第十八章 忘れない
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気持ちを切り替えるためにふう、と息をついてから皆に向き直る。
「これからが本題。私がトラウマを持ったそもそもの原因は――家族にあるんだ」
「…………」
原因は家族にある。その言葉に、誰かが息を飲んだ。
「私は三人きょうだいの末っ子で、兄が二人いるの。小さい頃は三人仲が良くて――でも、だんだんと私を見る二人の眼が変わっていってさ。……襲われたんだ。それが、小6の夏休みだった」
「っ……!」
「え……何? ちょっと、良兄ちゃん?」
「んー?」
「なに、なんでこっちに来るの? っ肇兄!?」
「ごめんな陸。妹に欲情するなんておかしいと思うんだけど……」
「陸が誘惑すんのが悪いんだぜ?」
「なにそれ……や、やだっ! はなしてッ――!!」
「いい加減我慢の限界なんだよ。だから――」
「郡司と透が助けてくれたから未遂で済んだよ。でもそれ以来男の人の視線を異常なくらいに感じるようになって、友達と一緒に通うはずだった公立中学から急遽、私立の女子校に変更して寮暮らし。……兄たちとは、もう何年も会ってないよ」
話が終わり、部屋がしん……と静まり返る。
(私はずっとお母さんと二人で、怖いと思う人は皆他人だった。……でも陸さんは一時だったとはいえ、どこにも安らげる場所がなかった。家族にすら怯えなくちゃいけなかった気持ちは、私には想像できない)
「あの、陸さん……」
「なに?」
「だいじょうぶ、ですか?」
控えめな神無の問いに、陸は淡く微笑んだ。
「うん。トラウマはもう昔のものだと思ってるし、昨日のも一時的に思い出しただけだから……もう大丈夫」
「――じゃ、僕たちはそろそろ帰ろうか。神無」
「はい」
しんみりした空気を切り替えるように水羽がそう言って立ち上がり、神無もそれに倣った。
「それじゃ、私も帰ろーかなっと」
「え。杏、寮に帰るの? 荷物は、」
「近い内に取りにくるよ。いい加減帰らないとって思ってたし」
「僕、送るよ」
「へ? いいよいいよ! 近いし!」
「遠慮しない、ほら行くよー。先に4階行こっか」
「私は大丈夫です。早咲くんは三浦さんを送ってあげてください」
「神無まで……。じゃあまた明日。光晴、陸」
「おお」
「お願いね、水羽」
「うん」
三人を見送って、部屋には光晴と陸の二人きりとなった。