「私は何処にも行かないよ。私の居場所はもう決まってるからね」
「？」
「さ、日も暮れてきたしそろそろ宿に戻ろう？」
ヒソカがナマエの言葉の真意を理解する前に、彼女は止めていた足を動かし始めた。

宿に戻るなり、ヒソカはナマエを抱き寄せた。
「どうしたの？」
「何でも無いさ♠」
「何でも無いなら離してくれない？ご飯作りたいんだけど」
「ボクはご飯よりも、こうしていたい♣」
「……動けないから、とりあえず離して」
「イヤ♦」
「我儘言わないで」
呆れて溜息を吐くナマエを、ヒソカはクツクツと笑いながら更に抱き寄せた。
「ゴメンゴメン♠そんな顔するなよ♦」
『今すぐ食べたくなるだろう？』と、ナマエの耳元で囁くヒソカ。
そんなヒソカの言動に顔を赤らめるナマエを見て、ヒソカは満足したのか抱き締めていた腕を離した。
「冗談だよ♥」
「……笑えない冗談は止めてよ」
「おや、不服かい？なら本当に……」
「いやいや、それこそ謹んでお断りさせて頂きますから！」
「チェッ♣」
ヒソカから開放されたナマエは、足早にキッチンへと向かった。
ナマエを開放したヒソカは、自身から離れていくナマエの後ろを黙ってついて行く。
「ちょっ……ついて来なくていいから！」
「たまには手伝わせてよ♠」
「手伝う？ヒソカが？」
「他に誰がいるんだい？」
「……」
「無言は止めて欲しいな♦」
「ごめん。けど、今日は簡単な物しか作らないから手伝いは要らないよ」
「ボクが手伝いたいだけなんだけど♣」
ナマエの返答に、ヒソカは気落ちしたように肩を落とした。
「ダメかい？」
「…………分かったから、そんな顔しないでよ。なんか、物凄い罪悪感を感じるから」
「くくく、そんな顔のナマエも可愛いよ♥」
「もういい……さっさと作って食べよう…………」
「うん♪」
上手くヒソカに言い包められた感じは否めないが、ナマエはヒソカに指示を出しながら夕食を作っていった。
やがて作り終えた食事をテーブルへと運び、向かい合わせに座った2人。
「いつ食べてもキミの料理は美味しいけど、今日は一段と美味しく感じるよ♥」
「そう？きっとヒソカも手伝ったからじゃない？」
「そうだね♠そうかもしれないな♦」

「ヒソカ、お酒呑む飲むでしょ？持ってくるよ」
食事を食べ終えた2人は、食器類を片付けると備え付けのソファーで寛いでいた。
「キミは飲まないのかい？」
「あー……私はいいや。ワイン苦手だし」
「そうなのかい？」
「ヒソカと一緒にいても、ビールとワインは飲んでないはずだよ」
「確かにそうだね……♣」
ナマエとは今までに数える位しか共に飲んだ事はないが、言われてみれば彼女が言う2種類は飲んでいるのを見た事がなかった。
「アルコールに関してはお子様舌なんだよね、残念ながら」
そう言いながら、ナマエはコーヒーを手にした。
「1人で飲んでもツマラナイな♣」
「そう？」
「うん♦」
「まぁ、1人で酔っても楽しくはないよね」
苦笑するナマエはキッチンへ行き、自分でも飲めそうなお酒がないかを探した。
「んー……」
「何かあったかい？」
ナマエの後を追う様に、ヒソカもキッチンへとやって来た。
「やっぱ何もないや」
『買ってくるかな……』と悩むナマエを、ヒソカは抱き寄せて制した。
「たしか、ジュースならあっただろう？」
「ん？あるけど……なんで？」
「ワインでカクテルを作れば、キミでも飲めると思ってね♠」
「ふーん……そんなのもあるんだね」
キッチンの冷蔵庫の中から、ヒソカはジンジャエールを取り出した。
「前にシャンパンは飲んでただろ？なら、コレも飲めると思うよ」
そう言ってヒソカはワインをジンジャエールで割った。
「どうぞ♥」
「ありがと……」