唯一の人
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「ここ、どこ…?」
目を覚ますとそこは、暗く、木々や草花が生い茂っている森のような場所だった。
先ほどまで自分が置かれていた状況を顧みるに、私は死んでしまったと考えるのが妥当だろう。だがしかし、この状況はどういうことだろう。
間一髪命が助かっていたとしてもこのような野性味溢れる場所に放置するだろうか。いくら人間関係をろくに築いてこなかったからといってこの仕打ちはしないだろう。…多分。
周りを見渡しても特にこれといって知っているような景色もなく、今まで暮らしていた場所とは全く異なる所なのだとは把握できた。
するとふと、手に握っているものがあると気づき、視線をやると電車に轢かれるまで使っていたスマホがあった。画面は割れているものの、動作自体は問題なく、正常に動いていた。
ただ…
「電波…ない…」
どうしよう。
文明の機器のスマホが頼りにならないと分かった瞬間私の焦りは最高潮に達していた。
見ず知らずの土地で、所持品は電波の繋がらないスマートフォン一つ。
これはもしや異世界にきてしまったという事だろうか。
小説では夢物語のように語られ、憧れもしたものだが実際体験してみるとこんなに恐ろしいものとは思わなかった。
なぜなら私は、小説の主人公のように恵まれた容姿も、秀でた才能も、運ももっていないからだ。
その主人公であれば、魅力的な人柄に誰もが助けたいと思わせ、異世界で暮らしていく事ができるだろう。
でも私は違う。
なんで私が、よりによって私みたいな凡庸な人間が。もっと異世界トリップとかいう題材を活かせる優秀な人材がくればよかったのに。
焦りと不安が脳内をかき乱す。
怖い、帰りたい、怖い。
電波がない、頼りにならないと分かっていても、元の世界からただひとつ持ってきた物であるスマホをぎゅっと両手で握りしめた。
薄暗い森のようなそこは、たまに鴉の鳴く声がする気味悪い場所だった。鳥が飛び立つ音にビクつきながらとりあえず身を隠す場所が必要だと思い、生い茂る草花をかき分けてはじめた。
その時、
「ぎゃぁぁああああああああああ!!!!!!!」
断末魔のような叫び声が、森に響いた。
「え…?」
あまりにも突然の出来事に硬直していると、人数人分くらいの足音が聞こえてきた。慌てて木の後ろに身を隠す。
野生の動物でも出たのかもしれない。もし熊なんか出たら対処のしようがない。
ガクガクと震えるからだを抑え込むように自分で抱きしめる。すると目の前に逃げてきたであろう人間たちが現れた。
それらは甲冑をまとっており、刀のような武器を所持している。
あまりにも非現実的な光景に悲鳴をあげそうになるが、ここで声を上げては殺されてしまうかもしれない。そう思い唇を噛んで必死に堪えた。ついさっきまで死んでもいいと線路に飛び込んだ人間が、今では生き延びるために必死に身を隠しているのだからとんだ臆病者だなと自分でも思う。
結局私はこうも死を感じさせる状況に陥ってしまうと生きたいと、そう願ってしまわずにはいられない。
早く、できれば早く終わってほしい。
見つからずにこの場をやり通せる事に賭け、木の後ろから逃げてきたと思われる数人の甲冑を纏った人間を見た。その甲冑は日本史の授業で習ったような形をしており、まるで教材かと見紛う程だった。
(え…もしかして…ここは…)
この世界はもしかすると、異世界ではなく日本の過去の世界なのかもしれない。
そう思案していると目の前の人間が血しぶきを上げて倒れた。
「ひいいいいいい!!!!!たっ助け…!!!!」
目の前が真っ赤になった。
それは人間の血しぶきのせいか、殺人現場を目の当たりにした衝撃からか。
あまりの衝撃に体が動かない。
異世界なんてかわいいものではない。ここはそんな優しいものではない。
恐怖で今にも意識が飛びそうな自分を叱咤して、目前の甲冑を纏った男が怯えながら一心に視線をやる方に、目をやる。そしてそこに居たのは、先ほどまで暴虐の限りを尽くしたとは思えないほど、美しい血濡れの人間だった。
銀の透き通った髪色。背は高く、細く顔色も土器色で人間味を感じない人間。
顔や自らの体にべったりと血を纏ったその姿は人とはまるで遠い存在かのように思えたが、
「秀吉様の後継者たる私に刃向かった愚を、死をもって償え」
「ゆっ、許してください!!!!ひぃぃ!!!!」
「貴様に生を乞う権利などない。あるのは貴様の死を豊臣に捧げることのみだ。」
刃が目の前の甲冑の男に振りかざされる。
あまりにも速く、鞘から刀を出したのも分からないうちにその男は断末魔をあげながら事切れていった。
どうしてだろう。
どくどくと自分の心臓が息を吹き返したかのように暴れて仕方ない。
恐怖心が極まったのかとも思ったが、違う…
「おい、先ほどからそこにいる貴様」
ああどうしよう。
「誰だ。出てこい」
とうの昔に死んだと思っていた筈の鼓動がやっと、動き始めた、そんな気がしてしまったんだ。
目を覚ますとそこは、暗く、木々や草花が生い茂っている森のような場所だった。
先ほどまで自分が置かれていた状況を顧みるに、私は死んでしまったと考えるのが妥当だろう。だがしかし、この状況はどういうことだろう。
間一髪命が助かっていたとしてもこのような野性味溢れる場所に放置するだろうか。いくら人間関係をろくに築いてこなかったからといってこの仕打ちはしないだろう。…多分。
周りを見渡しても特にこれといって知っているような景色もなく、今まで暮らしていた場所とは全く異なる所なのだとは把握できた。
するとふと、手に握っているものがあると気づき、視線をやると電車に轢かれるまで使っていたスマホがあった。画面は割れているものの、動作自体は問題なく、正常に動いていた。
ただ…
「電波…ない…」
どうしよう。
文明の機器のスマホが頼りにならないと分かった瞬間私の焦りは最高潮に達していた。
見ず知らずの土地で、所持品は電波の繋がらないスマートフォン一つ。
これはもしや異世界にきてしまったという事だろうか。
小説では夢物語のように語られ、憧れもしたものだが実際体験してみるとこんなに恐ろしいものとは思わなかった。
なぜなら私は、小説の主人公のように恵まれた容姿も、秀でた才能も、運ももっていないからだ。
その主人公であれば、魅力的な人柄に誰もが助けたいと思わせ、異世界で暮らしていく事ができるだろう。
でも私は違う。
なんで私が、よりによって私みたいな凡庸な人間が。もっと異世界トリップとかいう題材を活かせる優秀な人材がくればよかったのに。
焦りと不安が脳内をかき乱す。
怖い、帰りたい、怖い。
電波がない、頼りにならないと分かっていても、元の世界からただひとつ持ってきた物であるスマホをぎゅっと両手で握りしめた。
薄暗い森のようなそこは、たまに鴉の鳴く声がする気味悪い場所だった。鳥が飛び立つ音にビクつきながらとりあえず身を隠す場所が必要だと思い、生い茂る草花をかき分けてはじめた。
その時、
「ぎゃぁぁああああああああああ!!!!!!!」
断末魔のような叫び声が、森に響いた。
「え…?」
あまりにも突然の出来事に硬直していると、人数人分くらいの足音が聞こえてきた。慌てて木の後ろに身を隠す。
野生の動物でも出たのかもしれない。もし熊なんか出たら対処のしようがない。
ガクガクと震えるからだを抑え込むように自分で抱きしめる。すると目の前に逃げてきたであろう人間たちが現れた。
それらは甲冑をまとっており、刀のような武器を所持している。
あまりにも非現実的な光景に悲鳴をあげそうになるが、ここで声を上げては殺されてしまうかもしれない。そう思い唇を噛んで必死に堪えた。ついさっきまで死んでもいいと線路に飛び込んだ人間が、今では生き延びるために必死に身を隠しているのだからとんだ臆病者だなと自分でも思う。
結局私はこうも死を感じさせる状況に陥ってしまうと生きたいと、そう願ってしまわずにはいられない。
早く、できれば早く終わってほしい。
見つからずにこの場をやり通せる事に賭け、木の後ろから逃げてきたと思われる数人の甲冑を纏った人間を見た。その甲冑は日本史の授業で習ったような形をしており、まるで教材かと見紛う程だった。
(え…もしかして…ここは…)
この世界はもしかすると、異世界ではなく日本の過去の世界なのかもしれない。
そう思案していると目の前の人間が血しぶきを上げて倒れた。
「ひいいいいいい!!!!!たっ助け…!!!!」
目の前が真っ赤になった。
それは人間の血しぶきのせいか、殺人現場を目の当たりにした衝撃からか。
あまりの衝撃に体が動かない。
異世界なんてかわいいものではない。ここはそんな優しいものではない。
恐怖で今にも意識が飛びそうな自分を叱咤して、目前の甲冑を纏った男が怯えながら一心に視線をやる方に、目をやる。そしてそこに居たのは、先ほどまで暴虐の限りを尽くしたとは思えないほど、美しい血濡れの人間だった。
銀の透き通った髪色。背は高く、細く顔色も土器色で人間味を感じない人間。
顔や自らの体にべったりと血を纏ったその姿は人とはまるで遠い存在かのように思えたが、
「秀吉様の後継者たる私に刃向かった愚を、死をもって償え」
「ゆっ、許してください!!!!ひぃぃ!!!!」
「貴様に生を乞う権利などない。あるのは貴様の死を豊臣に捧げることのみだ。」
刃が目の前の甲冑の男に振りかざされる。
あまりにも速く、鞘から刀を出したのも分からないうちにその男は断末魔をあげながら事切れていった。
どうしてだろう。
どくどくと自分の心臓が息を吹き返したかのように暴れて仕方ない。
恐怖心が極まったのかとも思ったが、違う…
「おい、先ほどからそこにいる貴様」
ああどうしよう。
「誰だ。出てこい」
とうの昔に死んだと思っていた筈の鼓動がやっと、動き始めた、そんな気がしてしまったんだ。
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