プレゼント
♪……ねぇ、もう気づいてるかな~
ささやかな 僕の 贈り物~
プレゼント フォー ユー……♪
「きゃーっ!」
「越野く~ん」
「こっち向いて~」
ふっ、今日もばっちりだぜ!!
俺は越野宏明。20歳。
つい2年前までバスケットマンだった俺は、とんでもない世界に迷い込んじまった。
それは、芸能界――
「みんな、今日はどうもありがとう!!!」
女の子達の黄色い声援に、俺は白い歯を見せながらとびっきりの笑顔で応える。
「キャー!越野く~ん」
長丁場だった番組収録を終えると、バスケ時代から変わらぬ挨拶でスタジオを後にした。
「ちゅ~っす、お疲れ様です!」
急いで鞄から携帯を取り出すと、メール着信のサイン。
【仙道彰】
『きょうは、おでんネ』
「短っ!」
もっとさ、仕事お疲れ様とかなんとか……まったくめんどくさがりな奴だな。
しかし、おでんか。
いいねぇ、こんな寒い日にはピッタリだぜ!
「たっだいま~!」
勢い良くマンションのドアを開けると、暖房のきいた部屋の中はポカポカと暖かい。
ん~、おでんのにおい……
すると、奥からツンツン頭がひょこっと顔を出す。
「おかえり~」
ぶっ!!
大男にエプロン、やっぱ似合わねー。
俺のマンションに仙道が転がり込んでから、もう1ヶ月が経つ。
ここからの方が大学に近いということもあり最初は週2,3回訪れる程度だったが、よほど居心地が良かったのだろう、いつの間にか居候になっちまった。
まっ、アイドルに危険はつき物。1人で暮らすより、この大男が一緒の方が安全かもしれないな……。
って、俺は女じゃねえんだから、そんな心配はいらねぇぞ!
「ほい、できたよ」
仙道は土鍋をテーブルの上に置くと、蓋を一気に開けた。
ほかほかと湯気が上り、ダシの香りが部屋中に立ち込める。
「うまそ~、いただきまっす!」
さっそく好物の竹輪にかぶりつきダシをすする。
ツンツン頭の料理人は俺の向かいで頬杖をつき、感想を待ちわびているようだった。
「うまい、うまい。ダシがいいよ!お前、料理うまくなったな」
「そりゃ、どうも」
仙道はにっこりと微笑む。
うっ、やめろ……俺はいっつもソレにやられちまうんだ。
「越野、今日は音楽番組の収録だったんだろ?」
「おっ?……おう」
なな、何を赤くなってるんだ、俺は!
「し、新曲出すからな~。ほらっ、コレだよ」
竹輪を頬張りながら、鞄の中に入っていたCDを手に取ると仙道に差し出した。
「……"プレゼント・フォー・ユー"………?」
「そっ。なかなかアイドルらしいタイトルだろ?」
「…………」
な、なんだよ。なに無言になってんだ?
「おい、せんど……」
すると、仙道は一気に吹き出した。
「あ~っはっはっはっ!」
腹をかかえて笑っている。
「なっ!笑うことねーだろっ」
こいつ……
まあたオレ様を馬鹿にしてるな!
「ははっ……うんうん、いいタイトルだ」
涙をこらえながら仙道は頷く。
「笑うなっ!」
なんで、いっつもこういう展開なんだよ!
「ねぇ越野。それ、歌ってみてくんない?」
あー?ったく、さんざん笑いやがって。
俺は、おたまをマイク代わりに握りしめた。
「しょうがねえな。一回だけだからな!よーく聞いとけよ!!」
♪……ねぇ、もう気づいてるかな~
ささやかな 僕の 贈り物~
プレゼント フォー ユー♪……
「ぶははははは!!」
「だから、笑うんじゃねえ!」
やっぱりアイドルを馬鹿にしてんじゃねぇかよ!
こんなことなら、おでん美味いなんて言うんじゃなかった。
やっと笑いが収まった仙道は、黙って俺の顔をじいっと見詰めて来た。
「な、なんだよ、歌ってやったぜ?」
「うん……ありがと」
笑ったかと思えば急に静かになって。わかんねえヤツ。
「……越野。なんか、気付かない?」
「へっ?」
なんかって?
おでんになんか特別なもんでも入ってる?
「……な~んでもね。さっ、俺もおでん食べよ」
??なんだ?
ふー、腹も膨れて満足満足!
洗い物をしている仙道をよそに、俺はテレビのリモコンを握りながらコタツにあたる。
ま、居候にはこれ位のことはやってもらわんと。家賃も貰ってないんだからよ~。
「んだよ、どれもつまんねーなっ!」
バチッと電源を切りリモコンを放り投げると、テレビの上に置かれたカレンダーがふと目に入った。
は~、もう土曜日か。一週間てはや。
…って、んん??
今日の日付に、何やら赤い印が付いているのが分かる。
近くへ行き凝視すると……
「ああ~~っっ!!」
「どした?越野」
「おおお、お前、今日っ!!」
俺の反応に、仙道は目を細めている。
「お前……今日誕生日じゃねぇかよ!!!」
わわ、忘れてた!自分でカレンダーに印付けときながら。
最近は新曲リリースで忙しくて、すっかり……
「せ、仙道……えっと、あの……」
仙道は苦笑して応えた。
「実は俺も、お前が帰ってくるまで忘れてた」
「えっ?」
「だってさ、自分の誕生日に、おでんつくるヤツいる??」
はは……そりゃ、そうだ。
「でも俺、プレゼントとかなんも……すまねぇ」
「いいよ、べつに。もう、貰ったしね」
貰った?
ま、まさか、さっきの……
「お前の歌を、さ」
"プレゼント・フォー・ユー"
や、やっぱり。
……なんか、すんごい恥ずかしいんですけど。
「ま、俺は……」
「あっ……、仙道」
ギュッと抱きしめられた。
「お前と一緒に居ることが、何よりのプレゼント、かな?」
なにクサいこと言ってんだよ、まったく。
「仙道……」
「んー?」
「誕生日、おめでとう」
少し背伸びをした俺は、ゆっくりと目の前の恋人へ顔を近づけていった。