「うわ、これおいしい！　もう１個買えばよかったかな」

「本当……あなどってた。夕方じゃ、もう無いよね」

「明日、士都麻先輩にねだってみたら？」

「ふふ、うん」


模擬店をいくつかまわり、最後に買ったたい焼きを堪能していると、壁掛け時計が目についた。


「あ、やばい」

「ん？　どうしたの？」

「もう交代時間過ぎてる……」

「え！　わ、マジだ！」

「急いで――「あーーっ！　神楽と三浦やっと見つけた！」


「急いで教室に」と言いかけた陸の声を遮って、聞き覚えのある声が二人を後方から呼んだ。


「「げ、室長！！」」

「交代５分前には教室にいるようにって言っただろ！　シフト狂わすなよ」

「ご、ごめん。すぐ戻るから」

「じゃーね室長！　ゆっくり休んで！」

「あ、オイ！」


まだ言い足りなさそうなのはわかっていたが、怒られているのもタイムロスになる。ということで、杏は陸の手を取って走り出した。


「……三浦、足速ぇ。あれ神楽大丈夫か？」


―――――


「ふーっ、危なかった。室長が説教はじめてたら余計遅刻だったよ」

「ちょ、あんず、速……」


走る前と表情の変わらない杏の横には、まだ息の整わない陸がいた。


「陸バテた？」

「よ、よくもまあこの混雑した校内を全力疾走できたね……っ」

「いやいや、もうちょっと出せたよ」

「……もういい。教室入ろ」


自分との運動能力差を身を持って感じた陸であった。