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短編集













───或る日の事。


その日、輝夜月家の屋敷には、蟲柱の胡蝶しのぶと、恋柱の甘露寺蜜璃が朔耶を訪ねて来ていた。


鬼殺隊では数少ない女性隊士という事もあり、この三人は私生活でも交流を持っている為、非番の日や任務が入るまでの間はこうして三人でお茶を楽しむ事があった。




「それでねそれでね!伊黒さん、私の食べっぷりを褒めてくれて……」


「あはは、蜜璃は何でも美味しそうに食べるからねぇ」


「そうですね、伊黒さんが褒める気持ちも分かる気がします」




蜜璃は朔耶お手製の三色団子を頬張りながら、蛇柱の伊黒小芭内と食事に行った時の様子を嬉々とした表情で朔耶としのぶに語って聞かせ、そんな蜜璃を朔耶としのぶは微笑ましく見つめながら相槌を打っていた。




「しのぶちゃんは?冨岡さんとは最近どう?」


「どうして其処で冨岡さんの名前が出てくるんですか、甘露寺さん」


「だってしのぶ、義勇さんと結構いい雰囲気だもん、私も二人が何処までの仲なのか気になるなぁ~」


「気になるも何も、そもそも私達は付き合っていませんから!」


急に自分と水柱である冨岡義勇の話題になり、朔耶と蜜璃に言及されたしのぶは頬を赤らめて否定した。




「こほん……そう言う朔耶さんこそ、煉獄さんとは上手くいっているんですか?」


「あ、それ私も聞こうとしてたの!
最近の朔耶ちゃんと師範について!」


咳払いを一つして、話題を朔耶と杏寿郎の事について方向転換したしのぶに続き、蜜璃も瞳を輝かせながら朔耶の方を向いた。


「むぐむぐ……どうって、別に何時も通りだよ?
杏ちゃんとは別に喧嘩もしてないし、昨夜だって此処に泊まっていったからね」


朔耶はそんな二人の視線に臆する事無く、団子を口に運んで咀嚼しながらありのままの事実を打ち明けた。


「キャ~~!やっぱり朔耶ちゃんと師範、何時聞いても仲睦まじくていいわぁ~~!」


「朔耶さんと煉獄さんは幼馴染であり婚約者同士ですから、聞くまでもありませんでしたね……」


朔耶の話を聞いて蜜璃は黄色い声を上げ、しのぶは苦笑いを零した。




「おお、甘露寺に胡蝶も来ていたか!」


するとその時、茶の間の襖が開かれ、其処から杏寿郎がひょっこりと顔を出した。


「あ、杏ちゃんお帰りー」


「師範、こんにちは!お邪魔してます!」


「任務が入るまで時間があったので、朔耶さんのお屋敷でお茶をしようと甘露寺さんから誘われてお邪魔しています」


突然来訪した杏寿郎に、朔耶はヒラヒラと手を振って出迎え、蜜璃としのぶは揃って軽く会釈をした。


「うむ、そうか!
俺は鍛錬が終わったので朔耶の屋敷に寄らせて貰った!」


「寄るっていうか帰って来たんでしょ、半分此処に住んでる様なものだし」


「そうだったな、はっはっは!」


何時もの調子で豪快に笑う杏寿郎に、朔耶は茶を啜りながら隣を勧め、杏寿郎は遠慮せず朔耶の隣にどっかと座り込んだ。


(最早夫婦のやり取りですね……)


(あぁぁ……やっぱり朔耶ちゃんと師範って画になる二人……♡)


しのぶは朔耶と杏寿郎のやり取りを見つめながら悟りを開いた様な表情になり、蜜璃は頬を赤らめながら二人に熱い視線を送っていた。


「それで、三人で何を話していたんだ?」


「女性の会話の内容を普通聞く?

……まぁ別にいいけど……私と杏ちゃんの事について蜜璃としのぶから聞かれてたから教えてあげてただけだよ」


遠慮無く三人の会話の内容を訊ねてきた杏寿郎に、朔耶は苦笑いしながら蜜璃としのぶの事は省き、自分達の事だけを説明した。


「うむ、そうか!
胡蝶も甘露寺も、俺達の事を気にしてくれているんだな!

だが心配無用だ、俺達は何時も仲睦まじくやっている!
現に昨夜もこの屋敷で朔耶と交合っていたからな!」


「ブフゥッ!?」


杏寿郎の爆弾発言に、朔耶は飲んでいた茶を思わず吹き出し、蜜璃は顔を真っ赤にして両手で覆い、しのぶは唖然とした表情になった。


「ゲホゲホゲホッ……ちょっ……杏ちゃん!!
わざわざそんな事言わないでいいの!!」


「キャーーー!!
師範ってば大胆!」


「私はお二人の関係についてとやかく言うつもりはありませんけど……煉獄さん、それは堂々と公言する事ではありませんよ」


朔耶は噎せながら隣に座る杏寿郎に向かって怒鳴り、蜜璃は二人の情事を妄想しながら黄色い声を上げ、しのぶは噎せてしまった朔耶の背中を擦ってやりながら杏寿郎を窘めた。


「そうなのか?
だが俺は朔耶を愛しているし、何より嘘は吐きたくないからな!
だから昨夜、朔耶と交合った事を正直に言わせて貰った!」


しかししのぶに窘められても尚、杏寿郎は何時もの調子を崩さなかった。


「杏ちゃぁぁぁぁん!!
そういう問題じゃ無いんだってばぁぁ!!

……しのぶ、蜜璃……
お願いだからこの事は誰にも言わないで、もし知られたら私恥ずかしくてお館様にも皆にも顔向け出来ない……」


軌道修正が不可能だと悟った朔耶は、しのぶと蜜璃に縋り付き、この件は内密にして欲しいと懇願した。


「はい、それは勿論ですけど……朔耶さんも大変ですね……」


「分かったわ、私達三人だけの秘密ね!」


「俺も居るから四人だな!」


「杏ちゃんはちょっと黙っててくれない?」






───これは、間も無く任務が下りる前の、柱達の束の間の平穏な時間の一コマである。






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