短編集
「───満月の呼吸、壱ノ型……月華!!」
「グァァァッ!!」
───或る日の夜、任務先の森の中で鬼と遭遇した朔耶は間髪入れずに日輪刀を抜き払い、襲い掛かってきた鬼を一刀の下に斬り捨てた。
「オ、オノレ……鬼狩リ……」
「私と遭遇したのが運の尽きと思う事ね、私は人を傷付ける鬼には一切容赦はしない……
───さようなら、せめて安らかに逝きなさい」
首を切り落とされ、崩れ去りながらも恨めしそうに自分を睨む鬼を振り返りもせず、朔耶は日輪刀を鞘に収めながら目を伏せた。
「……この辺りの鬼は大方始末したかな、もう気配も感じないし……
睦にお館様への言伝をお願いして、今日はもう引き上げ……」
周囲を見渡して鬼の気配が無い事を確認した朔耶は、自身の鎹鴉である睦に耀哉への言伝を依頼する為睦を呼び寄せようとしたが、不意に新たな気配を背後に感じるとスッと目を細め、背後を振り返らずに口を開いた。
「───其処に居るのは分かってるわ、隠れてないで出てきたら?
それとも、私に首を落とされるのが怖くて出て来られないのかしら?」
朔耶の声に応える様に、気配の主は暗がりからその姿をゆっくりと現した。
「──その声、その立ち居振る舞い……お前は千年前から変わらないな、輝夜姫」
「………ッ!!」
暗がりから姿を現した気配の主の姿を見るなり、朔耶の顔は忽ちに強ばっていった。
───洋装に身を包み、端正な顔立ちをした長身のその男は、離れた位置から朔耶をねっとりとした眼差しで見つめながら、ゆっくりと朔耶の方へと歩を進めていた。
(コイツ……今までの鬼とは比べ物にならない程の圧を感じる……
それに、どうして輝夜姫の名前を……
千年前って……どういう事?
あまり考えたくは無いけど……もしかして、コイツ……)
朔耶は気配だけで相手の男が人間では無い事を看破し、右手で鯉口を切りながら左手を日輪刀の柄に添え、何時でも抜刀出来る様に腰を低く落とし、歩み寄ってくる男から目を離さずに居た。
男はそんな朔耶を面白そうに見つめながら歩を進め、その唇に歪んだ笑みを浮かべた。
「漸く会えたな、輝夜姫……
あの日から八年掛かってしまったが……食べ頃に熟したと考えれば良いだろう。
さあ輝夜姫……私の下に来い。
そしてその血を、その身を、私に捧げよ」
男はギリギリ間合いに踏み込まない位置で足を止めると、朔耶に向かって左手を伸ばした。
「───ッ!!」
男の発した「八年前」という単語で、胸の内に渦巻いていた疑問が確信に変わった朔耶は日輪刀を抜き払い、その切っ先を男に向けた。
「お前か……!
鬼舞辻、無惨……!
私のお父様を殺した……!お父様の仇……!」
朔耶は怒りと憎悪に満ちた目でその男──鬼の頭領であり、朔耶の父、聖耶の仇でもある鬼舞辻無惨を睨み、今すぐにでも斬りかかりたい気持ちを必死に押さえ付けながら荒い呼吸を繰り返していた。
(すぐにでもコイツの首を切り落としたいけど……コイツは今までの鬼とは格が違う、幾ら私が柱とは云え、一人じゃ太刀打ち出来ない……!
下手したら返り討ちにあって殺られる……!
誰か応援を呼んで、睦……!
近くに居るなら誰でもいいから……!)
朔耶は無惨から僅かに視線を外すと、睦が止まっている木の方角に視線で合図を送った。
すると程無くして睦の羽ばたきが聞こえ、主人の意思を汲み取った睦が飛び去っていく様子が視線の端に見えた。
(有難う、睦……
でもなるべく急いで、私もどれだけ引き付けられるか分からない……)
朔耶は視線を無惨から外さないまま、祈る様な気持ちで睦に全てを託した。
「……助けを呼ぼうと無駄な事だ、輝夜姫。
お前がどう足掻こうとお前は今宵、私のモノとなるのだからな」
無惨は朔耶の行動を見逃していなかったが、彼女の行動が徒労に終わると決め付けているのか、さして気に留める様子も無く更に歩を進めた。
「それ以上近付くな!
私は輝夜姫の子孫であって、輝夜姫じゃない!
お父様が護って下さったこの命、お前如きに渡すものか!」
朔耶はじりじりと近付いてくる無惨に対して怒声を浴びせたが、無惨は怯む様子も無く朔耶に歩み寄っていった。
「ククク……
お前が幾ら自身を輝夜姫では無いと言い張ろうが無駄な事だ……
その姿、その声、その立ち居振る舞い……そしてその身から溢れ出す天の力と馨しい血の香り……私には分かる。
お前は輝夜姫だ、千年前にこの私を拒み、跳ね除けた高潔なる天女……
あの日から私は、お前をこの手に収める事だけを目的とし、生き永らえて来たのだ!
輝夜姫……今度こそ私の前に跪かせてやろう!
その血を私に捧げた後も、私のモノとしてたっぷりと愛でてやる……喜ぶがいい、輝夜姫!」
話す度に気分が高揚してきているのか、次第に狂気じみた口調になっていく無惨に朔耶は恐怖を覚え、少しずつ後退していった。
(狂ってる……コイツは完全に私を輝夜姫だと思い込んでる……
確かにコイツは憎い仇であり、滅ぼすべき敵……
だけど力の差が歴然としてる、そんな相手に一人で無闇矢鱈と斬り掛かる程私は馬鹿じゃない。
……子供騙しでしかないけど……これで少し時間を稼いでその隙に退却するしか無い……!)
朔耶は一か八かに賭ける事にし、懐から閃光弾を取り出して無惨の足元に投げつけた。
「ッ!?
ぐぉぉ……ッ!」
すると弾から眩い光が放たれ、その光に怯んだ無惨は思わず両目を腕で覆った。
(今だ!)
朔耶は無惨が怯んでいる隙に、踵を返してその場から全速力で駆け出した。
「はぁ、はぁ、はぁ……!」
───どの位走ったのか分からない程、朔耶の心臓は破裂しそうな程に脈を打ち、口から血を吐きそうな程に息は上がり、全身からは汗が噴き出していたが、朔耶は決して走る速度を緩めはしなかった。
(必ず生きて帰るって、何時も杏ちゃんと約束してるから……!
だから私は……こんな所で死ぬ訳にはいかない!何としても逃げ切らなきゃ!)
朔耶は最愛の人の笑顔を思い浮かべながら、森の出口へ向かって全速力で駆け抜けていった。
───しかし、そんな朔耶の想いを嘲笑うかの様に、背後から伸びてきていた触手が朔耶の両手両足に絡み付き、朔耶の動きを止めた。
「ッ!?あっ……!」
手を拘束された拍子に、朔耶の手から日輪刀が滑り落ち、地面に転がった。
「くっ……!くそっ……!
こんなに早く追って来るなんて……!」
朔耶は悔しげに唇を噛みながら、何とか逃れようともがいたが、手足に絡み付く触手はびくともしなかった。
「無駄だ、輝夜姫……
あの様な子供騙しで私の目を欺けるとでも思ったのか?
諦めろ、お前は私から逃れられぬ運命なのだ」
すると背中から触手を伸ばし、朔耶を捕えた無惨が背後からゆっくりと姿を現し、嘲る様な笑みを浮かべたまま朔耶に歩み寄っていった。
そして無惨は朔耶を捕えたまま彼女の目の前に立つと、朔耶の顎に手を掛け、彼女の顔を無理矢理上げさせた。
「輝夜姫、お前だけには手荒な真似をするつもりは無かったが……おいたをしでかした以上、流石に温厚な私も黙ってはいないぞ?
……少し躾が必要と見た、私手ずから躾てやろう」
「私に触れるな……!
私に触れていいのはこの世でただ一人……!
お前の様な下賎な鬼じゃない!」
杏寿郎以外の男性──それも自分の父親の仇である男に触れられている事に対して激しい嫌悪感を抱いた朔耶は、鬼の様な形相で無惨を睨み付けた。
朔耶の言葉を聞いた無惨は歪んだ笑みを唇に浮かべながら、至近距離まで顔を近付けた。
「煉獄杏寿郎、と云ったな……
輝夜姫、お前が想うただ一人の男とは……
奴には既にその身体を開いたのか、輝夜姫?」
「……下衆が、お前にそんな事を教える義理は無い」
下卑た問い掛けをする無惨に神経を逆撫でされた朔耶は、更に表情を険しくしながら吐き捨てる様に言った。
しかし無惨はそんな朔耶の表情を見ても動じる所か、益々面白そうな表情になると朔耶の首筋を指で撫でた。
「ッ……!私に触れるなと何度言わせれば分かる……!」
「……ふ、その様子を見る限り、既にお前と煉獄は懇ろの仲である様だな……
だが、私には関係の無い事だ。
輝夜姫……今此処で私から辱めを受ければ……煉獄はお前の事を見限るやも知れんぞ?
自分以外の男に身体を許す不埒な女等、下等生物以外の何物でも無いからな」
そう言うと無惨は朔耶の太腿に触手を巻き付け、スルスルと肌の上を這わせた。
「ッ!!
貴様ァ……!それ以上私に触れてみろ、その首切り落としてやる……!」
「ククク……日輪刀を持たぬお前等赤子同然だ……何を言おうと痛くも痒くも無い……」
唸る様な声で威嚇する朔耶を意に介する様子も無く、無惨は次いで別の触手を操ると、朔耶の上着を引き千切った。
「ッ……!嫌ッ……!」
豊満な乳房がぷるんと揺れながら無惨の眼前に曝されると、朔耶は羞恥で頬を赤らめた。
「ほう……中々に発育が良いな、輝夜姫。
私好みだ、気に入ったぞ」
「み、るなッ……!!
この痴れ者が……!絶対に許さない……!!」
無惨は露になった朔耶の乳房をまじまじと眺めると、怒りと羞恥で身体を震わせる朔耶の反応を楽しみながら、両手で下から掬い上げる様に乳房を揉みしだき始めた。
「ひぃ……ッ!!」
無惨の手が自分の乳房を揉みしだく感覚に、朔耶は背筋に寒気が走るのを感じ、小さく悲鳴を上げた。
「手に吸い付く様な乳房だ……大きさも感触も悪くない。
煉獄以外の男に触れられて興奮しているのか、輝夜姫?」
朔耶の悲鳴を嬌声だと思い込んでいるのか、無惨は更に朔耶の乳房を揉みしだきながら、片方の乳首を口に含んだ。
「や……!やだっ……!!」
朔耶は敏感な部分を口に含まれても快感を感じる所か、全身に冷水を掛けられた様な寒気に襲われ、激しく首を振った。
「乳首が感じやすい様だな、輝夜姫……
さぞ煉獄に可愛がって貰っていたのだろうな」
しかし無惨は朔耶の様子には頓着していない様子で、舌で乳首を転がしたり吸い付いたりしながら愛撫を続けた。
(いや……気持ち悪い……!
杏ちゃん以外の男性にこんな事されるなんて……いや……!耐えられない……!
杏ちゃんじゃなきゃいや……杏ちゃん以外の人となんて……!
逃げたいのに手足が動かせない……この触手、力が強過ぎて振り解けない……!
このままじゃコイツに辱められちゃう……憎くて仕方無い、お父様の仇なんかに……)
手足を拘束されている為身動きが取れず、無惨にされるがままにされている朔耶はこの先に待ち受けている最悪の事態を想像し、恐怖と絶望に打ちひしがれた。
それと同時に、朔耶の瞳からはみるみるうちに涙が滲み、やがてそれは大粒の雫となって零れ落ちた。
「うっ……ひっく……うぅぅ……
杏ちゃぁん……杏ちゃぁぁん……!!
怖いよぉ……助けてぇ……!!」
朔耶がしゃくり上げながら杏寿郎の名を呼んだその瞬間、それまで余裕の表情を見せていた無惨の瞳が驚愕に見開かれた。
「───炎の呼吸、弐ノ型……昇り炎天!!」
「がッ……!!」
背後から炎を纏った斬撃を喰らった無惨は血を吐きながらよろめき、その場に膝をついた。
炎は朔耶の手足を拘束している無惨の触手に燃え移ると、忽ちに灰燼となり崩れ去った。
漸く手足が自由になった朔耶はその場に座り込み、目の前に自分を護る様にして立つ青年の背中を見上げると、安堵と喜びで再び涙を滲ませた。
「杏、ちゃん……!!」
名を呼ばれた青年──朔耶の婚約者であり炎柱である煉獄杏寿郎は朔耶の方を振り返ると、しゃがみ込んで朔耶の身体を強く抱き締めた。
「待たせてしまって済まない、朔耶……
睦からお前が鬼舞辻らしき鬼と遭遇したと報告を受けてすぐ向かったのだが、追っ手の鬼の数が多く手こずってしまった……
怖かっただろう、本当に済まなかった……」
「杏ちゃん……杏ちゃぁん……!!
私……私……!!」
杏寿郎の優しい声と温もりに安堵し、しゃくりあげながらも何とか事情を話そうとする朔耶の瞳に、杏寿郎はそっと唇を落とした。
「……いい、無理に話そうとするな。
お前が辛くなるだけだ。
後は俺に任せろ、俺もお前にこんな思いをさせた奴を許すつもりは毛頭無いからな」
杏寿郎はそう言うと自身の羽織を脱いで朔耶の胸元を隠す様に掛けてやり、怒りに満ちた表情で無惨を振り返った。
「───貴様が鬼舞辻無惨か。
俺の許嫁に何をしようとしていたのか、教えて貰おう。
……返答次第によっては、骨の髄まで貴様を焼き尽くす」
そう話す杏寿郎の低い声からは底知れぬ怒りの念が感じられ、普段滅多に怒らない杏寿郎の一面を垣間見た朔耶は思わず息を呑んだ。
傷は塞がっているが、杏寿郎から受けた斬撃の炎が未だ背中に燻っている無惨はよろめきながら立ち上がり、杏寿郎を睨み付けた。
「煉獄、杏寿郎……!!
私のモノである輝夜姫を、我が物面して手を付けていた忌々しい男……!
輝夜姫は貴様の様な下賎な人間の男が触れて良いモノでは無い……鬼の頭領たるこの私にこそ相応しいモノだ……!」
憎悪に満ちた紅い双眸で自分を睨み付ける無惨を、杏寿郎は何処か冷めた目で見つめ返しながら口を開いた。
「……鬼舞辻、貴様は二つ勘違いをしている。
まず一つ、此処に居るのは輝夜姫では無い。
俺の幼馴染であり、許嫁であり、俺にとってただ一人の愛しい人……輝夜月朔耶その人だ。
そしてもう一つ。
……朔耶はモノでは無い、一つの命を持った立派な人間だ。
俺の大切な人を、貴様の矮小な欲求を満たす為の道具の様に見るな、扱うな。
欲に塗れたその穢らわしい手で朔耶に触れるな。
……これ以上、貴様と話す事は無さそうだな。
俺の大切な人を傷付け、泣かせた罪はその命で贖って貰うぞ」
杏寿郎は其処まで言い切ると、右手に握っていた日輪刀を両手で構え、腰を落として臨戦態勢に入った。
「杏ちゃん……!」
朔耶は肩に掛けられた杏寿郎の羽織を握り締めたまま立ち上がり、傍らに転がっていた自身の日輪刀を拾い上げて杏寿郎の隣に立つと、日輪刀の切っ先を無惨に突き付けながら彼を睨み付けた。
「鬼舞辻……私の血も、心も身体も、お前なんかには渡さない!
私には杏ちゃんだけ……私は杏ちゃんただ一人を心から愛してる、それはこの先も永遠に変わらない!
私の全ては私自身と、杏ちゃんだけのもの!
力で捩じ伏せる事しか出来ないお前等に、私達の絆を断ち切れるものか!
私達はお前なんかに絶対に負けない!
人の想いの力を見縊るな!」
「朔耶……」
自分の隣で気丈に声を張る朔耶の姿を見、杏寿郎は目を見開いて微かに微笑むと、視線を無惨の方に戻し、呼吸を整え始めた。
「……興が冷めた、今日の所は輝夜姫に免じて退いてやろう。
だが次は無い……
煉獄杏寿郎、次こそは輝夜姫の目の前で貴様を八つ裂きにしてくれる……それまでせいぜい残された時間を謳歌するといい。
輝夜姫……お前が幾ら拒もうとも、お前が私のモノになる事に変わりは無い、その事を決して忘れるな……」
そんな杏寿郎と朔耶の姿を見た無惨は忌々しそうに舌打ちをすると血鬼術で自らの姿をかき消し、呪いの様な言葉を吐きながらその場から去っていった。
───無惨の気配が消えた後、朔耶は緊張の糸が切れたかの様に膝から崩れ落ち、杏寿郎に支えられた。
「大丈夫か、朔耶!?」
「杏……ちゃん……
怖かった……怖かったよぉ……!」
自分を心配してくれている杏寿郎の優しい声に、朔耶は再び目頭が熱くなっていくのを感じ、日輪刀を傍らに落とすと杏寿郎の胸にしがみついて泣き崩れた。
「怖かったな、朔耶……
済まない、何があってもお前を護ると言っておきながらこんな体たらくを晒してしまって……
本当に済まなかった、朔耶……
全ては俺の責任だ、どうか俺を詰ってくれ」
泣きじゃくる朔耶を見、杏寿郎は彼女の華奢な身体を強く抱き締めながら、心底申し訳無さそうな表情で朔耶に詫びた。
しかし朔耶は首を横に振ると、涙に濡れた瞳で杏寿郎を見上げた。
「いいの……謝らないで、杏ちゃん……
杏ちゃんが来てくれただけで、私はもう、それだけで……救われたから……」
「朔耶……」
意外そうな表情を見せる杏寿郎の唇に、朔耶は自分のそれを重ねると、杏寿郎の首に両腕を回した。
「ん……杏ちゃん……」
「朔耶……んっ……」
朔耶の口付けに応える様に、杏寿郎は朔耶の後頭部に手を添えながら自らの舌を朔耶の唇の隙間から差し入れ、朔耶の口内を舌で愛撫しながら彼女の舌に自分の舌を絡ませた。
暫しの深い口付けの後、朔耶は唇を離すと懇願する様な眼差しで杏寿郎を見上げた。
「杏ちゃん……家に帰ろう……
そして私を抱いて、鬼舞辻に触れられた痕跡を消して……
私、アイツに触られた時、凄く気持ち悪かったの……
あの感覚がまだ残ってるから……杏ちゃんの全部で、アイツの痕跡を消し去って……忘れさせて……
私……杏ちゃんじゃなきゃ嫌なの……駄目なの……
我儘だっていうのは分かってる、だけど杏ちゃん……私、杏ちゃん以外の男性に触れられた事が嫌で嫌で仕方無いの……
杏ちゃん……お願い……杏ちゃん……」
か弱い小動物の様に身体を震わせながら、潤んだ瞳で自分を抱いて欲しいと懇願する朔耶の扇情的な姿に、杏寿郎も自分以外の男が自分の愛する人に触れたという事実に腸が煮えくり返る様な激情を覚え、しかしそれを必死に押し殺しながら朔耶の身体を抱き締めた。
「……分かった、朔耶。
お前の望むままに……」
「───ひぁっ、あぁぁっ……!!」
「っ……!
朔、耶……朔耶……!」
───あの後、要と睦に耀哉への言伝を依頼し、朔耶を連れて輝夜月邸に帰り着いた杏寿郎は、朔耶の部屋に入るなり布団も敷かずに朔耶の身体を押し倒し、彼女の衣服を脱がせると愛撫もそこそこに彼女の秘部に滾る自身を挿入し、腰を打ち付けて責め立てていた。
しかし朔耶は痛がるどころか快楽に溺れきっており、杏寿郎の首に両腕を、腰に両脚を回して身体を密着させていた。
───もう何度中出しされたのか分からない程に、朔耶の秘部からは杏寿郎の精液と朔耶の愛液が交じった白濁液が溢れ出しており、畳の上に水溜まりを作っていた。
「杏、ちゃ……杏ちゃぁん……!
気持ちいいよぉ……!」
「ッ……!
朔耶……お前は俺の……俺だけの……ただ一人の愛する人だ……!
鬼舞辻には絶対に……お前を渡したりしない……!
お前は必ず……俺が護る……!」
杏寿郎は呼吸を荒げながら腰を打ち付け、無惨が触れた朔耶の乳房に顔を埋め、乳首を口に含んで厭らしい音を立てながら吸い始めた。
「あぁぁんっ、ひぁぁぁっ……!
杏ちゃん……杏ちゃぁん……!
私……杏ちゃんじゃなきゃいやぁ……!
杏ちゃんだけでいいの……杏ちゃんしかいらないのぉ……!
私が愛してるのは、杏ちゃんだけだから……!」
「朔耶……!」
その後も二人は、互いの存在を確かめ合うかの様に、夜が明けるまで熱く激しく互いを求め合っていた。
───無惨との邂逅は、悪い夢であったと互いに言い聞かせるかの様に。
了