「ふぅ……お腹減ったし、今のうちのご飯でも作ろう」
埃だらけの服から着替え、冷蔵庫に入っていた食材で料理を作っていく。
「あ、アイツの着替え……師匠のでいいか」
ナマエはヒソカの着替えが無い事に気付くと、クローゼットから何かあった際にと置いている師匠の着替えを取り出し、バスルームへと向かった。
「着替え、ここに置いておくぞ」
「有難う♣」
バスルームから、ヒソカの声が反響して聞こえた。その声を無視するかの様に、ナマエはついでとばかりに洗濯機を回し始めた。
「さて、続き続きっと」
ナマエはキッチンに戻り、料理の続きを始めた。

大方出来上がった所で、リビングに気配が移動して来た。
「服のサイズ、大丈夫だったか？」
出来上がった分を持ち、リビングに入りながらヒソカへ確認する。すると、そこに居たのはピエロではなく色香を振りまく青年だった。
「どちらさん？」
青年とヒソカがリンクせず、テーブルに料理を置くとナマエは殺気を放って臨戦態勢に入った。
「サイズは大丈夫だったよ♦彼氏の服かい？」
「その声……おまっ…………あのピエロか？！」
「ピエロじゃなく、奇術師だよ♣」
「……だ」
「ん？」
「詐欺だ！！」
『これがどうすればあのピエロになるんだ？！』と呟きながら、ナマエは呆気にとられていた。
「おや♠それはキミが作ったのかい？」
「そうだけど……それが何か？」
「美味しそうだ♥」
「味の保障はしないけど、腹減ってるだろ？ついでだから、アンタの分も作った」
「良いのかい？」
「何が？」
「ボクにそこまでして♦」
「別についでだ。それと、その服は師匠のだ」
『さっさと髪乾かせ』と言い放ち、ナマエはキッチンへと戻った。

全ての料理を作り終えてリビングへ戻ると、テーブルの前に座り部屋の中を見回しているヒソカが目に入った。
「別に面白いモンなんかないだろ……」
「女の子にしては、質素な部屋だね♣」
ナマエの部屋は、女性の部屋にしては物が少なかった。質素と言うよりも、物がない――そんな部屋だった。
「寝に帰るだけだからな。必要最低限の物しか置いてないだけだ」
ナマエは特に気にする事なく、作った料理を食べる事にした。
「冷める前に食べろ」
それだけ言うと、ナマエは黙々と食べ始める。ヒソカはそんなナマエを不思議そうに見つめるが、直ぐに思考を切り替えてナマエが作った料理を口にした。
「……美味しい♦」
「そ。それは良かったな」

やがて綺麗に食べ終わったヒソカの食器をナマエは片付け始めた。ヒソカは黙ってその様子を見ていたが、ふと思った事を口に出していた。
「こうして見ると、ボク達恋人同士みたいだね♥」
「……その口、閉じさせてやろうか？」
「いいねェ、その殺気♠ゾクゾクしちゃうじゃないか♥」
「…………やっぱり、アンタは変態だ」
うんざりした様に呟くナマエを無視し、ヒソカはナマエの背後に立った。
「ボク、やっぱりキミの事気に入ったよ♥」
ヒソカは言いながら、洗い物をしているナマエの腰に腕を回し抱き付いた。
「離れろ。動きづらい」
「ツレないなァ♦」
「ツレなくて結構。好きでも無いアンタに抱きつかれて喜ぶ程、飢えてないんでね」
苦々しく言うナマエに、ヒソカはクツクツ笑った。
「なら、ボクの事を好きになれば良い♥」
耳元で囁くヒソカに、ナマエは鳥肌が立った。
「耳元で喋るな。気持ち悪い」
「おや♠キミは耳が弱いのかい？」
「人の話を聞け！」