小話
「もし、獄さんが浮気したら、空却さんはどうします?」
寺で十四と2人、テレビでたまたま流れていた不倫騒動のニュースを見てそんなことを聞かれた。
「あー、そうだな…とりあえず獄ぶん殴って相手もぶん殴る。んで一生浮気できねえよう、切るかな」
「ひえっ、どこをっすかー!」
指をハサミに見立てて切る仕草をする空却を見て想像豊かな十四の目にうっすらと涙が浮かぶ。
「っつうのはまぁ冗談として、あいつは浮気なんてくだらねぇことはしねえよ」
「わぁー!愛っすね!」
「馬鹿!そんなんじゃねえよ、テメェの浮気をテメェで弁護するなんて情けねぇ真似アイツがするわけねぇだろ?もし、拙僧以外を選ぶとしたらちゃんと白黒つけて別れようとするさ」
あまりに現実的な答えに十四はガッカリしたのか、残念そうな声を出しながらもそれはそうかと納得した。
「まぁ、獄さん曖昧なの嫌いっすもんね」
「そういうこった。それに、アイツは拙僧が大好きだもんで、他の奴を抱こうとしても勃起しねえよ」
「やっぱ愛じゃないっすか!」
「愛なんて綺麗な言葉で済めば可愛げもあるんだがな」
ぼそりと呟いたそれは十四の耳には十分に届かなかったようで、話題は次のニュースへと移っていった。
数日後、十四は獄の事務所に遊びに来ていた。
空却はお勤めがあるらしくここにはいない。
パソコンに向かって難しそうな顔をする獄に十四が話しかける。
「この前、空却さんと話してたんですけど、もし空却さんが浮気したら獄さんだったらどうします?」
「…なんだそのくだらない質問は」
鬱陶しそうに十四をチラリと見てすぐにパソコンに向き直った。
十四はそんな獄に慣れているのか構わず話を続ける。
「ちなみにー、空却さんはとりあえず殴るって言ってました!」
「ハッ、あいつらしいな」
「獄さんは意外と許しちゃいそうっすよね〜、大人の余裕てきな?」
「許すわけねぇだろ」
もしもの話で、単なる雑談のひとつだ。軽い口調で返ってくると思っていたその返事は十四が考えていたものよりずっと重く冷たかった。なのに、話しているその顔は天気の話でもしているかのような何でもない表情で、そのアンバランスさに十四の背すじが鳥肌を立てながらスーッと冷えていく。
「あいつが俺以外に着いて行こうとしたら、全力でその縁ぶっちぎって一生そんな気起こさないようテメェの立場ってやつを教えてやるさ」
「…ひぇっ」
思わず、十四の喉の奥から絞ったような細い悲鳴が出るが、獄は構わず言葉を続ける。
「まあ、その程度であいつが言うこと聞くとは思えねぇから首輪でも着けて縛っておくしかねえかな」
「ひ、獄さん怖いっす…」
「あ?お前が聞いてきたんだろうが」
「だってぇ〜」
十四から見れば空却をいつも適当にあしらっている獄は、気持ち的にはもっとドライで大人な付き合いをしていると思っていた。
だが実際は一見、愛情なのかわからないくらい真っ黒になるまでどろどろに煮詰めたものを腹の底にしまっていたらしい。
知らなくていいことを知り、十四はまた一つ大人になるのだった。
寺で十四と2人、テレビでたまたま流れていた不倫騒動のニュースを見てそんなことを聞かれた。
「あー、そうだな…とりあえず獄ぶん殴って相手もぶん殴る。んで一生浮気できねえよう、切るかな」
「ひえっ、どこをっすかー!」
指をハサミに見立てて切る仕草をする空却を見て想像豊かな十四の目にうっすらと涙が浮かぶ。
「っつうのはまぁ冗談として、あいつは浮気なんてくだらねぇことはしねえよ」
「わぁー!愛っすね!」
「馬鹿!そんなんじゃねえよ、テメェの浮気をテメェで弁護するなんて情けねぇ真似アイツがするわけねぇだろ?もし、拙僧以外を選ぶとしたらちゃんと白黒つけて別れようとするさ」
あまりに現実的な答えに十四はガッカリしたのか、残念そうな声を出しながらもそれはそうかと納得した。
「まぁ、獄さん曖昧なの嫌いっすもんね」
「そういうこった。それに、アイツは拙僧が大好きだもんで、他の奴を抱こうとしても勃起しねえよ」
「やっぱ愛じゃないっすか!」
「愛なんて綺麗な言葉で済めば可愛げもあるんだがな」
ぼそりと呟いたそれは十四の耳には十分に届かなかったようで、話題は次のニュースへと移っていった。
数日後、十四は獄の事務所に遊びに来ていた。
空却はお勤めがあるらしくここにはいない。
パソコンに向かって難しそうな顔をする獄に十四が話しかける。
「この前、空却さんと話してたんですけど、もし空却さんが浮気したら獄さんだったらどうします?」
「…なんだそのくだらない質問は」
鬱陶しそうに十四をチラリと見てすぐにパソコンに向き直った。
十四はそんな獄に慣れているのか構わず話を続ける。
「ちなみにー、空却さんはとりあえず殴るって言ってました!」
「ハッ、あいつらしいな」
「獄さんは意外と許しちゃいそうっすよね〜、大人の余裕てきな?」
「許すわけねぇだろ」
もしもの話で、単なる雑談のひとつだ。軽い口調で返ってくると思っていたその返事は十四が考えていたものよりずっと重く冷たかった。なのに、話しているその顔は天気の話でもしているかのような何でもない表情で、そのアンバランスさに十四の背すじが鳥肌を立てながらスーッと冷えていく。
「あいつが俺以外に着いて行こうとしたら、全力でその縁ぶっちぎって一生そんな気起こさないようテメェの立場ってやつを教えてやるさ」
「…ひぇっ」
思わず、十四の喉の奥から絞ったような細い悲鳴が出るが、獄は構わず言葉を続ける。
「まあ、その程度であいつが言うこと聞くとは思えねぇから首輪でも着けて縛っておくしかねえかな」
「ひ、獄さん怖いっす…」
「あ?お前が聞いてきたんだろうが」
「だってぇ〜」
十四から見れば空却をいつも適当にあしらっている獄は、気持ち的にはもっとドライで大人な付き合いをしていると思っていた。
だが実際は一見、愛情なのかわからないくらい真っ黒になるまでどろどろに煮詰めたものを腹の底にしまっていたらしい。
知らなくていいことを知り、十四はまた一つ大人になるのだった。
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