第二十九章 黒に堕ちる
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「俺の花嫁って……おじさん、何言ってるの?」
「本当のことさ」
「だって“花嫁”って、鬼の一族みたいな」
(あれ?)
自分が口にした言葉を理解した瞬間、陸は現状の不可解さに気が付いた。
「どうして」
「ん?」
「どうしておじさんは、10年前のままなの」
黒田の口角が上がる。
「そこに気づいたならわかるだろう? さっき俺が言った言葉の意味も」
(みたいじゃない、“そう”なんだ)
黒田纏は鬼の一族のひとりだ。それならば最後に会った父親の葬儀から10年、姿が変わらないことにも説明がつく。
「……うそだよ」
陸は胸元でぎゅっと手を握る。
「おじさんが、鬼だとしても。私は求愛を受けてない」
「それなら、試してみようか」
「え?」
ガチャン、と音を立てて陸のいる黒に包まれた部屋と黒田のいる明るい部屋を区切る格子戸が開いた。
「花嫁の胸元に咲く大輪は生まれる前に刻まれるもので、横恋慕なら大輪の脇に小さく咲く」
「なに、するの」
「すでに印を刻んだ鬼が口付けても何も起きない。いわば愛情表現か」
ゆっくり近付いてくる黒田から恐怖を感じ取った陸は、動きにくいベッドの上で少しでもと後退する。
だがその腕はあっさりと捕らえられた。
「あまり下がるな、落ちるだろう」
「待って、やだっ」
反対の手で服をずらされ、刻印が露わになる。
ーーそこに黒田の唇が落とされて陸の体にかすかな痛みがはしる。音は静かな空間でいやに響いた。
「んんっ……」
「……元々の花の形が似ていたようでね。ほら、見てごらん。花は増えていないだろう?」
「……」
「陸。お前は生まれたときから、俺の花嫁だったんだよ」
涙がひとしずく、頬を伝い落ちた。