第十七章 うつりゆくもの
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文化祭の準備も終盤に差し掛かったある日。
「あ、おーい! 神無ちゃん!」
見慣れた後ろ姿を見つけた陸が思わず声をかけると、神無はびくりと反応してから辺りを見渡して――やっと声の主を視界に捉えて微笑む。
「……陸さん」
「保健室以外の校内で会うのは珍しいね。どう、準備終わりそう?」
「はい。あとは仕上げだけみたいです」
「そっか。こっちもあとは飾り付けなんだけど、材料が少し足りなくて……先生に貰いに行くとこなんだ」
「陸さん、一人ですか?」
「え?」
一呼吸置いてからああ、と理解する。
「杏、今保健室なんだ。朝から顔色悪かったから麗二先生に任せてきたの」
「そうだったんですか……」
「心配しないで。ゆっくり休めば大丈夫って麗二先生言ってたし」
「はい」
神無の中で自分たちがいつも一緒、という認識になっているのがなんだか嬉しかった。
(あとで杏にも教えてあげよう)
「あれー? 朝霧さんじゃーん」
「こんなとこで何してんのー?」
「!」
話し掛けてきたのは1年生と思しき二人組の男。友達と話すかのような軽い口調だが、その関係は想像でも難しかった。
「……いちおう訊くけど、知ってる人?」
「いいえ……知りません」
「ひどいなあ! 俺たち同じクラスなのに」
「俺喋ったことあるぜ!」
「はあ? それ嘘だろー」
「嘘! あはははっ」
笑い声を上げる彼らから神無を庇うように前に立ち、陸は視線を前に向けたまま小声で話し掛ける。
「神無ちゃん、走れる?」
「す、少しなら」
「うん。じゃあ――走って!」
「――はい、ザンネンでした」
「!?」
「俺らも甘く見られたモンだな」
「や……っ」
先程までそれなりにあった距離があっという間に詰められて、それぞれに捕まってしまった。
「神無ちゃん!」
「ねぇ、アンタもいいにおいするけど……誰の花嫁?」
「知らない、放して!」
心がざわつく。掴まれている左手首を離そうと抵抗してみるが男の手はびくともせず、締め付けは強くなるばかりだった。
「っ……」
「騒ぐなよ。タノシイことしようって提案じゃん?」
「しつこい! 嫌がってるのがわかんないの? いい加減――」
「ウルセェんだよ、黙れ」
「!」
ぐっ、と胸倉を掴まれて、黄金色に輝く瞳を間近に見た陸はびくりと震えた。
(光晴……!)