「主、この所あまり長居をせぬのは……あの男のせいか？」
「簡単に言えばそうだね」
「……何があった？」
【十夜】が心配そうにナマエの顔を覗き込んだ。それに対し、ナマエは少し寂しげな顔をして返した。
「別に何もないよ。【十夜】達は心配しなくても大丈夫」
そう言いながら、ナマエは【十夜】の頭を撫でやった。
【十夜】はそれ以上追求する事を止め、大人しくナマエにその身を預けて浅い眠りに入った。
「ナマエ、それよりも修行をせんか」
「分かってる。そう怒らないでよ【白夜】」
毛を逆立てる【白夜】にナマエは苦笑し、【十夜】を起こさない様に立ち上がった。
「まずは【周】じゃ」
【白夜】に言われ、【十六夜（イザヨイ）】を変化させ【周】をするナマエ。
ナマエの手には【周】で強化された和弓が握られている。
「放て！」
【周】で強化した和弓から的である岩に向かって、これまた【周】で強化された矢を射る。すると、矢が当たった岩は崩れた。
「威力は申し分ないが、時間が掛かり過ぎておるな」
「相変わらず、【白夜】は厳しいなぁ」
苦言を呈されているにも関わらず、ナマエは楽しそうに返した。
「ナマエは普段から気を抜きすぎるのじゃ。本気になれば、応用技も完璧なのにな」
心底残念そうに言う【白夜】に、ナマエはにへらと笑うだけだった。

そうして【白夜】に修行を見て貰いながら森に留まる事2週間余り。眠っているナマエを起こしたのは、森がざわつく気配だった。
「この殺気……ヒソカ！？」
ナマエは飛び起き、ヒソカの名を口にする。
「またあの男か……」
唸る【十夜】を宥め、ナマエは森に呼び掛け気配の元を探る。
「森よ……ヒソカの元へ私を導いて」
すると、ナマエのいる場所から30ｍ程先まで森の木々が道を作った。
ナマエはそのまま元凶の元へと走りだそうとしたが、【十夜】に止められてしまう。
「主、行くのか？」
「何か問題でもあるの？」
「俺は彼奴が好かぬ」
「はは。私も好きじゃないから、安心しなよ」
それだけ言い残し、今度こそナマエは走りだした。

「ヒソカ！」
ナマエが奇術師スタイルのヒソカの姿を視認し、その名を呼んだ途端ヒソカは振り向き、その殺気をしまった。
「おや♦やっぱり此処にいたのかい♣」
「いるのが判ってるなら、物騒な殺気を出さないで。森が怯えてる」
「それは済まなかったね♠」
悪びれもなく言ってのけるヒソカに、ナマエは怒りを露わにした。
「ヒソカ！森に危害を加えるな！！」
「酷いなァ……ちょっと殺気を放っただけじゃないか♣」
「いい加減に――」
『して』と言おうとした時、ヒソカはナマエを抱き締めた。
「ただいま、ナマエ♥」
「なっ……」
「ただいま♦」
「…………おかえり」
「寂しかったかい？」
「まさか」
鼻で笑うナマエに、ヒソカは耳元で囁いた。
「ボクはナマエに会えなくて、寂しかったよ？」
「勝手に言ってろ」
「うん♥」
抱き締める腕に力を込めるヒソカに、ナマエは冷たく言い放つ。
「痛い。放して」
「もうちょっとだけ♠」
「嫌だ。抱きつかれる理由がない」
「言ったろ？ナマエが気に入ったって♦」
「いやいやいや……」
「じゃあ、言葉を変えようか♠ボクはナマエの事が好きみたい♥」
ニコリと笑いながら言うヒソカを、ナマエは睨みつけた。
「信用出来ないのかい？」
「当たり前でしょ……この気紛れ野郎が！」