ヒソカとの奇妙な共同生活を始めて1月程経った頃。ナマエの部屋にはヒソカの物が増えていった。
『ちょうどジャポンでの拠点が欲しかったんだよね♥』と言うヒソカは、いつの間に買ったのか高級な家具等をどんどん増やしていた。
ナマエは部屋の変わり様に最初は戸惑っていたが、今ではもう諦めがついたのかヒソカのする事に何も言わなくなっていた。
「キミって、いつ修行しているんだい？」
不意に言われたヒソカの一言に、ナマエはピクリと反応した。
「アンタが寝てる間」
「……キミは寝てないのかい？」
「森で寝てる」
プイッと視線を逸らして、ナマエは呟いた。
「夜遅い時間に、女の子があんなに深い森の中で寝るのは感心しないね♦」
「此処よりも安心出来るんだよ」
『アンタといると、気が休まらない』と言い返し、ナマエは家事を進めている。
「いい加減、ボクの前でその口調になるの止めたらどうだい？」
「どういう意味だ？」
「ボクが気づいてないとでも思ったかい？キミ、あの獣達には口調が柔らかいじゃないか♠」
獣――【式鬼（シキ）】に対する口調と自身に対する口調の違いに、ヒソカは若干機嫌が悪くなっていた。
それに気づいてなお、ナマエは口調を変える事を良しとしなかった。
「アンタが信用出来ない内は無理だね」
「なら、せめて名前で呼んでくれないかい？」
「アンタが私の事を名前で呼ぶなら、考えても良い」
「何だ♣拗ねてたのかい？」
「拗ねてない！存在を認められてないみたいで嫌なだけだ！！」
表情を歪めながら、ナマエは叫んだ。
それを聞いて、ヒソカは面白そうに笑った。
「そういう事か♦おいで、ナマエ♥」
「行くわけがないだろ！」
拒絶を露わにするナマエに、ヒソカはニヤリと笑った。
「嫌でも来て貰うよ♠」
ヒソカは【伸縮自在の愛（バンジーガム）】を発動し、ナマエを自身の腕の中に引き寄せた。
「なっ……」
「捕獲完了♪」
ニコリと笑いながら、ヒソカはナマエを抱き締める。
「放せ、変態！！」
「ヒソカ♠」
「いいから放せ！！」
「ちゃんとボクの名前を呼んでくれたら、放してあげる♣」
「……」
「どうしたんだい？」
「…………放せ、ヒソカ」
「言葉遣いがまだ直ってないよ♦」
「チッ……話が違う！」
「女の子が舌打ちはイケないなァ♠それに、ボクは気紛れだから♣」
「ったく……これでいいんでしょ？放してよ！」
「うん、合格♥」
漸くヒソカから解放されたナマエは、大きな溜息を漏らすとヒソカから離れた。
「そうそう、ボクちょっと出掛けるから良いコにしてるんだよ♦」
「ガキかよ……」
「ナマエは子供みたいに可愛いからね♥ボクがいなくて寂しいからって、浮気しちゃ駄目だよ？」
「浮気も何も、付き合っても無いじゃないのさ」
「そうなの？」
呆れた様に呟いたナマエに対し、ヒソカは驚いた様に訊き返した。
「え？」
「え？」
思わず驚いて声を出したナマエに、ヒソカも驚いた。
「ボク達、付き合ってるんじゃないのかい？」
「……どこをどう取れば、付き合ってる事になるの？」
「だって、同棲してるじゃないか♠」
「いやいや、ただの同居だから」
同居と言い張るナマエに対し、ヒソカはこれでもかという程目を見開いた。
ヒソカの思いも虚しく、ナマエにとってヒソカは厄介な同居人でしかなかった。
「ボク、これでも本気なのにな……♦」
呟いたヒソカの言葉は、ナマエの耳には届かなかった。

ヒソカが出掛けてから1週間。ナマエは森の奥へ入っていた。
「久々に此処を満喫出来るなぁ～。森に変わりはない？」
「ああ。この森は強い。ナマエがおらなんでも問題は無い」
「寂しい事言ってくれるなぁ……」
言葉とは裏腹に、にこやかに笑いながら【白夜（ビャクヤ）】を見るナマエ。
「やっぱり此処は落ち着くな……」
懐かしそうに呟くナマエに、【十夜（トオヤ）】は擦り寄った。