって 彼女はこの村を疑問をもっていた。なら 彼女はこの事実を知らないんじゃないか。
俺は 友人の説得にも耳を貸さず 彼女を探しに出た。

もう 日も暮れて 肌寒くなっているというのに 彼女はいつもの花畑にいた。

トグマ
「イリヤ!?ここにいたのか!」
イリヤ
「トグマ...?」
トグマ
「イリヤ この村は危険だ。俺がイリヤを連れ出すから 早く一緒にこの村から出よう」
イリヤ
「やっぱり そうなの?」
トグマ
「ああ こんな殺人連中 上に報告しないと」
イリヤ
「......」
トグマ
「とりあえず フクロウと合流して...って イリ...ヤ......?」

トグマ(N)
そばにいた彼女の手にはナイフが握られていた。その刃先は 俺の腹部に深く突き刺さる。
何が起こったのか 理解が追いつかない。口から血を吐き 地面に膝をつく。

トグマ
「イ...リヤ...?」
イリヤ
「あーあ バレちゃったなら仕方ないね。お姉ちゃん ヘマしちゃって全く。私は監視役だったんだけどさ。まさか活躍するなんて びっくりだよね」
トグマ
「......?」
イリヤ
「トグマはおバカさんだね。最初から あなたたちは私たちの餌だったんだよ。もっと簡単にわかりやすく言うなら 薬の材料にする予定だったの。ふふ。でも お姉ちゃんが反対するから なかなか手が出せなくて。」
トグマ
「夢...は...」
イリヤ
「嘘じゃないよ 私の夢は変わらない。でも 私は 私の運命に逆らえないのを知ってる。だから 抗わないよ」
トグマ
「イリヤ...は...あの イリヤは...本当に泣いていた。大丈夫だ...俺が...いる...」
イリヤ
「トグマはやっぱり優しいね。最後まで人の心配とか。本当に バカ」
トグマ
「......」
イリヤ
「さよなら トグマ。楽しいひとときを ありがとう」

トグマ(N)
このまま意識を手放して 楽になってしまおうと思った。けど それを俺自身が許さなかった。だって 目の前の彼女は あの時のように泣いていたから。

イリヤ
「な トグマ!?な 何するの!?」
トグマ
「俺は もうすぐ死ぬ。だからその前に イリヤ あんたに聞かなくちゃいけねぇことがある 」
イリヤ
「...離して」
トグマ
「嫌だね 離さねぇよ」
イリヤ
「......」
トグマ
「イリヤ。俺が あんたにしてやれることはねぇか?あんたは 確かに悪い奴かもしれねぇ。けど 俺には助けを求めるガキにしか見えねぇんだよ。だから言え。俺に 何を求める」
イリヤ
「...私は...私 は」

トグマ(N)
花びらが夜空を舞う。風が止むと 舞った花びらたちは 雨のように降り注いだ。まるで 彼女の悲しみの量を現すかのように。

イリヤ
「...もう 悪いこと したくない。抗えないのなら 誰かに止めて欲しくて 毎晩 願ってたの」
トグマ
「ああ 大丈夫だ。もう 大丈夫だ。」
イリヤ
「トグマ お願い。...私を 助けて」
トグマ
「あとは全部 俺に任せろ」
イリヤ
「ありがと...トグマ」

トグマ(N)
彼女の胸に突き刺さったナイフから手を離した俺は 彼女を優しく抱き寄せる。彼女は俺の腕の中で眠るように 息を引き取った。俺は彼女を抱え 花畑に腰を下ろした。冷たい夜風が 身体を通り抜けていく。もうすぐ 俺も死ぬ。

彼女を救えたのか それはわからない。けれど もうこれで 彼女は泣かなくてすむ。

最期 俺に出来ることが こんなもんで悪い。もっと彼女と話したかった。知りたかった。助けたかった。

後悔ばかりで 何も残らないかもな。
けど 不思議と この花畑で最期を迎えられるのが 幸せかもしれない。

イリヤ
『トグマ』
トグマ
『イリヤ』

イリヤ(N)
花は舞う。天へ舞う。
私たちの選択は 正しかったのでしょうか。
でも 選んだものは変えられない。
だから その道を進むしかなかったの。
私はこれで良かった。
もう 泣かなくてすむから。
もう ひとりぼっちじゃないから。
巻き込んで ごめんなさい
でも ありがとう

さぁ 行こう トグマ。



*END*
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