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一人の朝

高校入学と同時に、一人暮らしを始めた綾芽。中学卒業までは叔父の家で生活していたが、どうにも疎外感が拭えなかった。いつも、自分が居ない所で叔父夫婦が自分の事を何と言っているのか――ソレを聞いてしまって以来、あの家での生活が苦痛で仕方がなかった。しかし、中学卒業を控えたある日、叔父から『卒業したら、一人暮らしをしてみないか?生活に困らないだけの金は毎月仕送りする。学費も全額払うから、どうだ?』と持ちかけられた。唐突だったが、綾芽はとても嬉しかった。この家から出られる。自由になれる。そう思うと、自然と笑顔になった。

高校も無事に受かり、卒業式が終わった綾芽は、一人で荷造りをしていた。叔父名義で借りたマンションは、近くに商店街があり高校にも近い。叔父の家からそんなに離れていないが、それは仕方が無かった。綾芽が何か問題を起こさないか。あの百合の娘だから、きっと何かをするに違いない。そんな疑いの眼差しはどうしようもなかったのだから。
「まったく……私が今まで問題起こしたっての?こっちは好きであの人の娘に生まれたんじゃないっての……」
一人ぶつくさと文句を言いながらも、荷造りの手を休めることは無かった。今までは友達を呼んで遊ぶなんて出来なかった。叔父達から『何かあったら困る』と禁止されていたからだ。が、一人暮らしを始めたらソレが出来る。
「そういや、眞葵と咲羅が手伝いに来るって言ってたんだっけ……あ――メールしないと!!」
引っ越しは明後日の昼。叔父が軽トラを借りて荷物を部屋まで運んでくれる事にはなっていたが、荷物の整理やらは自分でやれと叔母からキツく言いつけられていた。
二人にメールを送り、一休みしていると早速咲羅から返事が着た。
『荷物運ぶ前に、掃除しないと駄目なんじゃないの?』
掃除?……ってしないと駄目なの??嘘でしょ!?軽くパニックになりながらも、綾芽は咲羅に返事を送った。
『え……掃除ってしてあるんじゃないの??』
力なく苦笑しながらメールを送ると、携帯が鳴った。ディスプレイには『咲羅』の文字と携帯番号が表示されている。
「も……もしもし?」
「綾芽……世間知らなすぎだよ?」
恐る恐る出ると、咲羅の呆れた声が聞こえた。
「や……だってさ、賃貸に住んだことないし――」
「そういう問題じゃなく、常識だよ?綾芽……本当に一人暮らしなんか出来るの??」
「ん~……為せば為る、みたいな?」
「まったく……とにかく、掃除しないと荷物運べないからね?」
「え~!?じゃあ、どうしろってのさ??」
「午前中に掃除するしかないでしょ」
咲羅さん、何気に怒ってませんか?私、何かお気に障るような事言いましたか??
「う~――解ったよ。早起きしてマンションに行くよ……」
「じゃ、起きたらメールしてね?綾芽が着く頃に合わせて家出るから」
「お願いします…」
「は~い、じゃ、頑張ってね」
そう言うと、咲羅は電話を切った。溜め息を吐きながら携帯を閉じると、すかさずメールを受信し始めた。メールを開くと、眞葵からも意外な返事が――
『部屋ってさ、掃除済んでるんだよね?』
何で眞葵まで?!もしかして、知らないのって私だけ??
『……してないです』
あはは……開き直るしかないよね、こうなるとさ。
『は?マジっすか??』
『マジですよ?』
またしても着信を知らせる携帯。今度は『眞葵』の文字と携帯番号――
「はいはい……」
「マジですよ?ってどういう事だよ!綾芽さん!?」
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