sotto voce
「うわ~、東京タワーだ!」
辺りに覇気のある大きな声が響き渡る。
「うっ、顔上げすぎて首いてぇ」
何ともベタで子供っぽい越野の反応に、仙道はたまらず吹き出した。
「お前って可愛いな」
「ん?なんか言ったか?」
「いんや、なんも」
大学の大会を観戦後立ち寄った東京タワー。
折角こちらまで来たのだから東京見物したい、と言い出したのはもちろん越野。
そして案内人は仙道。
タワー入口に到着すると、たまらず越野は走り出した。
「早く行こうぜっ!」
展望台までむかうエレベーターに乗り込むと、越野はガラス窓にピッタリと貼り付いて景色を見下ろしていた。
人や建物が一気に小さくなって行く。
「見晴らし最高だな」
「……うっ」
「どうかしたか?仙道」
「い、いい眺めだな」
彼はちょっぴり高所恐怖症であった。
展望台へ到着すると、外は陽も暮れ始めぽつぽつと建物に明かりがともり始めていた。
「た……高いな」
「おっ!特別展望台だって。まだ上があったのか。行ってみようぜ、仙道!」
「えっ…?あ、ああ」
高所恐怖症には少々つらいが、無邪気な越野の頼みでは仕方がない。仙道は渋々彼の後に続いた。
特別展望台に辿り着くと、素晴らしい夜景が2人を出迎えてくれた。
周りを見渡してみると、平日の夜ということもあり人はまばらだったが、男女のカップルだらけ。その光景を目にした越野は照れ臭そうに笑った。
「なんかさぁ、男2人って可笑しいよな」
「ん?ああ、そうかな」
仙道は手すりにもたれながら、夜景を見つめている。
(コイツは、いつもこんな涼しい反応なんだよな。何も気にならないんだろうか……)
越野は横目で彼をチラリと確認した。
仙道の端正な横顔。
同性から見ても、彼は本当に格好いいと思う。
(きっと女はほっとかねぇだろうな…)
何となくムカッときた。
「すまんかったな~、こんな男とデートなんてよ」
少し意地悪そうに言葉を投げかけて、夜景に目を移す。
横顔に仙道の視線が当たるのと同時に、意外な言葉が返ってきた。
「いや?俺は越野と来たかったから」
「……っ!」
顔が一気に紅潮していく。越野は居たたまれず遠くで上がる花火を指差しながら、照れ隠しに自然と早口になってしまった。
「あっ、花火っ!どっかでイベントでもやってんのかな~」
しかしその話題に仙道が動じることはない……。
「越野。今の俺、どうなってると思う?」
――ドクン
仙道の穏やかな問いかけに身体が固まる。
「知ら……ねぇよ」
まともに顔を合わせられない。
仙道は、越野に身体を傾けると耳元で囁いた。
「お前に、ドキドキしてる」